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第7話 偽りの家紋肖像
北辺収蔵庫の最下段から、王都紋章院預かりの古い令嬢肖像が見つかった。
一見すると名のある分家の少女像。けれど顔立ちが、母クララにあまりにも似ている。違うのは胸元の家紋だけだった。
私は手袋越しに裏板へ触れ、息を止めた。
元画題、クララ・ヴァインベルク婚礼前肖像。
上描命令、分家参考資料へ転用。
指示者、バルテル。
「画題そのものを偽装している」
私は額縁の内側を示した。
「しかも上から塗り替えた紋章の下に、母の百合紋が残っています」
ルーファスが近づき、細い刃先で剥離しかけた金箔を支える。
「王都画廊局が、正式な家紋つきの肖像を横流しし続けていた証拠になるな」
「義妹はこれを使って、自分が母の直系だと見せるつもりです」
私は絵の顔を見つめた。柔らかな頬線、少し上がった目尻。母の若いころの面影が、別人の名の下で静かに息をしている。
「返します」
誰に向けた言葉か、自分でもわからなかった。母へか、絵へか、それとも奪われたまま壁に縛られてきた自分へか。
ルーファスは答えず、ただ修復台の灯りを少しだけ近くへ寄せた。
「では、まず本来の下地を出そう」




