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第14話 誰の顔を描き替えたのか

婚礼展示会の前日、ヘルミーネの立会いのもと、私は王都画廊局保管の花嫁肖像を検分した。


 大判の絵の中で、白い衣装を纏ったイリスが優雅に微笑んでいる。誰が見ても華やかだ。けれど私はその胸元に、見覚えのある影を見つけていた。


 ブローチの位置が、私の婚約記念衣装と同じなのだ。


 私はキャンバス縁の裏へ指を触れた。


 原画題、エルマ・ヴァインベルク婚約肖像。


 改描命令、顔部変更、髪色変更、家紋差替。


 実行確認、レオンハルト。


 目の前が一瞬白くなる。それでも私は声を震わせずに言った。


「これ、最初は私が描かれていました」


 ヘルミーネがすぐに修復士へ合図を送り、端のニス層をわずかに剥がさせる。下から現れたのは、イリスより少し落ち着いた色合いの髪。そして眉横の、私にしかない小さな傷の跡。


「やっぱり……」


 誰の顔を塗り替えたのか。もう疑いようがなかった。


 私は絵を見つめ、ゆっくり息を吐いた。奪われた婚約席が、ここにはっきり描かれていたとしても、今さら返してほしいとは思わない。欲しいのは椅子ではなく、嘘で塗られる前の自分の名前だ。


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