関東大会本戦
土曜日がやってきた。
週末の土日は関東大会男子団体戦の本戦だ。
試合は二日間で行われる。
予選で負けて出場出来ない女子はスタンド席からの応援だ。
怪我で出られない大も同じくスタンド席からの応援で、マネージャーも試合フロアには入れず、斎藤さんも私たちと一緒にスタンド席に座り応援する。
山崎先輩とコウと三年生、二年生のメンバー構成だ。
新撰高校に監督はいないため、生徒のみで試合フロアにいた。
対して、海援高校はしっかりとした監督が選手に向かって指揮している。
おそらく剣道の上段者で、監督としてだけ海援高校で雇われている人だろう。
…羨ましい限りだ。
と右隣に座る井上先生に視線を向けた。
すると、どうしましたか?と言わんばかりの表情を井上先生が浮かべる。
「…先生は監督として、下に行かないんですか?」
思ったことを正直に言った。
すると、井上先生は顔色一つ変えずただ「はい」答える。
それに思わずムッときた。
…何それ?
今日はたまたま試合に同行してくれたかと思えば、私たちと一緒にスタンド席から応援すると言う…
永倉先生はああ言っていたが、やっぱり私には井上先生が剣道部の事を考えているとは思えない。
「…沖田さんは私のことが嫌いですか?」
井上先生が笑顔で私に訊いた。
「…嫌いじゃないですけど、好きじゃないです」
とぶっきらぼうに答えた。
すると、井上先生がクスッと笑う。
ムッとなって、先生を見る。
「何がおかしいんですか?」
「…いえ、あまりに正直に答えるので、実に沖田さんらしいなと思いまして」
井上先生が首に掛けていたタオルで眼鏡のレンズを拭いた。
「…ち、ちょっと沖田さん。先生に失礼なこと言っちゃだめだよ」
と左に座っている相馬先輩がヒヤヒヤした表情を私に向けた。
「大丈夫ですよ相馬さん。沖田さんは悪いことは言っていませんよ。私は剣道部の顧問をしながら、実際には何も貢献出来ていない。今、あそこに彼らがいるのは全て彼らの自らの頑張りであって、私は何もしてあげられていないのです。ですから、沖田さんが私を好きではないのは仕方ありませんよ」
井上先生の台詞に好きではないと正直に言ったことを少しだけ悔やんだ。
「私があそこに行かない…いえ、行けないのは彼らが自らの頑張りで立っているあの場所の隣に立つ資格が私にはないからです」
井上先生が私の最初の質問の答えを口にする。
「…でも、先生は他の部の掛け持ちでやっているんですよね?なら、何も出来ないのは仕方ないし、資格がないとは私は思いません…」
と井上先生を擁護する。
「先生は何で部の掛け持ちをしているんですか?そもそも何で剣道部の顧問に?」
失礼だとは思うけれど、先生に訊ねた。
「誰もなり手がいなかったからです。前の顧問の方は剣道の経験者で周りからの評判も高かった。だから、比べられるのが嫌で剣道を経験している先生であっても、顧問を引き受ける先生はいなかったのです。私は剣道の経験もなく、まして他の部の顧問をしている身…勿論、私も引き受けるつもりはなかった。そんな時、山崎くんに掛け持ちで構わないから、顧問になって欲しいと頼まれたんです」
井上先生の話にそうだったんだ…と何も知らずに勝手なことを言っていたんだなと反省する。
「…すみませんでした。何も事情を知らないのに、私は勝手なことばかり…」
と謝った。
「いいんです。剣道部の力に慣れていない点では言われて当然なのですから」
井上先生が笑顔で言った。
なんて寛大な先生なんだろう…
ますますごめんなさいという気持ちになる。
「あっ、そうそう。永倉先生から話は聞きましたよ。永倉先生の時間がある時で構わないから、是非指導してくれるようにお願いしておきました」
「本当ですか!?」
井上先生の言葉に思わず立ち上がる。
「沖田さん!」
相馬先輩が大きな声で立ち上がった私を注意した。
「…すみません」
としゅんとして座る。
「でも、今の三年生が正式に引退してからです。永倉先生曰く、三年生たちは今まで指導者なしにやってきたのに急に指導者が現れたら、彼らの今までの頑張りに水を差すと、あくまで三年生がいなくなって大変だからという名目で引き受けたいそうです」
井上先生の話にこくりと頷く。
流石は永倉先生…ちゃんと山崎先輩たちのことを考えてるんだな…
「あと、監督についても永倉先生は考えているそうですよ?何でもアテがあるとか」
井上先生の言葉にえっ?となるも、そろそろ男子の試合が始まりそうなので、試合フロアへと視線を向けた。
「さあ、とりあえず今は応援しましょう」
と優しく井上先生が私に言った。
それに私は笑みを浮かべて「はい」と答える。




