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第11話 老絵師の証言

控えに記された額装工房は、王都外れの古い路地にあった。


 迎えたのは引退寸前の老絵師フォルカー。最初は口を閉ざしたが、私が母の素描帳を見せると、震える手で椅子に腰を下ろした。


「……クララ様の絵を覚えている。あれはいい光だった」


 彼が語ったのは、婚礼展示会の直前、王宮画廊局から一枚の大判肖像が運び込まれたことだった。


「最初に描かれていたのは、君の顔だった」


 私は息を止める。


「婚約記念の下描きとして持ち込まれた。だが数日後、局長と若いご令嬢が来てな。『髪の色と目元を変えろ』『胸元のブローチも別のものに』と」


「イリス……」


「わしは断ったよ。だから仕上げは別の工房へ回された。ただ、剥いだ下塗り布だけは捨てずに残してある」


 差し出された麻布には、淡く私の横顔が残っていた。胸元の百合ブローチまで、たしかに私のものだ。


「婚約も、花嫁肖像も、最初から私の席だったんですね」


「席を守れるのは、座る者だけじゃない」


 フォルカーは細い目で私を見る。


「記録する者も守れる。だからここへ来たんだろう」


 私は深く頭を下げた。絵師の残した薄い布切れが、今はどんな豪華な額装よりも強い証拠に見えた。


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