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元ホームセンター店長、異世界で過剰防衛に目覚める〜ゴミスキル【鬼ごっこ】でタッチした瞬間に、傲慢勇者が全人類から殴られる〜  作者: 月神世一


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14/18

EP 14

俺のチームは宇宙一だ。確率100倍の剣撃と、1億ボルトの飛び蹴り(メテオ・ストライク)!

ポポロ村の上空。

雲の隙間から差し込む満月の光を背に受けて、キャルル・ムーンハートは宙を舞っていた。

「ア、アァァァッ……! クソッ、動け! 俺の体、動けェェッ!」

防御を完全に剥がされ、空中に打ち上げられた勇者ゼロスが、無様に手足をバタつかせている。

だが、フェイトの100倍の神速による斬撃は、ゼロスの装甲だけでなく、彼の平衡感覚や神経すらも一時的に麻痺させていた。空中のゼロスは、完全な『的』だった。

キャルルの脳内では、未だに【鬼ごっこ】のシステムが『店長を殺せ』とけたたましい警告音を鳴らしている。

その嫌悪感とノイズを、彼女は極限の『怒り』と『愛』で強引に上書きした。

バチィィィィィィンッッ!!

キャルルが履いている特注の安全靴——タローマンの資材とドワーフの技術が結集したその靴底に仕込まれた『雷竜石』が、限界を超えて明滅する。

通常であれば雷竜のブレス数発分に相当するその莫大なエネルギーが、満月ハイ状態のキャルルの闘気と完全に融合した。

空間が紫電に染まる。

大気がプラズマ化し、バチバチと鼓膜を焼くような音が戦場を支配した。

「(……私に、初めて『居場所』をくれた人)」

キャルルの視界の端に、泥だらけになってへたり込んでいる秋月冬夜トーヤの姿が見えた。

戦闘力ゼロのくせに。世界で一番のビビリのくせに。

自分の寿命が削れるのを誰よりも怒り、自分の体を張って敵のヘイトを全部引き受けてくれた、世界で一番かっこいい元・店長。

「(あの人から私を奪おうとする奴は……神様だって、許さないッ!)」

キャルルは空中で体を丸め、凄まじい遠心力を生み出しながら前方宙返り(フロントフリップ)を打った。

紫電の雷光が、彼女の右足のつま先に、一点集中で収束していく。

100メートルを5秒台で走る脚力。

そこから生み出されるマッハ1の初速。

さらには雷竜石の完全解放による、1億ボルトの極大雷撃。

物理エネルギーと魔法エネルギーの異常な掛け合わせは、およそ277トンという、もはや単一の兵器を凌駕する規格外の破壊力となっていた。

「私の店長に……二度と、近づくなァァァァァァッ!!」

キャルルの右足が、流星となって振り下ろされた。

『——超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)ッッ!!!』

「や、やめろォォォォォォォォォ——」

ゼロスの絶叫は、最後まで紡がれなかった。

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!

キャルルのつま先がゼロスの腹部にクリーンヒットした瞬間、音より先に『光』が爆発した。

物理法則を完全に無視した衝撃波が、ポポロ村の防壁外の空間をすり鉢状に抉り取る。

ゼロスの体は、文字通り『砲弾』と化した。

1億ボルトの紫電を纏いながら、マッハの速度で地面に向かって一直線に射出される。

そして、その射線上には——トーヤを追って密集していた、数千匹の死蟲機ネクロバグと、巨大な合成死蟲将軍機ネクロキメラが待ち構えていた。

ズガガガガガガガガガガガッッ!!!

「ギシャァァァァァァァァッ!?」

ゼロスという名の人間大砲が、死蟲機の大群を次々と貫通していく。

ぶつかった魔物から順に、紫電の雷撃で炭化し、直後に277トンの運動エネルギーで塵も残さず粉砕されていく。

巨大な合成死蟲将軍機でさえ、ゼロスが腹を突き破った瞬間に内部から雷光が弾け、風船のようにパンッと破裂した。

雷鳴と爆発。

そして、大地を揺るがす大地震。

ポポロ村の広場にへたり込んでいたトーヤは、あまりの衝撃に両手で耳を塞ぎ、地面にうずくまった。

暴風が吹き荒れ、タローマン製の作業着がバタバタとはためく。

やがて——。

鼓膜を揺らす轟音が止み、静寂が訪れた。

「……あ、あははっ」

泥だらけのトーヤが恐る恐る顔を上げると、防壁の外に広がっていた『死の海』は、完全に消滅していた。

数千いたはずの死蟲機の群れは、一匹残らず黒い灰となって風に舞っている。

そして、その灰の真ん中。

隕石が落ちたような巨大なクレーターの底で、課金勇者ゼロスが、全身から黒煙を上げながらピクピクと痙攣していた。

「終わっ……たのか……?」

トーヤが呆然と呟いた、その時。

「てん……ちょう……っ」

ドサリ、と。

トーヤの胸元に、空から降り立ったキャルルが崩れ落ちてきた。

限界を超えた力を解放した反動で、彼女の体は立っていることすらできず、ウサギの耳もしおしおと垂れ下がっている。

「キャルル!」

トーヤが慌ててその華奢な体を抱きとめた。

『————条件達成』

『対象(鬼)である秋月冬夜が、接触による解除条件を満たしました』

『ユニークスキル【鬼ごっこ】の効果を終了します』

キャルルがトーヤの体に直接触れた(抱きついた)ことで、システム音声が鳴り響く。

世界を覆っていた『トーヤへの絶対的な殺意ヘイト』の呪縛が、完全に霧散して消え去った。

「あ、あぁ……よかった。店長のこと、大好きって……思えるように、戻った……」

キャルルは、トーヤの胸に顔を埋めたまま、安心したようにポロポロと涙を流した。

「ごめんなさい、店長……。私、さっき店長のこと、大嫌いって……」

「バカ言え。お前が泣くことじゃない」

トーヤは、ボロボロになったキャルルの背中を、不器用な手つきで優しく撫でた。

「俺の方こそ、すまなかった。お前たちに、あんなクソみたいな感情を無理やり押し付けた。……でも、お前らはシステムに洗脳されても、俺を守ってくれた」

ザッ、ザッ。

足を引きずりながら、フェイトが歩み寄ってきた。

彼の手から銀貨がポロリとこぼれ落ちる。100倍のステータスバフが切れ、凄まじい反動と疲労が彼を襲っているのだ。

「……たく。とんでもねぇブラック労働させやがって。今月の給料、割増しにしてもらわねぇと割に合わねぇぜ、店長」

フェイトは、悪態をつきながらも、どこか晴れやかな顔で笑っていた。

「ああ、いくらでも払ってやるよ。……お前ら、本当に最高だ」

トーヤは、キャルルを抱きしめながら、フェイトに向かって親指を立てた。

「どんなマニュアルにも載ってない、最狂で最高の連中だ。——俺のシフト(チーム)は、間違いなく宇宙一だよ」

三人の間に、確かな絆の温もりが流れる。

理不尽な神のゲームの中で、最弱の店長と、欠陥だらけのアルバイトたちが、完全勝利を収めた瞬間だった。

——だが。

感動の余韻に浸るキャルルとフェイトを横目に、トーヤの瞳の奥には、再び『冷徹な経営者』の光が宿っていた。

「……さて。お前らはここで休んでろ。俺はもう一つ、店長としての『残業(クレーム対応)』を片付けてくる」

トーヤは、タローマン製の安全靴で泥を踏みしめながら立ち上がった。

そして、ゆっくりと——巨大なクレーターの底で、ピクピクと痙攣している勇者ゼロスの元へと歩み寄っていく。

「あ……がっ、がぁ……」

ゼロスは仰向けに倒れ、白目を剥いて泡を吹いていた。

課金に数億ゴールドを注ぎ込んだ神聖な鎧は消し飛び、残っているのはボロ布のような下着だけだ。

彼が頼りにしていた炎上神ワイズからの『加護』の光も、先ほどのキャルルの蹴りで完全に霧散し、消え失せていた。

「俺は……俺は……勇、者だ……。選ばれし……神の……」

うわ言のように、壊れたレコードのように呟き続けるゼロス。

トーヤは、そんな彼を見下ろし、一切の感情を交えない冷酷な声で言い放った。

「お前はもう勇者じゃない。ただの『悪質な迷惑客』だ」

トーヤは、作業着のポケットに手を入れた。

物理的な戦闘は、フェイトとキャルルが完璧に終わらせてくれた。

だが、このヤラセ事件を根本から解決するためには、ゼロスという男を『社会的』に完全に抹殺し、神々の番組ゴッドチューブそのものを大炎上させる必要がある。

「安心しろ、ゼロスさん。お前の大好きな配信は、まだ繋がったままだぞ」

トーヤの手には、葉っぱをブルブルと震わせている、一際色の濃い野菜が握られていた。

村の秘密兵器——『特ダネ級・ネタキャベツ』である。

「さあ、業務の総仕上げ(ざまぁ)といこうか」

読んでいただきありがとうございます。

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