訳がわかんないやつ
翌日、土曜日なので学校はお休みだ。
しかし、部活は午前中のみある。
ちなみに日曜日は基本的には部活はお休みだけど、関東大会の予選を来週に控えているので、明日も午前中のみ練習が行われる。
まあ、普段から日曜日でも自主的に練習をしている部員にとっては一緒だ。
土曜日はいつもより少し遅めの登校だが、いつものようにコウが私達を起こしに来る。
三人揃っても、そこに会話はなかった。
コウを挟んで私と大は互いに顔を逸らしながら登校する。
道中、何度かコウのため息が聞こえた。
学校に着いて、剣道着に着替えて体育館に行くと、今日も体操着の原田と谷くんの姿があった。
「おはよう」
私は原田を無視して谷くんに挨拶をする。
「…お、おはようございます」
谷くんが少し辛そうに答えた。
おそらく筋肉痛で身体中が痛いのだろう。
「まあ、そのうち慣れてくるよ」
「…おいおい、俺は無視か?」
横から睨むように原田が顔を近づけてくる。
私は退きながら、怪訝な表情を浮かべた。
「…いたの?気がつかなかった」
「…はぁ?まあ、いいや。今日こそ沖田が稽古をつけてくれよな」
原田がそう言った瞬間、原田の後ろにコウの姿が見えた。
「だから、お前にはまだ早いと言っただろう。こっちへ来い」
「何でだよ!基礎なら昨日やっただろうがっ!」
体操着の後ろ襟を掴まれながら原田が抗う。
「たった1日でやったというな。まだまだお前には基礎練習が必要だ。いや、剣道において基礎練習が必要なくなることはない」
そう言って、昨日同様に強引に原田は連れて行かれた。
「じゃあ、僕も行きます」
谷くんは会釈して、原田が連れて行かれた方へと駆けていった。
私は小さなため息をついて、女子の練習側へと歩いていく。
原田が連れて行かれるときに、ふと大と目があったけれど、互いにそっぽを向いてしまった。
…何よ全く。
心中で悪態をついた。
女子の練習時間がある程度経過した時、いつものように相馬先輩に男子側に行ってきていいよと言われたが、今日は大会も近いからと無理矢理断る。
…今日は女子側でいい。
今は原田とあまり会いたくないし、大はあんなだし、今日は男子側に行って練習する気にはとてもなれなかった。
◯
練習が終わり、午前で解散となる。
いつもなら物足りないとコウや大に愚痴るけれど、今日は何も言わない。
「じゃあ、また明日な沖田」
原田が無邪気に私に手を振る。
その横で谷くんが力無く手を振っていた。
原田の全く疲れていない様子に、やっぱりあいつは只者ではないと感じる。
「…何だよあいつ。あんなにさっきまで疲れたって表情をしていた癖に、もうケロッとしてやがる」
私から一歩離れたところで誰に言うでもないように大が言った。
「まだあんなに余裕があったか?なら明日はもう少し課せても大丈夫だな」
大と私の間にコウがスッとやってきて、厳しいことを言う。
「コウにしては厳しいんだね?」
コウの顔を見て訊いた。
その時、奥の大と目が合うがすぐに逸らす。
「あれは剣道をなめている。少々、厳しめが丁度いい。…それに厳しさに耐えられるだけの器でもあるしな」
と珍しくコウが人を褒める。
それだけ原田に期待をしているんだろう。
男子剣道部にとってあいつの入部はきっとプラスになる。
…でも、私にとっては大いにマイナスだ。
「どうした?そんな仏頂面を浮かべて?」
コウが私の表情に気付いて訊く。
「…別に。さあ、帰ろうコウ」
そう言って、コウの手を引っ張った。
大の方には視線を向けずに…
「大はいいのか?」
私に引っ張っられながらコウが言った。
「いいの。あんな訳がわかんないやつ…」
そう言って、コウを連れて帰路に就く。
大はどんな顔をしているんだろう…?
私たちのあとについてきているのかな?
心配が頭をよぎるも、意地を張っている私は振り返らない。
…そもそも、何で私はこんなにも大に腹を立てているの?
…そうだ、大の態度がおかしいからだ。
コウと二人で何か私に隠し事をしている…
それが気に食わないんだ…
何かはっきりしないモヤモヤが私を更に苛つかせる。
来週、関東大会の予選を控えているのに、こんな精神不安で果たして大丈夫か今から心配になった。
まずは団体戦。
私たち新選高校女子剣道部の目標は1回戦突破だ。
1回戦を突破しなければ、誰も個人戦には出場出来ない。
男子もそうだ。
…だったら、私はこんな風に大といがみ合っている場合?
ふと湧いてくる疑問も私の意地っ張りがそれを許さない。
結局、私は一言も大と話さずに帰宅した。




