第5話 無口な北辺公は割れた額縁を拾う
封印庫の床に落ちていた金箔片を、ルーファスは自分の手で拾った。
北辺公が額縁の破片を拾う必要など本来ない。それでも彼は、雪の冷たさが残る石床へ屈み込み、割れた木片の合わせ目を静かに見比べた。
「この切れ方、ただ壊したのではないな」
差し出された額縁片の裏に触れた瞬間、また白い文字が浮かぶ。
印章板抜去。
北塔第三封印庫。
代替額装指示、婚礼用大判。
「額縁の裏板を外して、印章板だけ抜き取っています」
「花嫁の大きな肖像に付け替えるためか」
ルーファスの声は低いまま変わらないのに、その静けさの奥で怒りが固まっているのがわかった。
私は庫内の棚を探った。奥から出てきたのは、母クララの名が書かれた細い紙片と、小さな銀の留め具だった。留め具には北辺公家の狼紋がある。
「どうして母の肖像にノルトハイム家の留め具が……」
「母上同士に交流があったのかもしれない」
ルーファスは少し考えるように目を伏せた。
「亡き母の私室にも、王都から来た女性の肖像が一枚あった。だが火事のあと行方がわからない」
母の絵と、北辺公の失われた絵。別々の壁から消えた二枚が、同じ庫で繋がった。
「なら二枚とも、同じ手が動かした可能性があります」
「追おう」
彼は短く言って、割れた額縁片を私の手へ戻した。
「君が見つけた欠けを、今度は欠けたままにしない」




