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元ホームセンター店長、異世界で過剰防衛に目覚める〜ゴミスキル【鬼ごっこ】でタッチした瞬間に、傲慢勇者が全人類から殴られる〜  作者: 月神世一


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18/19

EP 3

「時間も命も全部奪いたい」強欲な人魚姫と、悪徳プロデューサー(店長)の契約

翌日の昼下がり。

ポポロ村の村長宅の一室(現在はトーヤの仮設オフィス)に、芋ジャージ姿のリーザが呼び出されていた。

「……で。昨日の夜、防壁の上で歌ってたのはお前だな?」

トーヤは、タローマン製のパイプ椅子に深く腰掛け、ブラックコーヒーをすすりながら切り出した。

「ひっ!? み、見られてましたの!?」

リーザがビクッと肩を跳ねさせ、ジャージの襟をギュッと掴む。

「ああ。お前が歌い出した途端、森にいた死蟲機や牙狼の残党が、まるで熱狂的なファンのように大人しく座り込んでいたのを見た。……お前の歌には、ただのバフ(支援)じゃない、強烈な『精神支配チャーム』の力が宿っているな?」

クレーム対応で培ったトーヤの観察眼は誤魔化せない。

図星を突かれたリーザは、いつもの図太いニート娘の顔から一転、スッと冷たく、そしてどこか『怯えた』ような瞳で俯いた。

「……そうですわ。私の歌は、ただの綺麗な音楽じゃありませんの」

リーザは、自嘲気味に笑った。

その表情は、彼女が本来持つ『人魚姫』としての神秘性と、深い業を感じさせるものだった。

「私がステージに立って本気で歌うと……ファン達の『時間』を奪うことができるんです」

「時間を奪う?」

「はい。みんな、仕事や生活で辛いことや、考えなきゃいけないことがたくさんあるはずなのに。私が歌っているその瞬間だけは、全部忘れて、私だけを見てくれるんですの」

リーザの瞳の奥に、ただの純真さではない、ある種の『狂気』にも似た執着の炎が揺らめいた。

「時間は、命そのものですわ。だから私は……ファン達の『世界』そのものになりたい。彼らの視線も、おスパチャも、時間(命)も、何もかもを全部奪い尽くして……その代わり、彼らの人生に『宇宙一の幸せな時間』を味わわせてあげるんです」

それは、究極の強欲。

「愛も富も同じ輝き」と信じて疑わない、完全なるアイドル哲学。

しかし、リーザはその小さな手をギュッと握りしめ、震える声で言葉を紡いだ。

「でも……そんな恐ろしい力、普通の人は気味悪がりますわ。私が歌わなければ、ただの大食いで、家賃も払えない、役立たずのヒモ……。童話の人魚姫みたいに、誰にも愛されずに、海の泡になって消えちゃうんですの……っ!」

そう。

彼女の強欲さと狂気の裏にあるのは、強烈な『見捨てられることへの恐怖』だった。

自分には歌で他人を支配(魅了)する価値しかない。もしそれを否定されたら、自分はここに居てはいけないのではないか。

涙ぐむリーザを見て、トーヤは大きくため息をついた。

「(……なるほどな。なんちゅう重い承認欲求だ)」

トーヤは、机の引き出しを開け、一枚の書類を取り出した。

タローマンで印刷した『アルバイト雇用契約書』である。

「リーザ。お前は一つ、勘違いをしている」

「え……?」

「ここはルナミス帝国の華やかなステージじゃない。辺境のポポロ村だ。お前が歌おうが歌うまいが、俺はお前に毎日三食、ルナキンのまかないを食わせてやる」

トーヤの言葉に、リーザが目を丸くした。

「そ、そんなのダメですわ! アイドルは施しなんて受けません! それじゃあ、ただの寄生虫ですの!」

「だから最後まで聞け」

トーヤは書類を机に叩きつけ、タローマン製のボールペンをリーザの前に転がした。

「お前は歌わなくても、俺のシフト(居場所)にいていい。……だが、お前がどうしても自分のプライドのために歌いたいと言うなら」

トーヤは、防弾チョッキを重ね着した不格好な姿のまま、しかし、世界中のどんな権力者よりも頼もしい『店長の顔』で、リーザを真っ直ぐに見据えた。

「俺が、お前の狂気を100%引き出せる『最高のステージ(盤面)』を用意してやる」

「……最高の、ステージ?」

「ああ。お前のその『他人の時間と命を奪い尽くす強欲な力』は、普通の客に向けたらただの営業妨害だ。だが——うちの村を理不尽に荒らしに来る『悪質なクレーマー(敵)』に向けるなら、これ以上頼もしい力はない」

トーヤはニヤリと笑った。

「俺がすべてのリスクを管理する。防衛線を引き、敵のヘイトを集め、お前が絶対に傷つかない安全なステージを作り上げる。だからお前は、そのみかん箱の上で、遠慮なく敵の命と時間を奪い尽くしてこい。……どうだ、悪くない契約だろ?」

それは、リーザの抱える狂気と強欲を、1ミリも否定しない『完全なる肯定』だった。

ただの「可哀想な女の子」として扱うのではない。

村の防衛を担う「最強の広報アイドル」として、彼女の力を必要としているのだと、明確に提示してくれたのだ。

ドクン、と。

リーザの心臓が、これまで感じたことのない激しい音を立てて跳ねた。

目の前の男は、魔力も戦闘力もない。ただの裏方の店長だ。

でも、彼の言葉には1ミクロンの嘘もない。絶対に自分を見捨てないという、強固な意志エモが宿っていた。

「(あぁ……私、見つけちゃいましたわ)」

リーザの瞳から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちる。

同時に、彼女の心の中に『新たな狂気』が芽生えた。

ファンの時間もお金も奪いたいけれど——この目の前にいるプロデューサーの全部は、絶対に誰にも渡したくない、と。

「……はいっ!!」

リーザは涙を拭い、満面の、それはもう宇宙で一番輝くアイドルスマイルを浮かべて、雇用契約書にサインを書き殴った。

「私、やりますわ! 店長様のためなら、銀河の果てまで歌って行けますの!」

「よし、契約成立だ。これでお前は今日から、ポポロ村の正式な広報チーフだ」

「ふふっ……違いますわ」

リーザは、机を乗り越えるような勢いでトーヤに身を乗り出し、その首にギュッと抱きついた。

「今日からあなたは、私だけの『プロデューサー』ですの♡ 一生、私を養って(プロデュースして)くださいね!」

「お、おい! 近い! いい匂いさせるな!」

極貧の地下アイドルが、絶対無敵の専属アイドルとして覚醒した瞬間だった。

***

——そして、翌朝。

ルナキン(ファミレス)の朝食バイキングの時間。

「プロデューサー♡ はい、あーん、ですわ!」

「お、おう……サンキュ。って、なんでお前、俺の膝の上に座ってんだよ」

「アイドルの特権ですの! ささ、次は私がこの極上ウインナーをいただきますから、プロデューサーが私の口に運んでくださいな!」

芋ジャージ姿のリーザが、トーヤの膝の上にちょこんと座り、キャッキャと甘い声を上げながら朝食をエンジョイしていた。

昨日からすっかり『プロデューサーと担当アイドル』の距離感バグを引き起こしているリーザに対し、トーヤも(図太い奴だと思いつつ)クレーム対応の一環として渋々付き合っている状態だ。

——ギギギギギギギッ。

その時。

ルナキンの入り口のドアが、蝶番を引きちぎらんばかりの勢いで開かれた。

「あら。リーザちゃん、ずいぶんと……『楽しそう』ですね?」

そこに立っていたのは、ポポロ村村長にして、元・月兎族の姫君。

キャルル・ムーンハートだった。

彼女の頭に生えている長いウサギの耳は、尋常ではないほどピンッ! と垂直に逆立っている。

その瞳のハイライトは完全に消失しており、手には愛用のダブルトンファーがギリギリと音を立てて握りしめられていた。

「キ、キャルル!? おはよう……」

トーヤの背筋に、尋常ではない悪寒が走る。魔物と対峙した時よりも恐ろしい、絶対零度のプレッシャー。

「私のヒモの分際で……ずいぶんと図々しい場所に座っていますね、泥棒猫(人魚)」

「あら、これはキャルル。遅いですわよ? 私は今、プロデューサーと朝のミーティング(イチャイチャ)をしているところですの」

「……ほう?」

ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

キャルルの全身から、マッハ1の速度を生み出す『闘気』がドス黒く立ち上り始めた。

「店長の隣は、私の指定席シフトです……。今すぐそこを退きなさい、このポンポコ腹太鼓!!」

「退きませんわ! アイドルは常にセンター(膝の上)を陣取るものですの!」

「「(バチバチバチバチッ!!)」」

「お、お前ら! 店内で争うな! ルナキンの備品が壊れるゥゥッ!!」

トーヤの悲鳴が虚しく響き渡る。

極貧人魚姫と、重すぎるヤンデレ兎姫。

ポポロ村のヒロインシフトを巡る血で血を洗う抗争が、今まさに勃発しようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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