新入部員
放課後、深いため息をつきながら、剣道部が練習する体育館に向かった。
今日も一昨日や昨日のような無様な剣道をする訳にはいかない…
私は気を引き締めるため、途中の道で立ち上まり目を閉じた。
集中だ集中…
「…何やってるんだ沖田?」
その声にハッと目を開ける。
女性の声だった。
「永倉先生…!」
声の方に視線を向けると、白衣を羽織った永倉先生が立っていた。
「そんなところで急に立ち止まったら、怪我するぞ。…いや、お前の場合は怪我させるの間違いか?頼むから、むやみやたらに部員を保健室に怪我人を連れてくるなよ」
そう言って、永倉先生がニヤリと笑みを浮かべた。
その際、眼鏡がキラリと光ったような錯覚を覚える。
永倉先生の言葉に何も言い返せなかった…
なぜならそれが事実だからだ。
事実といっても私が直接怪我をさせた訳ではない。
練習相手が自分から勝手に腕を捻ったり、足をくじいたりして、要保健室行きになるだけだ。
だから、こんなことは言いたくないけれど、私から言わせれば本人の練習不足が原因だ。
「何か悩み事か?もし、そうだったらいつでも保健室に来い。暇だったら相談に乗ってやる」
永倉先生はそう言って、右手を上げながら立ち去っていく。
相談に乗ってやるという永倉先生の言葉に少し心が揺らぐ。
だけど、すぐに首を振った。
…相談事なんて私には必要ない。
そう心中で呟いて、部活へと向かう。
更衣室で着替えて、相馬先輩達と一緒に体育館へ行くと、男子部員が少し騒ついていた。
なんだろうと首を傾げ、コウの姿が目に入ったので、すぐにコウの元へといく。
「…何かあったの?」
私が訊くと、コウは黙って体育館の中央の方を指差す。
その方向へと視線を向けると剣道着姿ではなく体操服姿の男子が二人いるのが見えた。
そして、すぐにその一人が誰だか理解出来た。
「原田!?」
思わず私が叫ぶと、原田が私に気付いて駆け寄ってくる。
黒髪ばかりの生徒の中に一人金髪の原田はとても浮いているように見えた。
「…こんなところで何やってるのよ?一体、どういうつもり…?」
周りを気にして声のトーンを下げた。
「何って、剣道部に入部したに決まってんだろ」
原田が堂々とした態度で言う。
「はぁ!?何考えてるのよ!」
原田発言に驚き、つい大きな声で叫んでしまう。
「お前の側に少しでも居たいから…」
原田が不意打ちのようにこっぱずかしいことを言う。
「な、何を言ってるのよ!そんな邪までいい加減な気持ちで剣道をやられたら迷惑!」
「別にいい加減じゃねぇよ。確かにお前がいるってのが一番の理由だけど、それだけじゃねぇ。…なんとなく何か真剣に打ち込んでみようと思ったんだよ。それとも俺が剣道部に入るのにお前の許可がいるのか?」
「…うっ」
原田の真っ直ぐ過ぎる言葉に何も言い返せなくなり、ふと視線を原田から逸らすと、その後ろに原田と同じ体操着姿の人物に見覚えがあった。
「あっ、谷くん!?確か、谷くんだよね!?」
私がそう叫ぶと、それに気付いた谷くんが小走りで駆け寄ってきて原田の横に並んだ。
背が高くてしっかりとしたガタイの原田の横に並ぶと谷くんの小太り体型がより際立つ。
「…どうも。僕も原田君と一緒に剣道部に入ることになりました。よろしくお願いします」
谷くんが丁寧に頭を下げた。
「こちらこそよろしく谷くん。歓迎するわ」
「…おいおい。谷は歓迎して、俺は歓迎してくれねぇのかよ?てか、谷は谷くんで何で俺は原田くんじゃねぇんだ?」
原田が谷くんの顔の前に顔を出してきて私の視界を邪魔する。
「…あんたは呼び捨てでいいわよ。…別にあんたも真面目に剣道をやるというなら歓迎してあげるわよ」
私は小さな声でもそもそと話す。
「本当か?なら早速、練習相手になってくれよ?」
「駄目だ」
原田が私に訊いた直後、原田の背後にはコウが立っていた。
「…何でだよ?沖田は男子とも練習するって聞いたぜ」
「…ああ。でも、お前は素人だ。まずは基礎練習からに決まっているだろう。大体、いきなりちえと竹刀を交えれば怪我するぞ」
コウはそう言って無理やり原田の後ろ襟を掴んで連れ去っていく。
「いてぇな!離せよ!分かったから、ちゃんと基礎練習するから離せって!」
原田が叫びながらコウに引きずられていく様を谷くんと見ながら笑い合った。
…まあ、些か五月蝿くて不安はあるけれど、部員が増えるのはいいかと、仕方なく基礎練習を始めた原田を見ながら小さく微笑んだ。
すると、その近くにいた大と目が合った。
しかし、すぐに大は目を逸らして私に背を向ける。
…なんだなんだ?
私は首を傾げながら、女子の練習場所へと歩いていった。




