やりますわね
火曜日になって、週末のインターハイ予選まで日が無くなってきた。
今回は団体戦。
私、一人の力ではなんともならない…
でも、相馬先輩も他の二年生もとにかく一生懸命だから、なんとか優勝して、本戦へと進みたい。
放課後に渚と誠子に別れを告げて、教室を出る。
「ちえっ」
教室を出たところでコウに呼び止められる。
振り返るとコウの後ろに伊東さんの姿があった。
「今日、伊東さんがお前の練習に付き合ってくれるそうだ。インターハイも近いからって伊東さん自ら申し出くれた」
コウの説明に後ろの伊東さんがすぐに恥ずかしそうな表情を見せた。
「ち、ちょっと土方くん!?そんなことは言わないでいいから…」
「えっ…?しかし、ちゃんと伊東さんのご厚意は伝えないと…」
コウがコウらしいことを言う。
へぇ…あの毅然とした伊東さんでもコウの前ではこんなんなんだと思わず笑みを浮かべた。
「俺は部活の前に生徒会があるから、先に二人で行っておいてくれ」
とコウが急いで離れていく。
「相変わらず土方くんはお忙しいのね?生徒会もあるのに、次は一年生で主将でしょ?大丈夫かしら?」
伊東さんが心配そうにコウの去っていく後ろ姿を見つめていた。
「えっ、主将のこと知ってるの?」
伊東さんの言葉に思わず驚く。
「知りませんわ。でも、二年生が二人でしかも大した実力はない。なら、実力もあって器がある土方くんが自ずと選ばれるものでしょう?近藤くんも悪くはないと思うけれど、やっぱり統率力を考えると彼の方が上かしら?」
「…そうだよね。やっぱりコウだよね…」
まあ、永倉先生が協力してくれるなら、コウも伸び伸びと主将を務められると思う。
「…それにしても、あなたやりますわね?」
突然の伊東さんの台詞に首を傾げた。
「えっ、何が?」
「…インターハイの個人戦ですわ。予選とはいえ、あっさり優勝してくるなんて…」
伊東さんがどこか恥ずかしげに言った。
きっと、自分が好きなコウはともかく、人を褒めるのにあまり慣れていないんだなと感じる。
「まあ、伊東さんがいなかったからね」
と正直に言った。
すると、伊東さんの顔があからさまに赤くなる。
「…な、何を仰っているの?さては私を褒めて練習に利用させるおつもりね?」
伊東さんの反応が凄く新鮮だ。
「そんなんじゃないよ。本当にそうだったから…何というか手ごたえが全くなかった。私の精神状態も良くなかったのに、それでも勝てた。決勝戦がもし伊東さんなら、間違いなく私は負けていた。別にお世辞なんて言っていない。本心を言っただけ」
と私の言葉を受けた伊東さんの顔がますます赤くなる。
「…まっ、当然といえば当然ですわ」
伊東さんの反応に思わずクスッと笑う。
「さあ、早く練習に行こ。早く伊東さんと打ち合いたくて仕方ない」
と伊東さんの手を取る。
「…ちょっと引っ張らないで下さる?」
伊東さんの抗議を無視して、伊東さんを引っ張って体育館へと急いだ。
そして、着替え終わるとすぐに伊東さんと練習を始めた。
色々と基礎練習に加え、地稽古に試合稽古。
やっぱり伊東さんは凄い。
むしろ前よりも上手くなっている。
おそらく家で練習をやっているに違いない。
やっぱり、伊東さんが剣道部に入れば団体戦でも勝ち上がれる気がしてくる。
「…今日、練習に付き合うのは、あなたが予選を優勝したご褒美みたいなものですわ」
と練習が終わって、面を取った伊東さんが私に言った。
「じゃあ、次はインターハイ優勝のご褒美に伊東さんが剣道部に入ってくれるのね?」
と笑顔で返す。
「優勝出来たらの話ですわよ?準優勝では無理ですわ」
と伊東さんがそっぽを向いた。
「まあ、あなたなら本当に優勝してしまいそうで恐ろしいですけれども…」
伊東さんの言葉にとりあえずはまず週末の団体戦を頑張らなきゃと気合いが入った。




