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元ホームセンター店長、異世界で過剰防衛に目覚める〜ゴミスキル【鬼ごっこ】でタッチした瞬間に、傲慢勇者が全人類から殴られる〜  作者: 月神世一


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13/18

EP 13

「システムを砕くプライドと、1%の奇跡」強制された殺意をねじ伏せる、最高の仲間たち

極大の光刃が、秋月冬夜トーヤの首筋に向かって振り下ろされる。

泥にまみれ、無様に転倒したトーヤの瞳に、死の閃光が焼き付いた。

逃げ場はない。トラップもない。

自分に【鬼ごっこ】を使ったのだ、当然だ。味方からの援護すら期待できない。この村にいる全生物が、今、トーヤの死を望んでいるのだから。

「(……ああ。でも、これでいい)」

トーヤは、ゆっくりと目を閉じた。

自分が死ねば、スキルの効果は解除される。ヘイトの対象を失った死蟲機ネクロバグたちは烏合の衆に戻り、キャルルやフェイトなら難なく逃げ延びることができるはずだ。

前世では守れなかったシフトを、今度こそ守り抜くことができた。

そう、これで——。

「(……いや、本当は)」

死の直前、恐怖でガタガタと震える心臓が、素直な本音を吐き出した。

「(……死にたくない。あいつらと、もっと一緒に……バカやりたかったな)」

——ガキィィィィィィィィンッッ!!!

直後。

トーヤの首を刎ね飛ばすはずだったゼロスの光刃が、真横から凄まじい衝撃を受けて大きく弾き飛ばされた。

「……な、に?」

ゼロスが驚愕に目を剥き、トーヤがゆっくりと目を開ける。

火花を散らし、光刃を強引に受け止めていたのは——鈍く輝く、大振りのミスリルソードだった。

「フェイ、ト……!?」

そこには、ポポロ村自警団リーダー、フェイト・ラックが立っていた。

だが、その姿は異様だった。

彼の両腕は、自身の筋肉が悲鳴を上げるほどにギリギリと震えている。剣の柄を握る手からは、力が入りすぎたせいで血が滲んでいた。

何より、彼の顔面は、尋常ではない苦痛に歪んでいたのだ。

「……はぁ、はぁ……」

フェイトの脳内では、ユニークスキル【鬼ごっこ】によるシステムの強制力が、けたたましい警告音を鳴らし続けていた。

『目の前のトーヤを殺せ』『宇宙一の害悪だ』『大嫌いな汚物だ、今すぐ剣を振り下ろせ』。

絶対的な世界のルール。逆らうことなど許されない、システムによる洗脳。

それでも、フェイトは剣をトーヤに向けなかった。

彼の中にある『ギャンブラーとしての意地』と『悪友への情』が、システムの強制力に真っ向から反逆していたのだ。

「あぁクソ! 今、お前の事は大っ嫌いだ!」

フェイトは、血の滲むような声で吠えた。

「……けどよぉ! それでお前に剣をむけんのは、俺のプライドが許さねぇ!!」

「フェイト……お前……っ」

トーヤの目から、ブワッと涙が溢れ出した。

「馬鹿な……!? スキルの強制力に逆らっているだと!? そんなこと、あり得るはずが——」

ゼロスが狼狽する中、トーヤを庇うように、もう一つの小さな影が躍り出た。

「——私を舐めないでよね!」

両手にダブルトンファーを握りしめ、ボロボロと大粒の涙を流しながら立ちはだかったのは、キャルルだった。

彼女の頭の中でも、同じように『店長を殺せ』という呪いが渦巻いている。大好きなはずのトーヤの顔を見るだけで、胸糞が悪くなるような嫌悪感が強制的に湧き上がってくる。

しかし、彼女の震える足は、トーヤから逃げるでもなく、トーヤを攻撃するでもなく、トーヤを背中で庇うようにして大地を踏みしめていた。

「大嫌い! 大嫌いだけど……でも! 困ってる人は、見過ごせないもの!!」

元・近衛騎士としてのノブレス・オブリージュ(高貴なる義務)。

そして、理不尽な世界で自分を『一人の女の子』として扱ってくれた、不器用な店長への底知れぬ愛。

キャルルの根源にある優しさと愛が、システムが強制する「大嫌い」という感情を強引にねじ伏せていた。

「(……なんて、イカれたアルバイトどもだ)」

トーヤは、地面にへたり込んだまま、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして笑った。

絶対的な世界のルールすらも、個人のプライドと絆で叩き割る。こんな規格外の連中、どこのマニュアルを探しても載っていない。

「貴様ら……正気か!? 自分たちを囮にしたそのゴミのために、この俺に逆らうというのか!!」

激昂したゼロスが、再び光刃を振りかぶる。

「……へっ。勘違いすんなよ、金ピカ野郎」

フェイトが、口元にこびりついた血を手の甲で拭いながら、ニヤリと笑った。

「アンタは、俺たちに最高の盤面シフトをくれた。……今度は俺が、アンタのシフトを守る番だ」

フェイトは、懐から一枚の銀貨を取り出した。

ユニークスキル【コイントス】。

だが、今回はトーヤが仕掛けた『磁気シート』も『水平器』もない。足元はぬかるんだ泥だらけの地面。確率を操作するズル(物理ハック)は、一切使えない。

純度100%、確率50%の、ただのコイントス。

「ふはははっ! そんなお遊びのスキルで、俺に勝てるとでも——」

ゼロスが嘲笑しながら踏み込んでくる。

フェイトは、一切の迷いなく、銀貨を天高く弾き飛ばした。

キィィィン……ッ!

銀貨が、曇り空の下で回転しながら空を舞う。

時間が引き延ばされたかのように、すべてがスローモーションに見えた。

表が出れば、2倍。ゼロスの課金バフには到底敵わない。

裏が出れば、ステータス激減。その瞬間に全滅する。

フェイトが狙っているのは——確率論を無視した、たった1%未満の『奇跡』。

(頼む……!)

トーヤが祈るように両手を握りしめる。

キャルルが息を呑む。

泥だらけの地面に向かって、銀貨が落ちていく。

ポチャリ、と泥を跳ね上げ、銀貨が地面に接触した。

倒れるか。

それとも——。

『————条件達成』

世界が、完全に静止した。

『ユニークスキル【コイントス:ジャックポット】』

『フェイト・ラックの全ステータスが、一時的に【100倍】に跳ね上がります』

——銀貨は。

泥の中で、見事に『縁』で直立していた。

「……ははっ」

フェイトが、低く、腹の底から笑い声を上げた。

「見たかよ、店長。……俺の運命ダイスは、俺自身で決めるんだよ」

ドゴォォォォォォォォォンッッ!!!

フェイトの体から、黄金のオーラなどというチャチなものではない、空間そのものを歪ませるほどの『極太の闘気』が火山のように噴出した。

100倍のステータス。それはもはや、神の領域に足を踏み入れた『戦神』の姿だった。

「な、ば、馬鹿な!? なんだその力はァァッ!?」

ゼロスの顔が、信じられないものを見るように引きつる。

「——遅え」

フェイトの声が響いたのは、ゼロスの『真後ろ』からだった。

ゼロスが振り向くより早く、100倍の膂力と神速が乗ったミスリルソードが、ゼロスの神聖なる鎧を豆腐のように切り裂いた。

ガァァァァンッ!!

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」

課金に課金を重ねた絶対防御の鎧が、一撃で粉微塵に吹き飛ぶ。

さらにフェイトは剣を返し、ゼロスの持つ『聖域殺し』のオリハルコンソードの刃を、根元から真っ二つに叩き折った。

「が、はっ……! 俺の……俺の全財産がぁっ……!!」

防御も武器も失い、無防備な状態となって空中に打ち上げられるゼロス。

もはや、彼を守るものは何一つ残されていない。

「姫さん!!」

フェイトが、空中のゼロスを見上げながら大音声で叫んだ。

装甲アーマーは全部引っぺがしたぜ! あとは任せた!!」

「——ええ、やってやるわッ!!」

キャルルが大地を蹴った。

彼女の脳内にはまだ『トーヤが嫌い』というノイズが響いているが、それを上回る『ゼロスへの極限の怒り』と『店長への愛』が、彼女の体を限界のその先へと押し上げていく。

バチバチバチッ!!

特注の安全靴に仕込まれた『雷竜石』が解放され、紫電の雷光がキャルルの全身を包み込む。

寿命を削る満月ハイ状態の力に、さらに1億ボルトの雷撃が上乗せされる。

マッハ1のダッシュ。

20メートルの大跳躍。

空中で一回転し、すべてのエネルギーを右足のつま先に凝縮させる。

「私から店長を奪おうとした罪……その身で後悔しなさいッ!!」

無防備なゼロスの腹部に向かって、キャルルの必殺の飛び蹴りが、今まさに放たれようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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