ノア、自分の気持ちに気付く。
7月最後の日曜日。今日は東京で花火大会が開催される。ノアは今日の為にいろいろ準備をしていた。昼間からソワソワしているのを斗真に見透かされ
「ノアちゃん!今日は落ち着きないけど大丈夫?何かあるの?」と聞かれる。
「ないない!何もないよ!ちょっと買い物に行ってくるからくま太と待っててね。」と一方的に伝え、慌てて出掛ける。
ノアは斗真と花火を見ると決めていた。あの部屋から出られない斗真の為にあの場所(部屋)でたくさんの行事ごとを楽しもうと決めたのだ。その第一弾となる今日の花火大会!部屋の中でも外にいる雰囲気を醸し出す為に、まずは食べ物を買いに行く。お祭りと言えば焼きそば、唐揚げ、ポテト、わたあめと出店で売っている物を買い込み、飲み物はビー玉が入ってる懐かしいラムネを買う。ついでにキャラクターの団扇も買ってみた。ワクワクが止まらない。
家に帰って来てからが大変だった。何を企んでいるのかと興味津々で買って来た物を覗き込んだり、ノアの行動を監視するように見てくる斗真。そんな斗真に向かって一喝。
「いいからいいから!気にしないで!いいよって言うまで寝室でくま太と待ってて!」慌てふためくノアを見て
「えっ!なになに?」とニヤニヤしている斗真にノアはふざけて睨み
「いいから寝室に行って!」とくま太を連れて部屋のドアを開ける。斗真は観念しノロノロと寝室に入っていった。
「いいよって言うまでこっちに来たり覗いたりしない事!約束だよ!」念を押された斗真は大人しく待つことにした。
「さてと!」気合いを入れ部屋を見渡す。まずはテーブルをどかしテレビの前にレジャーシートを履き、カーテンを閉める。買って来た物を紙皿に盛り付け、懐かしの瓶のラムネを置く。そして着付けが出来なくても簡単に着ることが出来る浴衣に素早く着替え髪をアップする。団扇を持ち時計を見てテレビをつける。花火大会の中継が始まっていて、司会者がゲストのタレントに花火大会の思い出などを聞いていた。よしっ!間に合った!寝室のドアをノックし姿が見えないようにドアを開け
「お待たせしました!斗真くんこちらにどうぞ!」と声を掛ける。電気もつけず暗い部屋に不安を感じながら恐る恐る寝室から出る。
「ノアちゃん…どこ?」キョロキョロしていると背後から
「花火大会へようこそ!」と大きな声が飛んできた。
「うわぁービックリしたー!」幽霊らしからぬ驚き方にノアは大爆笑。振り向くと浴衣姿のノアがニコニコして立っていた。その姿を見て斗真はドキドキする。
「ノアちゃん…浴衣着て…どうしたの?これからお出掛け?」直視出来ず視線を逸らす。
「そう!お出掛け!斗真くんと花火見に行くの!」
「えっ?ノアちゃん、ごめん。僕この家から出られないんだよ。」悲しそうにうつむく。
「分かってる!だからこの家で花火大会に来てる気分になるの。テレビ中継が始まるから、テレビ越しだけど一緒に花火見ようよ。気分だけでもお祭りに来てると思うとワクワクするよ!」レジャーシートに座り斗真を手招きする。
「隣に座って!斗真くんの好きな唐揚げも買ってあるから花火見ながら食べよう!」と子供のようにはしゃいでいる。斗真は感動と感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
「ノアちゃん…僕のために本当に本当にありがとう。花火なんて生きてる時でさえまともに見に行ったことないからもの凄く嬉しいよ。」立った状態でペコペコ頭を下げている斗真に
「斗真くんが喜んでくれるだけで嬉しいの。あっ!早く座って!始まるよ!」慌ててノアの隣に座る。
ドーンドーン!花火大会が始まると2人ともテレビに映る盛大な花火に釘付けになった。
「綺麗…。」ノアの呟く声が聞こえ、斗真はノアの横顔をジッと見つめる。いろいろな思いが込み上げノアから視線を逸らすことが出来なくなった。
「綺麗だと思わない?」と同意を求めるように斗真の方を向くと目が合った。
「えっ?なに…ちゃんと花火見てよ…恥ずかしいじゃん。」照れるノアに
「ごめん。ノアちゃんの気持ちが嬉しくて…こんなに幸せな気持ちになったこと一度もなかったから…本当にありがとう。」ノアは笑顔で頷き「花火楽しもう!」と言って買ってきたキャラクターの団扇を斗真に向けておもいきり仰ぐ。
「まったく風を感じないんだけど!」ドヤ顔の斗真に向かってさらにムキになって団扇を仰ぐノアを見て、斗真は心から楽しくなり笑いが止まらなかった。
その後もノアは斗真の為に、家の中でも外の気分を味わえるような、そんな試みを続けていた。
8月には部屋に小さいビニールプールを組み立て、足首が浸かるくらいの水を入れ2人でプールに入り、エアコンもつけず窓を全開にし蝉の声を聞きながら夏を感じた。
9月はスーパーでお団子を買い(無料でお待ち下さい)とポップとともに置かれているススキを持ち帰り、カーテン全開でお月見を楽しんだ。
10月はハロウィンパーティーでノアだけ仮装し「斗真くんはもともとお化けだからそのままでオッケー!」と言われ、一瞬複雑な気持ちになったが、ノアの無邪気な言い方に自然とポジティブな気持ちになり、お化けらしく振る舞いノアを笑わせる事が出来た。
11月は紅葉シーズン!100円ショップで作り物の紅葉したもみじを買って部屋に飾り、引っ越しの時に使った大きめの段ボールで即席の車を作った。その段ボールの車に2人で乗り、ドライブしながら紅葉を楽しんでる気分を味わった。
子供が楽しむような事を大人でも本気で楽しむ事が出来るノアのアイデアは、一種の才能なのかもしれない。こんな風にノアが考えてくれる行事ごとが毎月楽しみになり、その度にノアへの感謝の気持ちとノアへの愛が増していく斗真だった。
東京に来て初めての年末。年末というだけで何となく全てが忙しく感じるから不思議だ。今月は一年で1番といっていいほどの大イベント、クリスマスがある。どんなクリスマスパーティーにしようかと四六時中考えていた。そんな中、先輩の佐々木さんにスタッフの鈴木さんとノアの3人で早めの忘年会をしないかと誘われた。もちろん、少人数なら喜んで行くノアなので二つ返事でOKした。
仕事の後3人で居酒屋へ。もっぱら盛り上がった話題は鮫島の話しだった。
「鮫島くんさぁ〜いつの間にかノアちゃんのことノラじゃなくてノアって呼んでるよね。」
「そうそう!最初のうちは意地張ってノラってわざと大声で呼んでたのにさ〜皆がノアちゃんって呼ぶようになったら、前々からノアって呼んでました〜って感じで普通にノアになってたよね。」
「鮫島くんって小学生の男子かよって感じだよね。ノアちゃんの事が気になってるから意地悪してたんだよ。」と言われ慌てて否定した。
「絶対違うと思います!それは絶対ありえないです!」
今までの悪事を思い出し絶対それはないと確信する。
「当時は私達も調子に乗ってノラちゃんなんて呼んでごめん。でもノアちゃん、喜んでる素振り見せるから嬉しいのかと思っちゃってたよ。」
「私が悪いんです。最初から拒否すればよかったのに喜んでるフリなんかしたから。」
「あの雰囲気では言いづらかったよね。本当にごめん。」2人から謝られ恐縮してしまう。鮫島の話題が一通り終わった後は恋愛の話しで盛り上がった。誰と誰は付き合ってるだの、誰さんの事が気になるだの恋愛経験のないノアは聞き役に徹していた。すると佐々木さんが
「ノアちゃんは彼氏いないの?」と聞いてきた。
「いませんよ。今は欲しいとも思わないです。」
「気になる人もいないの?」
「いないです。」
「なんか寂しいね…好きな人いるだけで日々楽しくなると思うけどな。」
「いなくても毎日楽しいです。」
「毎日真っ直ぐ走って帰るから同棲でもしてるのかと思ってたんだよ。」と鈴木さんがニヤニヤしながら腕をツンツンする。
「同棲は…してないですけど…友達はよく遊びに来ます。」斗真の事が頭に浮かんだので友達風に言ってみた。
「えっ?男の友達?」と聞かれ咄嗟に嘘をつけず「そうです。」と答えてしまう。
「男友達に恋愛感情とか湧かないの?」
「恋愛感情ってどんな感じですか?」
「えっ…人を好きになった事ないの?」
「あっ…はい。」
「その友達といると楽しいとか、一緒にあちこち出掛けたいとか…じゃあ例えばだけど、その友達に彼女が出来たらどんな気持ちになる?」と聞かれ想像してみた。斗真が生きた人間で彼女が出来たら…考えただけで胸が苦しくなった。悲しい気持ちでいっぱいになった。嫌だっていう気持ちでいっぱいになった。辛くなり言葉にすることも出来ず黙り込んでしまう。先輩2人が顔を見合わせ、やれやれと言う感じで頷き合う。
「ノアちゃん、自分の気持ちに気付いてないだけで多分その友達のこと好きだと思うよ。」うんうんと鈴木さんも頷く。
「他の子に取られちゃう前に、ほら!クリスマスもあるし告白してみたら?」
「えっ好き?好きなのかな…そうかもしれないですね…失うこと考えると本当に辛くなります。でも今の関係壊したくないし…言ってもどうにもならないから。」
「ノアちゃん、伝えないとたぶん後悔すると思うよ。もしダメだったとしても今の関係が壊れることないと思うな。」伝えないと後悔する…その言葉を聞いてさらに胸が張り裂けそうになった。頭の中でいろいろな思いが巡る。そして…ノアは決断した。
「佐々木さん、鈴木さん、ありがとうございます。お二人に言われて初めて自分の気持ちに気付く事が出来ました。気付けて本当に良かった。私なりのやり方で思いを伝えてみます。」ガッツポーズをして見せる。
「ガッツポーズとか(笑)戦いに行くわけじゃないんだからね。ちゃんと伝えてよ!」と言われ顔を赤らめた。
無事楽しくプチ忘年会を終え家路に向かう。自分の気持ちに気付いてしまうと、斗真が待つ家に帰るのが少し緊張する。2人には思いを伝えると断言し自らも決断したが、斗真に気持ちを伝えていいものか迷い始めていた。伝えてどうにかなる2人でもない。付き合うこともデートすることも…まして結婚することも出来ない2人だ。でも…でも…斗真とずっと一緒にいたいと思う気持ちに嘘はない。何処にも行けなくてもいい。一緒にお話ししてるだけで幸せだ。そもそも斗真の気持ちを無視して勝手に悩んでいるけど、斗真が私の事何とも思っていなかったらこの思いを伝える事は迷惑なだけだ。このままでのいいのかも…そう答えが出た所でタイミングよく家に着いた。ちょっとドキドキしながらドアを開ける。
「た、ただいま。」どうやらノアは緊張するとどもる癖があるようだ。
ドアからヒョイっと斗真が顔を出した。
「ノアちゃんお帰り!」その瞬間さっき出した答えが180度ひっくり返った。やっぱり伝えたい!
「遅くなってごめんね。今日は急遽佐々木さんと鈴木さんとプチ忘年会する事になって行って来たの。楽しかったから話し聞いてくれる?」
「そうだったんだね。うん!聞く!聞くよ!女子トーク、もの凄く気になる!」斗真は楽しそうにノアの後を着いて歩いた。まるで母親が帰って来て嬉しくてまとわり着いている子供のように。
7話も最後まで読んで頂きありがとうございます!
無事にノアは斗真に告白する事が出来るのか…2人の仲がどうなるか…。
次回もよろしくお願いします!




