表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

第3話 【裏書読解】は塗り潰しを隠さない

その夜、巡回展示を見ていた未亡人のマルタが、破れた小型肖像を抱えて収蔵庫へやって来た。


「雪道で落としてしまって……裏板まで割れてしまいました。もし弁償が必要なら」


 差し出されたのは、貴婦人の半身像だった。正面はありふれた複製に見えたけれど、裏板の隅に百合紋の焼印が残っていた。母の持参絵画に使われていた箱印と同じだ。


 私は割れた裏板へそっと指を触れた。


 次の瞬間、視界の奥に白い文字が滲み出した。


 旧目録番号三一八。


 移送先、王宮婚礼展示室。


 再移送先、北辺収蔵庫。


 書換者、イリス・ヴァインベルク。


「……見える」


 思わず呟くと、隣にいたルーファスが低く問う。


「何が」


「塗り潰された裏書です。誰が、どこへ動かして、どの名前で書き換えたのか」


 ひび割れた木の感触、乾き切らない黒インク、隠すために重ねられた下塗り。その全部が文字の形になって流れ込んでくる。私は指先の震えを押さえながら、もう一度裏板をなぞった。


「義妹が自分の名前で移送記録を上書きしています。母の絵を婚礼展示へ持ち込み、そのあと北辺へ送った」


 マルタが小さく息を呑んだ。


「そんなことが……」


「なら、隠した側は裏面を見られるのを恐れている」


 ルーファスは短く言った。


「その文字を追え。必要な鍵は私が出す」


 王都では、説明しても聞き流されるだけだった。けれど北辺公は、私の言葉を即座に調査の理由へ変えた。胸の奥で、冷えていた何かが少しだけ動き出す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ