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New Age  変革編  作者: えんじゅ
第二部 「水瓶座の時代 Age of aquarius」
39/79

亡国「円卓の騎士団」⑥


〈葬儀人〉や〈理想郷の先駆者〉が扱う蒼い粒子は強制書換(ブレイカー)と呼ばれていた。


その性質や形状には個人差があり、広く定義すれば白黒の━━矛盾する(ことわり)Paredox(パラドクス)」も強制書換(ブレイカー)に含まれる。

強制書換(ブレイカー)について、根本的な部分で統一して語れるのは、どれも理に逆らって現象を変化させられる事が可能である事だ。

彼等が扱う蒼い粒子は〈New Age〉の世界を形成するエントを代替にし、本来であれば起こり得ない現象を実現させる。

行使者は〈言葉の鳥〉と呼称されている言語プログラムを書き換え、いともたやすく不可能を可能としてしまうのだ。


マオが扱う十字鎌型の強制書換(ブレイカー)は比較して、流動する形状変化に優れていた。

メイジの強制書換(ブレイカー)と同様、蒼い粒子がまるで焔の如く燃え盛り、辺りへ波打つ。

マオは本来の(クラス)である魔術師(エレメント)の炎魔術と併用し、蒼紅……二色の炎を操っていた。


ヴァンプ・ブギア・スカーレットは周辺の霧を凝固させて幾つもの血槍を生成し、マオ目掛けて躊躇せず穿つが、マオは十字鎌を逆さにして地面へ突き立てると、その先端より蒼い焔の渦を噴き上がらせ血槍を(ことごと)く溶かした。

「いきなり襲うなんて酷いよ」

十字鎌を地面より引き抜いて悠然と肩に担ぐマオ。

「もう用もないからな。後はグレイの為にお前を捕まえておくだけだ」

「猫は拘束されるのが嫌いなんだよ。自由気ままが一番なんだ」

「葬儀人の飼い猫が……面白くない冗談だな」

「グレイって、白黒の事だよね?彼がそんなに大切なの?」

「あぁ、大切だな」

即答するヴァンプに向けて、不敵な笑みを返すマオ。

「もう一度訊ねるが、本当にソウイチロウを知らないのか?お前達〈葬儀人〉が殺した筈だ」

「うーん、覚えてないなぁ。僕が〈葬儀人〉になるよりも昔の話なんじゃない?」



━━前は〈ソウイチロウ〉の死に際と、葬儀人について話したんだったよね。


ヴァンプの脳裏を過ぎる一度目の〈昇天の隣人〉。


「会いたかったよ。ヴァンプ」

「……ソウイチロウ。なのか?」

「僕はソウイチロウであって、ソウイチロウじゃない。〈昇天の隣人〉が〈New Age〉の世界に飛散したソウイチロウの残滓を拾い集めて君の前に見せているだけだ」

世界を漂うデータの残滓が復元されているだけだと語るソウイチロウ。その姿はヴァンプが知るソウイチロウと瓜二つであり、口調も表情も、気配すらもヴァンプには区別がつかなかった。

「ソウイチロウはまだ生きているのか?」

ヴァンプは咄嗟とはいえ、自身の口から出た質問に少なからず動揺していた。

もう決別は受け入れた筈なのに、どうして私は未だに彼の行方を知りたがっているのだろうか。

「ウェルズニールで起きた内乱……〈レギオン〉で命を落としたよ。葬儀人によってね」

彼女の淡い期待を砕く〈昇天の隣人〉の一言。

「葬儀人か……」

決別する以前に、ヴァンプは微かにだが、葬儀人について聞かされていた。

「けれど、どうやら完全に失われたのは肉体だけみたいだ。散らばっているソウイチロウの精神は不完全なんだよ。もしかしたら、ソウイチロウは僅かな精神だけで今もまだ世界の何処かに潜んでいるのかもしれない」

「そんな事が可能なのか?」

「三賢人に括られる君らしくない発言だね」

「三賢人なんて括りは上界によるものだろ?大した価値もない」

「モルトローゼもジキルも君も。上界にとっての都合的な駒として創造されたからね」

「だとしたら残念だったな。モルトローゼは真面目に取り組んでいるが、私は傍観を選んだし、ジキルは放棄を選んだ」

「ジキルには困ってるんだよ。小人の癖にこの世界の理から逃れようとしている。事実、彼はとうとう障害の座で活動できる術を編み出した」

「そうか……あいつは本当に夢想を実現させようとしているのか」

「とはいえソウイチロウにとっては興味の無い話だ。葬儀人にしてみても、障害の座に逃れるだけなら、然したる問題にもならないしね」

蒼に染まっている光景を網膜に映しながら、ヴァンプは面倒そうに呟いた。

「ジキルの話はどうでもいいだろう。折角、昇天の隣人に辿り着いたんだ。もっと有意義になる恩恵を(もたら)してくれよ」

「君に恩恵なんてあってないようなものだと思うけど、そうだね……特別に君の〈吸血鬼(ヴァンパイア)〉としての固有スキルを追加してあげようかな」

ソウイチロウの姿をした〈昇天の隣人〉がゆっくりと滲み寄ってくる。

ヴァンプは微動だにせず、ただ事の成り行きに身を委ねようとしていた。

「魔眼って知ってるかな?」

「言葉としての意味ぐらいは知ってる」

「君にその魔眼を与えようと思う。宝石等級の過去視だ。本当は〈吸血鬼〉らしく魅了視をあげてもいいんだけどね。ひきこもりの君には無用だろうし、ちょっとだけサービスだよ。これは対象者の過去を君と本人へ同時に魅せる。僕と同様。データ復元の派生だね」

サービス、サービス。と〈昇天の隣人〉は繰り返す。

「何より、過去にすがる君にお似合いだろ?」

ただし……と彼は付け加えた。

「たった一度だけだ。永い永い人生の中でたった一度きり。大切にしてね」

「まるで呪いだな」

「しょうがないよ。ゲームバランスが崩れてしまう。ネットゲームなんてね、幾ら頑張ってもレアアイテムがドロップしない人だって居るんだからさ。本来なら〈血操術(けっそうじゅつ)〉だけでも充分なくらいだよ」

たった一度きりだ。よく考えなよ。



「吸血鬼ってさ十字架苦手だったよね?これ効果ないのかなー」

マオは十字鎌を正面で弄びながらぶつぶつと呟いている。

「別に惜しくもない、か」

ヴァンプは決意する。

マオの証言が真実なのか、虚偽なのか。

それを確かめる為、彼女は一度きりの魔眼を発動させた。

緋色の虹彩が眼球全体を侵食していく。

そして(まだら)に橙や藍、紫などの色素が混じり、虹の様に煌いていく。

「……っ!?」

マオが異変に気付くのと同時に、ヴァンプの過去視が二人を共通の過去へ(いざな)っていく。



━━ソウイチロウさん。どうして……?


「なにこれ……」

ヴァンプの傍らに立つマオが呆然とした様子で驚愕の声を洩らしている。

二人の眼前に広がっていたのは、背後より胸部を緋色の刃━━始祖たる吸血剣〈宵闇の串刺公(ツェペシュ)〉に貫かれ血反吐を垂らす少女の姿だった。

━━ごめんね、リリア、マオ。

少女を貫く刃を引き抜くソウイチロウ。

過去のソウイチロウは血に染まった〈宵闇の串刺公(ツェペシュ)〉を二人の正面に立ち尽くす過去のマオへ向けた。

━━ソウイチロウ。君は最初から僕達、意識混濁性消失障害(ロストボディ)を騙していたの?

━━ふふっ、騙すだなんてやめてくれよ。人聞きが悪いな……僕の〈宵闇の串刺公(ツェペシュ)〉は他者の血を吸えば吸う程に〈血操術〉が進化するんだ。だからね?安心して。君達の分まで、僕が頑張るからさ」

過去のマオは抗おうと魔術の詠唱を始めるが、ソウイチロウの凶刃が無情にも彼の腹部を貫いた。

視界に迫る刃の先を見据え、マオが呟く。

「僕……死んだの?」

過去のマオが事切れて地に伏すのと同時に、過去視の映像が途絶える。


〈水瓶座の時代〉により記憶を改竄され、無自覚に眠らされていた筈の記憶の断片がヴァンプの過去視により呼び起されたのだった。


「ソウイチロウ、お前は何をしようとしていたんだ?」

ヴァンプは真相まで辿り着けなかったマオの過去に歯軋りした。

「僕とリリアは元々、葬儀人じゃなかった……」

「お前が何故、記憶を自覚できていないのかわからないが、吸血剣〈宵闇の串刺公(ツェペシュ)〉によって殺されておきながら、今もこうして生きているという事は、つまり……マオ。お前もまた〈吸血鬼〉なんだな」

「僕が吸血鬼?でも、僕は魔術師(エレメント)だよ」

しかし、マオは知っていた。

突然変異(メタモルフォーゼ)型の特異職は、転職前のスキルを全て継承するのだと。

無防備な隙を晒すマオに対して、ヴァンプは何も行動を起こそうとはしなかった。


━━決して派手な轟音を上げる事も無く、決して豪快な震動を伝わせる事も無く、それは起きた。

ヴァンプとマオ。二人の視界を同時に縦へ線引く蒼き光芒。

蒼い粒子が高々と飛散し、ヴァンプによる紅き霧をも塗り潰していく。

「何が起きてるんだ?」

ヴァンプのうわ言に答えたのか、それとも、ただの独り言なのか。

「……メイジだ」

マオはぼそりと少年の名を呼んだ。





刺突剣型宝星具〈閃光(レイ)〉の切っ先が幾重にもぶれてメルティに襲い掛かる。

メルティは甲冑型宝星具、洸片翼〈ガウェイン〉の翼を正面まで伸ばし、光片(プリズム)による屈折で全て受け流した。

切っ先を逸らされ、体勢を崩しかけているスメラギの脇目掛けて冠光剣〈ランスロット〉を横薙ぎに振るおうとした。

しかし、スメラギは自身へ迫るよりも早く、メルティの手首を〈閃光(レイ)〉の柄で突いて止めた。

「くっ!!」

メルティは苦悶の声を洩らしながらも、左腕に備えていた籠手(ガントレット)型宝星具、白煌雷〈トリスタン〉による雷撃をスメラギ目掛けて放った。

一秒にも満たない瞬間を裂いて、白亜の雷がスメラギの腕を奔る。

〈トリスタン〉の特性上、至近距離だと雷の規模が小さく、またスメラギの甲冑に刻まれた軌道曲折の抵抗も相俟(あいま)ってか、〈閃光(レイ)〉を握っていた右腕を痺れさせる程度の損傷(ダメージ)しか与えられていなかった。

それでも隙を生み出すには充分過ぎる。

メルティは手首に鋭い痛みを感じながらも、〈ランスロット〉を振り上げた。

スメラギは麻痺の残る腕から〈閃光(レイ)〉を落とし、それをすぐさま蹴り上げる。

宙に跳ね上がった〈閃光(レイ)〉の柄を左手で掴み取り、メルティの肩目掛けて突き伸ばした。

メルティは咄嗟に軸をずらして迫る剣先をかわすと、掲げていた〈ランスロット〉を斜めに振り下ろす。

今度はスメラギが力強く土を蹴って、横へ転がった。

一旦、距離を取って静止する二人。

お互いに剣を構えたまま、相手の動向を窺う。

先んじて動き出したのはメルティだった。

〈ランスロット〉の眩い一閃がスメラギを襲う。

伸びて迫る光の刃を伏せてかわし、スメラギはメルティへ接近を試みる。

メルティは〈ランスロット〉を振るうと同時に〈トリスタン〉の雷光を空間に奔らせていた。

瞬きの間にスメラギを穿(うが)つ〈トリスタン〉。

駆け抜けていた両足が脱力し、うつ伏せに地面へ倒れ込むスメラギ。

「〈トリスタン〉を使いこなせる様になったんだね」

スメラギは小刻みに痙攣している四肢で尚も立ち上がろうとしている。

閃光(レイ)〉の切っ先が惨めな程に震えていた。

「無駄な抵抗はお止め下さい。スメラギ隊長……いえ、反逆者スメラギ。貴方の身柄を拘束します」

一歩、メルティが接近しようと踏み出した瞬間。

彼女は直感的に気付いた。

両膝を曲げ〈ガウェイン〉の翼で全身を囲む。

縮こまったメルティへ降り注ぐ無数の矢。

「スメラギさんは渡さない!!」

矢の雨が収まるのを見届けて、メルティは立ち上がった。

〈クリアンレズム〉の庭園奥、木立の隙間から姿を現す弓闘士(アーチャー)の少女。


━━メーニャは矢を引き絞ったまま、再度、メルティに警告した。


「本気だから!!」

彼女の決死な想いに応えるが如く〈クリアンレズム〉から〈円卓の騎士団〉が続々と近付いてくる。

メルティの額から汗が伝い落ちる。

「リアルな姫様か。畜生、やっぱ可愛いじゃねぇかよ。なぁスメラギさん。なんとかして仲間にできないもんかね?」

「スメラギさん!?だ、大丈夫ですか!?大人しくしててください。すぐ治療しますから!!」

「ほー……スメラギさんに勝つなんて大したお嬢ちゃんだねぇ」

スメラギの元へ集う陽気な仲間達。

未だ痺れの取れないスメラギは仲間の肩を借りて立ち上がる。

「形勢逆転だね」

穏やかに微笑むスメラギ。しかし、メルティには彼の笑顔がおぞましく映り込んでいた。

背後を振り返ってみても、彼女の仲間の姿は何処にも見当たらない。


万事休す……ですか。


メルティが視線を伏せ掛けた刹那。

遠くで、蒼い光が噴き上がり紅い霧を鋭く裂いた。

蒼い粒子が大きく飛散し、まるで粉雪の様に空を漂う。

徐々に紅い霧が浸食されていき、視界一面が蒼く染まっていく。

「まさか記調律(アステリズム)なのか?いや、これは……違う」

スメラギは過去、自身が眺めた記調律の景色を思い浮かべながら、眼前の景色と照らし合わせている。

ざわめく〈円卓の騎士団〉の面々。

あの蒼い光はまさか、メイジさん?

気が付くとメルティは走り出していた。

「あっ!!スメラギさん、どうする?」

逃走とも見て取れるメルティの行動を受けて、メーニャはスメラギへ呼び掛けた。

「追わなくていいよ。もう〈黎明の騎士団〉の敗北は決まってる。それよりも誰かグレイ達の手助けに向かってくれ」

淡く染まる蒼の光景を見据え、スメラギは僅かに目を細めた。




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