04 安方の家族を襲う悲劇
安方が平太郎を探して旅立ち、外浜に残された妻の錦木と息子の千代童。
二人は、ひたすらに安方の帰りを待ち、既に二年が過ぎていた。
その安方が、やっと探し当てた平太郎の手によって斬られたことなど知る由もない。
やがて、錦木は病に倒れる。
この時、息子の千代童は十一歳になっていた。
一生懸命に母の看病をするが、なかなか良くならない。
この様子を見ていたのが近所に住む医師の老熊。
老熊は、体が大きくて太った、体毛の濃い男で、一人暮らしだった。
かねてから錦木のことを見初めていた。
そこで、この機会に薬を持って行って恩を着せ、回復したら自分のものにしてしまおうと企んだ。
老熊の持って行った薬が効いたのか、錦木の病は徐々に回復した。
錦木と千代童の二人は、お礼をするために老熊の家を訪ねた。
しばらく話をしていると、老熊が、隠していた下心をむき出しにする。
「旅に出た安方は、今頃どこかで行き倒れて死んでいるだろう。そんな男のことは忘れて、俺と一緒に暮らさないか?」
そんな誘いを錦木は、にべもなく断る。
すると憤慨した老熊は、二人を縄で縛り上げる。
そして、裸にした千代童の体に酒を塗ると、庭の草藪の中へ放り出した。
たくさんの蚊が素肌に食いついてきて、千代童の体は見る見るうちに赤く腫れ上がる。
これを見ていた錦木は、止めろと叫ぶ。
「だったら俺の女になれ」
そう言って錦木に迫る老熊。
しかし錦木は拒絶する。
すると老熊は、錦木を梯子に縛りつけ、その下で火を焚き、杉の青葉を焚べて、その煙で燻攻めにした。
その煙で苦しそうに咳き込む錦木。
「どうだ、観念して俺の女になるか?」
老熊にそう言われても、錦木は拒絶し続ける。
そしてついに、苦しみに耐えかねた錦木は、自ら舌を噛んで自害してしまった。
それを見て慌てた老熊。
千代童の方を見ると、彼も苦しむのをやめて、身動き一つしない。
「二人とも殺してしまったか」
さすがにこれはまずい思い、老熊は身支度をして逃げ出そうとする。
そこへ近所の村人がやって来て叫ぶ。
「人殺しだ!」
慌てて駆け出す老熊は、なんとか村人の追手を振り切って逃げた。
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