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New Age  変革編  作者: えんじゅ
第二部 「水瓶座の時代 Age of aquarius」
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遠景「黎明の騎士団」③

〈レギオン〉実装時に〈黎明の騎士団〉団長を務めていたベティリア・ティ・フロウウェン。

彼女は当時の国王であるコース・ティ・フロウウェンと婚姻を結ぶまではフロウウェンの名を冠してはいなかった。

それは弟のロードリアもまた同様で、二人とも厳密には王の血筋を引いてはいない。

幼い頃はベティ、ロードと親しく呼び合った姉弟もいつしか大人になり、互いに大切な何かを失っていく。

二人が物心付いた頃、もう父は酒癖が悪く、何かとつけてすぐに暴力へ逃げる最低な人間だった。

けれど母が父を見捨てることはなく、日夜、身を粉にし働いて生計を立てては家族の居場所を守り続けていた。

それでも、父は母を殴り、母は涙を流す。

元騎士の父は、かつて〈黎明の騎士団〉隊長の側近として刃を奮っていた。

しかし、戦場にて片腕を斬り落とされ、同時に騎士としての価値を失う。

その時の恐怖からか、程なくして父は発狂してしまったらしい。

誰も助けてはくれなかった。

ある日、唐突に母は倒れ……二度と目蓋を上げる事は無かった。

父に殴られたのが原因なのか、働き過ぎた過労が原因なのか。それすらもわからず。

母は浅黒い痣の浮かぶ痛々しい姿のまま部屋の隅にいつまでも寝かされ続けていた。

酒を持ってこい。と怒鳴られ二人は当てもなく家から飛び出す。

月に一度の〈還日祭〉を告げているウェルズニールの人々は誰もが陽気に笑っており、とても自分達と同じ世界を生きているとは思えなかった。

お酒をください。と泣いて懇願する二人。

〈還日祭〉にそぐわない異様な光景を見止めたのは、偶然、街中の視察へ足を運んでいた次期国王コース・ティ・フロウウェンだった。

まだ少年とも青年とも言い表せる若きコースは、それ程歳の離れていない姉弟の痛惨な表情を受けて、ちくりと胸に刺さる痛みを覚えた。

同じ景色を見ている筈なのに……私と彼等では、まるで見えているものが違う。

絶望に打ち拉がれていたベティとロードを見下ろし、コースは手を伸ばした。


━━どうか絶望しないで。君達を救ってあげたい。


帰ってみると、父は割れた酒瓶で自らの喉を裂いて命を絶っていた。

無作為に転がっている両親の屍。

開け放しの窓から大樹〈メイニール〉の緑葉がはらりと舞い落ちる。

コースは身寄りを失った二人を〈メンデルハープの樹皮城〉へ連れ込んだ。

そして、その縁は途絶えることなく、やがて、コースとベティは愛し合い、メルティが生まれる。

ベティは今もなおコースとメルティへ深く変わらない愛情を注いでいた。


今でも、あの日の……私とロードが救われた日の夢を見る事がある。


幾ら時計の針が回った所で、何度……街中に落葉が積もった所で、決して忘れられない悪夢と奇跡。

〈メンデルハープの樹皮城〉騎士宮の一室。

壁際に立て掛けられた燭台の上でちらついている蝋燭(ろうそく)

テーブルの上で向かい合って並んでいる陶器のカップ。

片側にはベティが座っているが、テーブルの反対側には、先程までカップに口をつけていたと思われる人物の姿が既に見つけられない。

つい数分前、彼女の正面に座っていたスメラギとの会話が甦る。

「最近、ブラムの様子がおかしくありませんか?」

「……どういう意味?」

「具体的な説明はできないのですが、何か強迫観念に襲われているような焦りが見受けられます」

「砦が次々と奪われているからではないの?」

無言でなにやら思索している素振りを見せるスメラギ。

「ブラムは貴方やグレイよりも一際責任感が強いわ。気負い過ぎてるのかもね」

「はい……そうかもしれません。申し訳ございません、どうか今の言葉はお忘れください」

杞憂ならそれでいいのです。とスメラギは視線を伏せて呟いていた。

〈黎明の騎士団〉を率いし三人の隊長。

ブラム、スメラギ、グレイ。

彼等の忠義と実力は決して疑うべきではないだろう。

いや、ベティは疑いたくはなかったのだ。

控えめなノックが数回、扉を叩く。

端的に入室を許可すると、開いた先より夫のコースが表れた。

「浮かない顔をしているね、ベティ」

「わざわざ騎士宮まで来たりして、どうしたの?」

「私の判断に不服があるんじゃないかと思ってさ」

「ケイ砦とユーウェイン砦の防衛を固めるだけで、ベイリン砦の奪還へ兵を向かわせない事?」

「うん」

「不服なんてないわ。貴方が決めた事だもの。きっと何か理由があるのでしょ?」

「まぁ、そうなるのかな」

席から立ち、食器の片付けを始めるベティ。

「ねぇベティ。もしかしたら、僕達が本当に戦うべき相手というのは、実はとても……身近に居るのかもしれない」

その背中へ小さく語りかけるコース。

節々を聞き洩らしたベティは、彼に対して「何か言った?」と返す。

「いや、なんでもないよ」

首を微かに横へ振り、コースは窓の外に映る枝葉へぼんやりと視線を向けていた。




同刻、〈メンデルハープの樹皮城〉騎士宮の外れ。

ブラムは壁際に幾つもの槍が立て掛けられている薄暗い部屋に佇んでいた。

武器庫らしき室内は大樹〈メイニール〉が吐く霧の所為か、湿っぽさが吸う息に染み付いてくる。

「答えは決まったか?」

姿無き来訪者の無感情な声。

「葬儀人だったか?正直、お前等の考え方には賛同できない」

「がはははっ、そりゃあそうだろな」

静けさを砕く勢いの豪快な笑い声が続いた。

「アーク……黙っていろ」

「こりゃ失敬」

光学迷彩の黒衣にて姿を消している葬儀人達。

彼等の声が響く方角を……武器庫の窓際を見据えブラムは再度言い放った。

「今すぐ城内から立ち去れ」

「ひとつだけ忠告しておこう。お前にとって価値があるのかどうか興味はないが。いずれこの世界は移人達によって淘汰される可能性がある」

「確かに興味などないな、さっさと消えろ」

ブラムはきっぱりと葬儀人の言葉を切り捨てる。

「そうか、先見に乏しいのだな。残念だ」

「何が言いたい?」

じじじ、と不可解な雑音(ノイズ)を立てて姿を晒す葬儀人の片割れ。

無造作に伸びた浅黄色の髪、目元に黒ずんだ隈の浮かぶ沈んだ眼差し。頬こけた男性はぼそぼそと口を開いた。

「お前の守りたいものと、我々が守りたいものとは広く定義すれば同系統であり、対極もまた然りだと思っていたのだが。どうやら私の誤認だったらしい」

「上界の移人は昔からこの世界に降り立っていた。それを今更掘り返してどうなる?」

「掘り返すか、悪くないが愚問だな。もし上界との繋がりを絶つ手段があるとしたらどうなる?」

反乱軍〈クシャティケルの灯〉も半数以上が上界の移人だと推測されている。

もし、上界との繋がりを遮断出来たなら、その結果は反乱軍の増強を大幅に削る事と直結する。

箱庭なる世界を守りたい葬儀人と、ウェルズニールなる祖国を守りたいブラム。

「この世界の創造主なる魔女〈アクア・ヒュン・リィムエリア〉の肖像を描く宝星具〈水瓶座の時代 (エイジ・オブ・アクエリアス)〉。あれなら、この世界の理を大きく変えることができる」

「水瓶座の時代?聞いたことも無いな」

「存在の否定は神にのみ許される」

「がははっ、悪魔の証明ってやつだ」

悪魔の実在を証明する方法は単純だ。実際に悪魔を連れてくればいい。だが悪魔の非実在を証明するのは実質不可能だと言われている。

家中で見つけられなければ街中を探し、街中で見つけられなければ国内を探し、国内で見つけられなければ惑星内を。銀河内を。宇宙の隅々を。と極端な例えではあるが、つまりは果てが無いのである。

「葬儀人の生みの親である〈(みさき)朝日(あさひ)〉は、この世界に対してこれ以上の不必要な干渉を望んでいない。我々、葬儀人とは彼女の願いを叶える為の手駒であり……捨駒なのだ」

姿無き葬儀人の方が笑いながら再び喋り出す。

「面倒だから世界を分断しちまおうって話だ。分かりやすいだろ?がはははっ!!」

「アーク、お前には黙っていろと言った記憶があるが」

「あぁ、すまんすまん」

「朝日には、かつての同志だったソウイチロウの裏切りを止めて欲しいとも頼まれている。どうだろう?まずは〈クシャティケルの灯〉に限る同盟というは」

その時のブラムは焦っていた。

〈黎明の騎士団〉という誇りの鎖に縛られ、祖国を愛する純心さは……いつしか民衆の期待に応える為の責任感へと転じてしまっていた。

「わかった……。私はブラク・ムーン・ケトス。〈黎明の騎士団〉第一部隊隊長のブラムだ。改めてお前等の名を聞こう」

「がははっ、俺はアークだ。よろしく頼む」

「葬儀人のバイオレット・フィズ。……フィズとでも呼んでくれ」

ネットゲーム〈New Age〉の創造に携わっていた(みさき)朝日(あさひ)

彼女が意識混濁性消失障害(ロストボディ)の異常を後々覚り、対策として生み出したのが葬儀人だった。

「忘れるな。あくまで〈クシャティケルの灯〉を制圧するまでの間だ」

「あぁ、今はそれでよしとしよう」

〈New Age〉内の歪みを(ただ)す存在である筈の葬儀人フィズとアークの接触により、ブラムの運命は大きく歪み出していた。




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