達兄との関係
「こらっ沖田。声がデカい…」
と永倉先生が人差し指を自分の口元に当てて、私を注意した。
「だって、永倉先生があまりにもびっくりするようなことを突然言い出すから…」
達兄と永倉先生が同級生!?
ん?達兄も和兄も私とおんなじこの新撰高校の卒業生だ。
「…ってことは永倉先生もこの学校の卒業生なんですか?」
「ああ、そうだ。ここは私の母校だ」
と永倉先生さらりと認めた。
永倉先生が新撰高校の卒業生でしかも剣道部のOG!?
…全く知らなかった。
「じゃあ、達兄とは剣道部で一緒に練習していたんですか?」
「当たり前だろ同じ剣道部員なんだから。和哉とも一緒に練習していたぞ。まあ、期間は少なかったがな。私が三年生で和哉が一年生でって…まあ、達哉と同級生と言った時点でそれは分かるか?」
と永倉先生が説明を省く。
「…にしても、当時の私は和哉は和哉だったが、達哉の方は沖田と読んでいたからいざ名前を言うと照れ臭くて仕方ない。沖田に話すのに沖田じゃややこしいだろ?」
永倉先生の言葉に相槌を打つ。
永倉先生の表情になんだか達兄と永倉先生の間柄が想像出来る。
「…永倉先生は剣道部の顧問にはならないんですか?」
もっと、達兄と永倉先生の話を聞いていたかったが、心の中で芽生えた感情が表に出る。
私の台詞に永倉先生が困った表情を浮かべた。
「…まあ、剣道部の事情は知っている。お前がそう言う気持ちも分からなくはない。ただ、そういう簡単な問題じゃないんだ。顧問を引き受けたからには適当とはいかない。沖田も知っているが私にはあの事務所がある。正直なところ保健室の先生と探偵を両立させるのも満足にはいっていない…そこに剣道部の顧問は無理だ」
永倉先生が頭をポリポリと掻きながら、私に説明した。
「…ですよね?変なことを言ってすみません…」
としゅんとなる。
「…ったく、あからさまな表情をするな。私も出来ることなら力になってやりたい。私たちの時はちゃんとした指導者がいたからな。だからこそ、今の剣道部は偉い。本当に山崎はよくやっている」
永倉先生が頷きながら山崎先輩を褒めた。
「…あと、今の顧問の井上先生に失礼だぞ?たしかに井上先生は試合にはついて行けない時もあるが、他の部との掛け持ちでやっていて、お前らが困らないようにと色々と手続きをしてくれているんだ。それを簡単に私に顧問をとは、あんまりじゃないか…」
永倉先生が私を窘める。
…古文の井上先生。
実際の年齢は知らないが、五十過ぎの男の先生だ。
眼鏡をかけていて、優しい先生のイメージである。
練習にはあんまり顔を出さないが、練習に来る時はいつも労いの言葉を掛けてくれる。
「…すみません」
と素直に謝る。
「まっ、たまに指導をするのは出来るかもしれん。井上先生と一度話してみる。山崎がいなくなると色々と大変だからな…」
永倉先生の台詞に思わず顔を上げた。
すると、永倉先生が顔を顰める。
「…と言ったか、あくまで出来るかもだぞ?期待はするな?」
永倉先生が忠告する。
「はい!」
と深々と頭を下げた。
「…思いっきりしとるじゃないか」
永倉先生がため息を吐く。
「そろそろ部活に行け。お前の兄たちとの話をしてやったんだ。今度はちゃんとお前の恋愛の話をしに保険室に来るんだぞ?」
永倉先生が期待の眼差しを私に向けた。
「…保険室はそんな話をしに行く場所ではありません。では部活に行きますね」
と踵を返して、体育館の更衣室へと向かうため歩き出す。
すると、背後から永倉先生の舌打ちが聞こえてきた。




