08 如月尼、唐衣を救う
さて、良門と名乗り父・将門の意思を継ぐ決意をした平太郎。
そして、仲間を集める旅に平太郎を送り出した如月尼。
彼女は、仏に使えるのを止め、帰俗することを決めた。
袈裟を脱いで華やかな着物を着たまではよかった。
しかし、髪の毛が伸びきらずに毬栗の棘のように逆だった様子は、なんとも凄まじい姿だった。
彼女は、応神天皇の母で、女性でありながら軍を率いた神功皇后にならい、自分も女将軍になると言って息巻いた。
彼女が住む筑波山の麓の隠れ家には、将門にゆかりのある者たちが集まってきた。
その中の頭とも言えるのは、将門の元家臣の将真の息子の真熊だった。
真熊は、今は猟師の棟梁のような存在で、荒猪丸と呼ばれていた。
如月尼は、良門と共に国家転覆する大願を成就するため、百日の無言の行を始めた。
毎晩深夜、如月尼は、鏡を胸に下げ、片手に剣、片手に銅の鈴、両端に火のついた松明を口に咥え、筑波山を登った。
また、荒猪丸に命じて、毎晩一人の人間を殺し、その首を筑波明神に捧げた。
とても正気の沙汰とは思えないが、これもまた肉芝仙の妖術のためと思われた。
一方、光雅から「陰の太刀」のことを聞いた光国だったが、この「陰の太刀」を密かに狙っている者がいた。
それは九四郎という男で、光雅の元に軍学を学びに通っていた。
光雅が亡くなってしばらくした、ある雪の降る夜。
その夜、光国も留守にしていることを知った九四郎は、「陰の太刀」を奪う絶好のチャンスと考えた。
九四郎は、唐衣のことを横恋慕していた。
そこでこの機会に、「陰の太刀」と唐衣の両方を奪おうと思い、光国の家に侵入した。
「陰の太刀」と唐衣を奪い取った九四郎が逃げ出そうとすると、一人の下女がそのことに気づいて叫んだ。
「盗人です!誰か捕まえて!」
慌てて逃げ出す九四郎。
追手を恐れて、九四郎は、筑波山を抜ける山道を通って逃げることにした。
しかし雪はだんだん激しくなった。
そこで足止めを食った九四郎は、筑波明神で一休みすることにした。
そして、背負っていた笈の中から唐衣を出すと、自分の思いを打ち明けた。
しかしそんな九四郎の言いなりになる唐衣ではない。
唐衣に拒絶された九四郎は、刀を抜いて唐衣に迫った。
その時だった。
筑波明神の社から、目にも止まらぬ速さで一振りの刀がきらめき、九四郎の首を刎ねた。
驚いて見る唐衣。
そこには、刀を持って立つ如月尼の姿があった。
毎夜、国家転覆祈願のため筑波明神に通っていて、たまたまそこに居合わせたのだった。
如月尼は、九四郎が持っていた「陰の太刀」に気付き、中身を確認する。
かなりの名刀であることを一目で見抜いた如月尼は、一緒に入っていた手紙を読んで、これが光雅の物であることを知る。
そして、そこにいる女が唐衣であることにも気づく。
如月尼は、光国が腕の立つ男だとの評判を聞いていた。
そこで、唐衣を人質にして、光国を仲間に引き入れられないかと考える。
そこに筑波明神に司える男たちが数人駆け込んでくる。
彼らは、毎晩、筑波明神に生首を捧げに来る悪人たちを捕らえに来たのだった。
しかし彼らは、荒猪丸によって簡単に倒されてしまう。
その頃、家に戻った光国は、唐衣と「陰の太刀」を奪われたことを知り、愕然とする。
慌てて辺りを探すが見当たらない。
こうなったら国中を探してでも何とか取り返さなければと思い、光国は、急いで旅支度をして家を出た。
光国が川を渡ろうとすると、川上から生首が流れてくる。
驚いて見ると、光雅の元に通っていた九四郎の首だった。
よく見ると、その首は口に手紙のようなものを咥えている。
読んでみると、将門を讃えるような祈祷文が書かれている。
これを見た光国は、唐衣と「陰の太刀」が、将門にゆかりのある悪人たちの手に落ちたと察する。
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