好きだからに決まってんだろ
次の日の朝は私達はいつも通りだった。
昨日の帰り道が嘘のように極めていつも通りの私達だ。
そのことに安堵し、私は忘れるように昨日のことを一切口にしなかった。
1-Aの教室に行くと山南さんと藤堂さんが心配そうな面持ちで寄ってきた。
「…昨日、大丈夫だった?」
山南さんが私の腕を掴んで訊いてきた。
おそらく原田のことを言っているのだろう。
「…殴られたり…襲われたりしていないよね?」
藤堂さんが大袈裟に心配する。
「大丈夫だよ。あいつは見た目はあんなだけど、中身はそんな悪いやつじゃないからさ」
「…何、何?それって意味深!まるで原田くんのことを分かっている発言じゃない?」
さっきとは打って変わって、藤堂さんのテンションが上がった。
「…そういう仲だったの?」
山南さんが藤堂さんの言葉を聞いて誤解する。
「違う違う!そんなんじゃないってば!」
思わず声をあげて否定した。
でも、昨日の出来事が頭に過ぎってくる。
好きだ!
原田の言葉が蘇ってきて、私はぶんぶんと首を振った。
「…大丈夫?」
私の様子のおかしさに山南さんが心配そうに訊いた。
「大丈夫…とにかく違うから、これ以上変な詮索はしないでね」
そう言うと、藤堂さんが相変わらずニヤニヤしているので、詮索はしてくるだろうなとため息を漏らした。
お願いだから、剣道にだけ集中させてください…
私は神に祈るように心中でそう願った。
◯
昼休み、山南さんと藤堂さんと一緒に弁当を食べ終えたあと、用事があると教室をあとにした。
1-Eの教室を廊下から窺うと、予想していた通り、原田の姿は教室にはなかった。
もしやと思い、この校舎の裏側に行ってみる。
すると、校舎の壁に背もたれて座っている原田の姿がそこにあった。
「…原田」
私の声に気付いた原田が驚いて立ち上がった。
「お、沖田!?どうしてここに…?」
原田の質問に答えずに私は原田に近づいていく。
そして、原田の目の前に来ると、立ち止まりゆっくりと口を開く。
「…教室にいなかったから、ここにいるかなと思って来てみたの」
「…そうか」
原田が少し恥ずかしそうに目を逸らす。
その態度に自然と苛立ちを覚えた。
「…何で昨日あんなことを言ったのよ?お陰で剣道に集中出来ないでしょ?どうしてくれるのよ!」
私は少し声を荒げた 。
「…は?…だから、好きだからに決まってんだろ!」
「何それ?私のことをそんなに知らない癖に何が好きよ!」
私の言葉に原田が反応した。
「知らなかったら好きになったら駄目なのかよ!俺はお前の凄く真っ直ぐなところに惚れたんだよ!悪いか!」
原田の迫力に…いや言葉に少し圧倒される。
私は何も言い返せなくなって、黙り込んでしまう。
そして、思わずその場から走って逃げ出した。
「…お、おい!待てよ!」
後ろから原田の声が聞こえたが、振り返らない。
簡単に好きだと言ったと思っていた原田にガツンと言ってやろうとしたのに、返り討ちに遭ってしまった。
私は走って校舎に戻ってきて、教室に戻る途中の廊下で苛立ちのあまり、髪の毛を掻きむしってしまう。
…一体、何なのよあいつは!?
案の定、午後からの授業は集中出来ずに終わった。




