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元ホームセンター店長、異世界で過剰防衛に目覚める〜ゴミスキル【鬼ごっこ】でタッチした瞬間に、傲慢勇者が全人類から殴られる〜  作者: 月神世一


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EP 3

「店長、ただいま!」マッハ1の兎姫と、最強ゆえの呪い(吐血)

ズガァァァァァァンッッ!!!

天地を揺るがすような轟音と共に、山のように巨大だった合成死蟲将軍機ネクロキメラ・ジェネラルの上半身が、文字通り消し飛んだ。

凄まじい衝撃波がポポロ村の入り口を舐め回し、巻き上げられた土煙が視界を白く染め上げる。

バラバラになった死蟲機の残骸と、黒々とした魔石の破片が、雨のように降り注いだ。

「な……っ!?」

粘着シートに張り付いたまま、勇者ゼロスが信じられないものを見るような目で宙を見上げた。

ガタガタと震えていた秋月冬夜トーヤもまた、降ってくる魔物の残骸をタローマン製の防弾ヘルメットで弾きながら、目を丸くしてその「影」を追った。

土煙が、ゆっくりと晴れていく。

そこに立っていたのは、一人の少女だった。

動きやすい現代風のラフなジャケットに、ショートパンツ。足元には、ドワーフの鍛冶技術とタローマンの素材が融合した「特注の安全靴」を履いている。

頭には、感情に合わせてピコピコと動く、長いウサギの耳。

元・レオンハート獣人王国の第三姫君にして、現・ポポロ村の村長。

キャルル・ムーンハート(20歳)だ。

「もう……出張から帰ってきてみれば、村の前でこんな大きな魔物が暴れてるなんて。自警団の皆は、ちゃんとシフト通りに見回りしてくれてるのかな?」

キャルルは、服の袖についたホコリをパンパンと払いながら、呆れたようにため息をついた。

その背後で、上半身を失った死蟲将軍機の巨体が、ズズゥン……と地響きを立てて倒れ伏す。

たった一撃。

100mを5秒台で駆け抜ける月兎族の脚力と、驚異のジャンプ力。それを極限まで研ぎ澄ませた彼女の必殺技『流星脚メテオ・ストライク』は、約33,750ジュールという、もはや歩兵の持つ火器を凌駕する物理的破壊力を叩き出す。

しかも、その足先には鋼鉄の鉄芯が入った特注安全靴だ。どんな装甲だろうと、豆腐のように貫かれる。

「あ、あわわわわ……っ」

ゼロスの歯の根が合わず、カチカチと音を立てていた。

神の加護を受けた自分ですら、あんな巨体を一撃で粉砕することなど不可能だ。目の前にいるのは、愛らしいウサギの耳を生やした少女の皮を被った、規格外のバケモノである。

「ひぃぃぃぃっ!!」

極限の恐怖が、ゼロスに火事場の馬鹿力を与えた。

彼は「バリッ!!」と自分の皮膚と高価な課金装備が剥がれるのも構わず、タローマン製の超強力粘着シートから強引に身を引き剥がした。

「お、覚えてろよおおおっ!! ワイズ様の加護がある俺を敵に回して、ただで済むと思うなよぉぉっ!!」

三流の捨て台詞を吐きながら、ゼロスは這いつくばるようにして逃げ出した。

彼の背中を、洗脳が解け切っていない鳥型魔獣たちが猛烈な勢いでつつきながら追いかけていく。

「あー……。逃げられちゃいましたね。まあ、いいか。とりあえず死蟲機は倒したし」

キャルルは逃げていく勇者の背中をチラリと見た後、すぐに興味を失ったように視線を外した。

そして、安全圏で腰を抜かしかけているトーヤの姿を見つけると、頭のウサギ耳をピンッと垂直に立てた。

「あ! 店長さーん!」

パァァッ、と。

凄まじい破壊と殺戮の直後だというのに、キャルルの顔に花が咲いたような極上の笑顔が浮かんだ。

彼女はタタタッ、と軽い足取りでトーヤの元へ駆け寄ってくる。

「ただいま帰りました、店長! いやぁ、隣の領主との交渉、すっごく疲れちゃいましたよ。でも、ポポロ村の農作物の取引ルート、しっかり確保してきましたからね!」

そう言って笑うキャルルは、どこにでもいる普通の、年相応の可愛い女の子だった。

とても数秒前にマッハ1の飛び蹴りで怪獣を粉砕した存在には見えない。

「お、おう……お疲れ、キャルル。お前が帰ってきてくれて、本当に助かった。正直、俺の胃に穴が空く5秒前だったからな……」

トーヤは大きく安堵の息を吐きながら、ガチガチに強張っていた全身の力を抜いた。

「えへへ、私にかかればあんなのイチコロですよ! そうだ店長、これお土産です!」

キャルルは上着のポケットをごそごそと探り、可愛らしいニンジン柄の手作りハンカチに包まれたものを取り出した。

「出張先で、ハニーかぼちゃをたっぷり使ったクッキーを焼かせてもらったんです。店長、最近シフトの管理で夜遅くまで起きてるから。甘いもの食べると、疲れも取れますよ! はい、あーん……」

キャルルが満面の笑みで、クッキーをトーヤの口元へ差し出そうとした、その時だった。

「——ガ、ハッ……!」

突如、キャルルの喉の奥から、くぐもった破裂音が漏れた。

彼女の顔からスッと血の気が引き、白蝋のように蒼白になる。

「え……?」

トーヤが怪訝な顔をした瞬間。

ゴフッ、と。

キャルルの小さな唇から、おびただしい量の鮮血が吐き出された。

「なっ……!?」

真っ赤な血飛沫が、彼女の持っていたニンジン柄のハンカチを汚す。

キャルルの瞳から焦点が失われ、その華奢な体が、糸の切れた操り人形のようにグラリと傾いた。

「おい! キャルルッ!!」

トーヤは咄嗟に防弾チョッキの重さを忘れ、地面に倒れ込もうとするキャルルの体を全力で抱き留めた。

「ゲホッ、ゴホッ……あ、れ……? 私、なんで……血、なんか……」

トーヤの腕の中で、キャルルが力なく虚空を彷徨うように手を伸ばす。

その手はひどく冷たかった。

トーヤの顔に、先ほどの魔物と対峙した時以上の、純粋な『焦燥』が走る。

(……そうだ、忘れていた。こいつの力は、無敵なんかじゃない!)

月兎族。

月の満ち欠けによって力を得て、満月時には完全回復と圧倒的な身体能力の向上(ハイ状態)を引き起こす特異な種族。

しかし、それはあくまで「自然のサイクル」の中での話だ。

昼間の、しかも満月でもないこの状況下で、マッハ1を超える速度で動き、巨大な死蟲機を粉砕するほどの闘気を練り上げる。

それはつまり——**『自分自身の細胞と寿命を強制的に前借りして、燃やし尽くしている』**ということだ。

身体能力が規格外であっても、それを支える肉体そのものは生物の限界を超えられない。

マッハの衝撃は、敵だけでなく、彼女自身の内臓や筋肉をもズタズタに引き裂いていたのだ。

「馬鹿野郎……ッ! なんでこんな無茶をした! 自分の体がどうなるか分かってただろうが!」

「だって……」

血に染まった唇を微かに動かし、キャルルが微笑んだ。

「……大切なポポロ村に、店長が作ってくれた大事な場所に……変なゴミが、土足で上がり込もうとしてたから……」

「喋るな! 傷が開くぞ! クソッ、ポーションは……俺のインベントリのポーションじゃ回復量が足りない……!」

トーヤは自身の無力さに歯を噛み鳴らした。

クレーム処理やシフト管理ならいくらでもできる。タローマンの資材で罠を張ることもできる。

だが、目の前で血を流して倒れる少女の命を繋ぎ止めるような『絶対的な力』を、秋月冬夜は持っていないのだ。

「店長……」

「なんだ、言ってみろ。欲しい物があるなら、タローマンの在庫を全部ひっくり返してでも持ってくるから」

「ふふ……ううん。物じゃなくて……」

意識が朦朧とする中、キャルルはゆっくりと顔を動かし——トーヤの胸元に、自分のウサギの耳をそっと押し当てた。

「……少しだけ、店長の心音、聴かせて……」

ドクン、ドクン、ドクン。

トーヤの心臓は、警鐘のように激しく、そして不格好な音を立てて鳴っていた。

キャルルはその音を聴きながら、ゆっくりと目を閉じる。

読んでいただきありがとうございます。

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