11 呪われた宮殿ー相馬内裏
さて、妻の唐衣と「隠の太刀」を探して旅をしていた光国。
はるばる陸奥国まで足を伸ばしたが手がかりは得られなかった。
そんな時、常陸国から来た旅人から、気になる話を耳にした。
「以前、将門が宮殿を築き、今は廃墟となった相馬内裏に、最近、夜な夜な妖怪が現れるらしい。きっと将門たちの怨霊のせいだと言って、みんな恐れている」
唐衣と「隠の太刀」を奪った者が、将門にゆかりのある者だと光国は推測していた。
そこで、下総国に行ってみることにした。
下総国に着いた光国は、相馬内裏の跡地がどこにあるか地元の人々に尋ねた。
おおよその場所は分かった。
しかし正確な位置までは分からない。
光国がその付近を歩いていると、目の前を白い髑髏がふわふわと飛んでいく。
怪しいと思い後を追う光国。
するとやがて、焼け残って朽ち果てた大きな建物にたどり着いた。
よく見ると周囲には、たくさんの折れた矢や人骨が転がっている。
相馬内裏の廃墟に間違いなかった。
光国は、書院と思しき建物の中に入った。
すると様々な妖怪変化が現れ、光国を脅かす。
しかし光国に直接危害を加えるわけではない。
肝の太い光国は、それらの妖怪を少しも恐れることはなかった。
しばらくすると、鉾を持った四人の男が光国に襲いかかってきた。
こうなると、さすがの光国も知らん顔は出来ない。
四人を相手に斬り合いが始まる。
一対四なので、さすがの光国もすぐには全員を倒せない。
そこに女の声が響く。
「ちょっと待て。その旅人に話がある」
そこには、この世のものとは思えないほどの美女が絢爛豪華な着物を身に纏い立っていた。
その美女こそが、将門の娘の如月尼だった。
今は髪の毛もしっかりと伸びて、美しい簪を刺した見事な日本髪を結っている。
そして彼女は、その名を瀧夜叉と改めていた。
瀧夜叉は、自分が将門の娘であると名乗った。
そして自分は、将門の意志を継ぎ、弟の良門と共に今の朝廷を倒し、良門を新皇とする新しい世を作るのだと言った。
「そのためには腕の立つ武者が必要だ。今のお前の戦いぶりを見ていると、なかなか良い腕をしている。仲間にならないか?」
瀧夜叉は、こう言って連判状を取り出すと光国に渡し、血判を押せと言う。
こう言われた光国は、仲間になる気など全くないと断る。
その時、光国の指先をかすめるように弓が放たれた。
それは、身を隠して様子を伺っていた荒猪丸の放った弓だった。
慌てた光国の手から連判状が落ちて床に広がる。
そしてその上に、矢で傷ついた光国の指から溢れた血が滴り落ちた。
まるで、連判状に血判を押したかのようだった。
これを見た光国は、なぜか急に仲間になると言い出す。
ただし自分の名を堀江次郎当春と偽る。
連判状に書かれた文字の筆跡に見覚えがあったのだ。
そう、川を流れてきた九四郎の首が咥えていた書状に書かれていた文字だった。
光国が仲間に入ることを喜んだ瀧夜叉は、酒宴を催すよう手下に命ずる。
時はちょうど桜の咲き誇る春の夜。
瀧夜叉は、大勢の腰元たちを集めて酒宴を始めた。
そこで光国は、得意の詩を吟じて見せ、瀧夜叉も大いに喜ぶ。
光国に向かって瀧夜叉は言う。
「お前は、腕も立つし学もある。自分にはまだ夫がいないので、自分の側に仕える気はないか?」
こう言われた光国は、自分のような身分の低い者があなたに仕えるわけにはいかないと断る。
すると瀧夜叉は、光国に身をすり寄せ、彼の胸元に手を伸ばした。
慌てて逃げようとする光国。
しかしその時既に、瀧夜叉の手には、光国の胸元から奪い取った短剣が握られていた。
「お前の本心を確かめるため、このような宴を設けたが、やはり私を騙そうとしていたな。お前、本当は大宅の太郎光国だろう!」
そう言うと瀧夜叉は光国に襲いかかる。
慌てて身をかわす光国。
さらに近くにいた腰元たちが、薙刀を手に光国を取り囲み、四方から襲いかかる。
そこで光国は足元の畳を剥がして、それを受け止める。
行燈の火が一斉に消えて、室内が真っ暗になる。
その隙を狙って、光国は、外へ飛び出した。
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