24,14歳
王太子の言う通り、婚約の知らせはなかった。
それだけではとどまらず、王太子や大臣家の令嬢との交遊も深まった。
交互に互いの屋敷に呼び合い会うようになった。
大臣家に呼ばれて、談笑する。招いては、庭でくつろぐ。
付き添いのラルフも交えて、4人で時間を過ごす。
それが至極当然となるのに時間はかからなかった。
フェリシアから聞いていた未来とはかけ離れている。
幼馴染に、二人の友達。屋敷内だけだった世界が徐々に広がっていく。
笑いの絶えない、あたたかな人々に囲まれた日々が繰り返される。
本当に殺される未来がくるのだろうか。
疑いたくなる。
こんな日々がずっと続くといい。
このまま楽しく学園生活まですすめばいいのに。
淡い期待を引き裂く記憶がよみがえる。
レオンとしての最期の記憶。
俺は長剣で切られた。
雨にうたれ、血はとめどなく流れ出た。地面に伏したまま、動けなかった。
フィーは投げられたナイフに倒れ、長剣でとどめを刺される。近づいた男はためらいなく、胴と首を切り離した。
男の手に髪を握られ持ち去られていくフェリシアの生首。
黒いフードを被った男が、俺の横を通り過ぎた時、生気を失った蒼白な顔面を見たのが最期。
あの記憶だけは今も生々しい。
意図が分からない出来事。その背景がとらえられない以上、未来は形を変えて襲ってくるかもしれない。
不安と恐怖を記憶の片隅に宿しながら時を数える。
日常は穏やかで、未来の恐れこそ幻のように感じさせる。
月日だけがいたずらに経過した。
フェリシアの肉体は大人への成長を始めた。
身長が伸びた。
体つきが女性らしい丸みを帯びる。
幼さが消え、胸も膨らんだ。
アリアーナが好んで形容する、妖精のような雰囲気に、あでやかさが添えられる。
柔らかく、線が細い小柄な女性へと羽化した。
変化を来るものが来たと、案外すんなりと受け止めている自分に驚く。
急に女性になったわけではなく、幼少期から徐々に育っていったからかもしれない。
フェリシアとして産まれ生きて14年目を迎えた。
☆
城下町の中心にある広場。
二本の大道が伸びている。
一本は王城へ通じる一本道。
以前夜会へと呼ばれた王城が美しい。
もう一本は城下外へ出る門へ向かう一本道。
数本の行動が四方に通じており、市民生活の重要な公道になっている。
王城へ近い側に貴族や商家の者が、門へ近い方に平民が暮らしている。
広場に構える一角のカフェ。
晴れの日には、店外にテーブル席を並べる。
行きかう人々を眺めながら、一番はじにあるテーブル席に、俺はラルフと座っていた。
手元のグラスを両手で包み込む。
氷が入ったはちみつ入りのレモン水。中にベリーが沈殿しており、それをすくって食べながら飲む。商家の娘さんたちに、肌にもいいし甘酸っぱくておいしいと流行っている飲み物。
「おいしいね」
「それは、よかったですね」
愛想笑い。
「うん」
ラルフは定番の紅茶。
この四年間で、彼の身長はぐっと伸びた。
少し抜かされたわね、と笑っている間に、みるみる見上げるほどとなった。
細くしなやかに逞しく。立派な青年へと成長しつつある。
おいていかれた。
そんな風に思うこともあった。
フェリシアの身長からしたら仕方ないことでも、ずるいとふてくされたくなる。
元のレオンだったら、ラルフより大きかったろうか。同じくらいだろうか。
二人掛けの小さなテーブル席は今のラルフには小さい。
俺がテーブルの下に足を投げ出せばラルフの長い脚は収まる場所がない。
テーブルに対し椅子を横向きに置く。体を広場側に向け、組んだ足を無造作に投げ出している。
一緒にいても、向かい合っても、ラルフの横顔を眺める距離感は変わらない。
幼馴染で、友達で。世話役で、勉強仲間。執事。彼を評する言葉はたくさんある。
好んで使うのは、最高の友達。
ラルフの横顔を凝視していたからか。
真横からそっと伸ばされた腕に気付かなかった。
「わっ!」
背後から抱きすくめられる。
肩に感じる柔らかな感触。
「お待たせしてごめんなさいね」
耳の後ろからそっとささやく声。
振り払うように振り向く。真正面にアリアーナの顔。
「アナ、驚かせないで」
「驚いてくれてうれしいわ。
私、フィーの慌てふためく姿を見たかったのですもの」
涼やかな流し目。
色気はすでに大人のよう。
「人の婚約者によくそんな堂々とできるな」
呆れて横に立つのは、王太子。
グレイの髪色。使用人に頼み、髪を分けてもらい作ったかつらだ。
「まだ、決まってなくてよ。
図々しいわね」
「っだああ!」
下を見ると、彼の片足にアナが履く靴の踵が乗っていた。。
こちらの関係も、変わらず4年間この調子だ。
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