昇天の隣人「ヴァンパイア」⑥
━━円卓の騎士団。
フロウウェン王への忠誠を放棄し、〈メンデルハープの樹皮城〉を去った騎士達。
彼等を取り纏めるのが、かつて〈黎明の騎士団〉第二部隊の長を務めていた「スメラギ」である。
彼は幻想剣〈円卓〉を所有したまま行方を眩ませ、幾泊の間を挟んで再びウェルズニールへ舞い戻っていた。
スメラギの過去と、掲げる幻想剣の名に由来して、その反抗勢力はいつしか〈円卓の騎士団〉と呼ばれている。
現在、ウェルズニール領土西に位置する透石箔の廃館〈クリアンレズム〉を根城に据える〈円卓の騎士団〉。
騎士団とは名ばかりで、実質、彼等の装いは極めて開放的である。
中には元々、ネットゲーム「New Age」を楽しんでいた〈上界の移人〉━━意識混濁性消失障害の姿も見つけられた。
性分なのか、やや意固地で思考の偏りが顕著なスメラギは、度を超えた仲間の気安さに度々、悩まされている。
〈円卓の騎士団〉はその名称からは想像し難い奔放さを兼ね備えていた。
クエスト過程で訪ねる事なる〈クリアンレズム〉の館主は〈変革〉後、人知れず館を棄てており、スメラギ達は廃棄された館に着目し、各々が住み易く、また戦いに備えた改築を施している。
時を重ね〈クリアンレズム〉は立派な要塞へと変わり果てていた。
苔生えた塀に挟まれる柵門を抜けると、広々した庭園が一面を占める。
薄い萌黄色の草地へなだらかな線を引く細道。
廃棄前の館主による趣向が垣間見られる花壇に噴水。
良い意味で平凡とした景観が続くかと思うと、その趣きを大きく裏切るのが〈クリアンレズム〉本館である。
New Ageの世界でのみ瞳に収められる透石と名付けられた鉱石。
荒削りな表面は指でなぞってみると、ややざらついているのが分かる。
磨りガラスを想起させる透石の壁面は光だけをじんわりと通す。
日が沈み、辺りが薄闇に包まれると、館内の照明を滲ませてぼんやりと発光する館は幻想的であり、淡い光景はどこか絵画じみた抽象さを感じさせる。
床、壁、天井と全てが透石によって築かれている館内は、集団生活という面において生活規則が周知の元に晒される不満点はあるものの、それを補って余りある美しさを秘めていた。
神経質な人間が少ないのも幸いしたのだろう。
現在まで一度きりも集団にて憂慮されし諍いが起きていないのは奇跡的にも思われた。
固い結束力を見せる彼等は、何度目かの〈黎明の騎士団〉撃退に成功し、撤退していくアーク率いる第二部隊を見逃し祝勝会と称して酒に浸る気楽さ(傲慢さ)をも見せていた。
ここに至って、かつて〈黎明の騎士団〉を背負い、誰よりも平和を待ち焦がれていたスメラギがなぜ祖国に反旗を翻したのか。
経緯のあらすじを語らねばならない。
元〈黎明の騎士団〉第二部隊隊長━━箱庭の小人〈ラギアス・メイ・リファト〉。
通称「スメラギ」。
鮮やかな金色の頭髪に、痣の無いきめ細かな白肌。
色素の異なる両眼は、右は薄い蒼で、左は濁った碧色の瞳孔を覗かせている。
端整な風貌は実年齢よりもかなり若々しく見えた。
丹念に磨かれ光沢のある純銀の甲冑は、名高い職人による熟練した技術の詰まった逸品だ。
鎧の内部には魔術抵抗の術式も記されており、高精度の軌道曲折をも保有している。
腰元には二本の剣を携えており、戦いとなると……幻想剣〈円卓〉ではなく宝星具である刺突剣〈閃光〉を抜く。
一突きに複数の箇所を貫く閃光はスメラギの地位を段階飛ばしに昇格させた。
温和な国柄で他国へ知られていたウェルズニール。
過去、その平穏を打ち破ったのが反乱軍〈クシャティケルの灯〉だった。
反乱軍を迎え討とうと剣を掲げる前代国王コース・ティ・フロウウェン率いし〈黎明の騎士団〉の中には━━。
現国王ベティリア・ティ・フロウウェン。
二人の愛娘であるメルティ。
そして……ブラム、スメラギ、グレイの姿もあった。
一方、撹乱と陽動を主軸に立ち回る〈クシャティケルの灯〉。
国へ言葉なき訴えを向ける反乱軍の中には、後々メイジ達、意識混濁性消失障害の希望を打ち砕く〈葬儀人〉の一端。
当時はまだあまり浸透していなかった意識混濁性消失障害の存在。
先立って「New Age」に飲み込まれしリリアとマオの姿も紛れていた。
小人と移人によって混合編成された反乱軍の先導に立っていたのは、ネットゲーム「New Age」のサービス直前にヴァンプ・ブギア・スカーレットと別れ、独りウェルズニールへ足を運んでいた青年。
始祖たる吸血剣〈宵闇の串刺公〉を握るソウイチロウの姿。
時を隔てて……未開領域を北上し、風の噂を頼りに〈クリアンレズム〉へ辿り着く三人組の姿。
突然の来訪者を館内へ招き入れ、スメラギは歓迎の意を示す。
「久しぶりだね、グレイ」
白黒の記憶と寸分違わずに柔らかな眼差しを向けるスメラギ。
彼はふっと微笑みながら、握手を求め腕を伸ばしてきた。
白黒は黙って、差し出された手を掴む。
━━歓迎するよ……ようこそ〈円卓の騎士団〉へ。




