表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第2話 左遷先は北辺収蔵庫

北辺収蔵庫は、雪と石と油絵の匂いでできた静かな砦だった。


 王都から四日。辿り着いたノルトハイム公領の収蔵塔は、城館北棟の奥に埋め込まれるように建っていた。高い窓の向こうには薄い雪が流れ、廊下には古い額縁が整然と立て掛けられている。王宮画廊のような華美さはない。あるのは家督継承用の祖先像、辺境契約に添えられた肖像、修道院から預かった劣化絵画ばかりだ。


「ここでは一枚の絵が、境界線より重い」


 低く静かな声がした。北辺公ルーファス・ノルトハイム。三十五歳。黒に近い髪と灰色の瞳を持つ男で、余計な飾りを削ぎ落としたような立ち姿をしていた。


「王都から追い出されたと聞いた」


「追い出されたのではなく、押し出されました」


 私がそう返すと、彼はわずかに眉を上げた。


「言い切れるなら、まだ折れていない」


 歓迎でも慰めでもない。ただの確認。その無骨さが、かえってありがたかった。


 私はその日のうちに、北辺へ回送された未整理箱の確認を始めた。埃の積もった木箱を開けていくと、婚礼展示室の朱い封蝋が付いた荷札が一枚だけ混じっていた。番号は三一八。母の目録から消えた番号だ。


 だが箱の中身は空だった。代わりに残っていたのは、金箔の剥がれた小さな枠板と、百合の意匠が欠けた真鍮釘ひとつ。


「……ここへ来ていた」


 思わず漏れた声に、ルーファスが横から箱を覗く。


「王都のごたごたが、私の収蔵庫まで届いているのか」


 私は枠板を握りしめた。母の嫁入り肖像は確かに動かされた。そして、北辺へ来たあと、さらにどこかへ消えたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ