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第6話 婚約破棄

「春野さーん」

「はいはい 清水さん どうしました? 」


けだるい昼下がり、俺はカウンターに肘をついた。


「なんかヒマ。面白い話、ない? 」

「ありませんよ。それより仕事、しないんですか? 」

「もう金貨草と満月草、納めてきました」

「それはご苦労様です」


ちらっとこっちを見た春野さんはすぐに仕事に戻った。


「ねぇってば。なんか面白い話ないの、婚約破棄とか」

「ないです。なにバカなこと言ってるんです」

「いや、定番でしょ。幼いころからの政略結婚の婚約者を捨てて平民上がりの男爵令嬢と、うはうは」


はぁーといつもの溜息をついた春野さんは俺に言い聞かせるように話し始めた。


「あのね、まず、幼いころからの婚約者ってのがありえません。政略結婚てのはね、今必要だからするんです。幼いころからずーっとなんて、意味ないじゃないですか。状況が変わってしまったらどうするんです。逃げられないようにさっさと結婚するのが普通です。たいていは半年で結婚します」

「せちがないね」

「政略ですから」

「んじゃ、せめて平民あがりの男爵令嬢とのラブロマンス」

「ありえませんね。どこで知り合うんです? 」

「学園」

「ないです。そんなもん」

「ないの」

「ないですよ。貴族の子女を一か所に集めるなんて。そこを襲われたら全滅ですよ。そんな危険なことしません。小規模な塾みたいなのはありますけど、そこだって男女別々です。あたりまえでしょ」

「年頃だもんね」

「はい。別な意味で危険です」


やっぱそういうのはないのかと思っていると春野さんが続けた。


「仮に、なんらかの理由で貴族と平民が知り合ったとしても 話が通じません」

「教養の問題とか? 」

「いえ 言葉が通じないんです」

「… 意味がわからない」


春野さんがペンをくるくる回しながら 答えた


「文字通り、平民と貴族とでは言葉が違うんです。違う言語ということではなく、なまりですね。貴族なまり、平民なまり。あと労働者なまりとか、いろいろありますけど、出身階級で言葉が違うんです。

たとえば、平民が貴族御用達のお店で働こうと思ったら、まず言葉を直さなければ雇ってくれません。

直すのも大変で結構時間かかりますし、なにより教師がいないと無理です」


へー そんなもんかと思ったがふと疑問に思って尋ねた。


「んじゃ お忍びってやつは? 」

「モロバレですね。言葉ですぐわかります。まあ、お忍びってお約束ですからみんな知らないふりしてますけど」

「普通でいいの? 」

「はい。お忍びならば。清水さん、いかにも貴族って人がいたら話しかけてはダメですよ。無礼者ってなりますから」

「こわっ」






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