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第19話 もうあなたの額縁には戻らない
監査の翌日、レオンハルトが最後に一通の手紙を寄越した。
『君が望むなら、画廊局は席を用意する。今回の件は局長の独断として処理できる』
私は北辺収蔵庫の窓辺で、その手紙を小さく折った。
「戻る気はないのか」
ルーファスが背後から問う。
「ありません。あの場所は、私の名前を飾るための額縁ではなく、切り抜くための刃になっていましたから」
私は振り返る。
「もう、あなたたちの壁には戻りません」
返書はそれだけで十分だった。
ルーファスはしばらく黙ったあと、机上の新設画廊計画書を私へ差し出す。
「なら正式に頼みたい。北辺新画廊の初代主任になってくれ」
「……私でいいのですか」
「君以上に、表と裏を両方守れる人間を私は知らない」
胸が痛いほど温かくなる。奪われた席を惜しむ気持ちは、もうどこにもなかった。欲しかったのは、最初からこういう言葉だったのだ。
「引き受けます」
そう答えると、ルーファスはいつもの無表情のまま、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
「よかった」
それは、彼が初めて私へ向けてこぼした素直な安堵だった。




