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第13話 北辺公が座らない肖像椅子

その夜、ルーファスは私を北棟最上階の私設画室へ案内した。


 窓辺に一脚だけ、豪奢な肖像椅子が置かれている。だが布は掛けられたままで、誰も座った形跡がない。


「母上が最後に描かせようとした私の肖像椅子だ」


 ルーファスは絵架の前で立ち止まった。


「だが私は一度も座らなかった。母上の病を誇張した肖像が王都へ送られ、継承争いの口実にされたからだ」


 私は壁に掛けられた公妃の古い肖像へ触れる。裏書読解で浮かんだのは、母クララの筆跡だった。


『北辺の友へ。正面が偽られても、裏に本当の名を残します』


「母はあなたのお母様と、同じものに怒っていたんですね」


「見た目だけを都合よく使う人間に」


 ルーファスは低く言う。


「だから私は壁に掛けるための顔より、裏面を守る人間を信じたい」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。私が守ってきたのは、華やかな正面ではなく記録だ。けれどその地味さを、初めて真正面から価値として受け取ってもらえた気がした。


「……では、いつか座ってください」


 私は椅子へ手を置く。


「今度は偽りのためじゃなく、あなた自身のために」


 ルーファスは答えず、ただ少しだけ口元を緩めた。


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