表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きて会えたら  作者: みりな
PR
6/20

斗真、自ら命を絶った経緯をノアに告白する

東京に来て3ヶ月。ジメジメした梅雨も明け夏真っ盛りの帰り道、流れてくる汗を拭きながら斗真のリクエストのそうめんを買いにスーパーに寄る。水で流すだけで食べられるそうめんと、お惣菜の天ぷらをカゴに入れレジへ並ぶ。ちょっと手抜き過ぎかなと反省の気持ちが湧いてきたが、時短になってその分斗真くんと長くティータイムが出来るから良しとしよう!と都合の良い言い訳を見つけ安心する。スーパーを出るとあまりの暑さにクラッとする。体を冷やすためにも食後のデザートはアイスにしようと決め、家の近くのコンビニに寄る。

斗真くんは何のアイスが好きかな?明日も食べられるし4個買っちゃおう!違う種類のアイスを4個選び、ふとカゴの中を見る。4個…4…縁起が悪い気がし、もう1個カゴに入れる。縁起が悪いで斗真の事が浮かんだ。ずっと聞きたくても聞けない事がある。どうして自ら命を絶ったのか。聞く事で当時を思い出し辛い気持ちにさせてしまうかもしれない。そう思うと聞けなかった。でも…どうだろう…誰にも辛さを話せず死を選んでいたら…話す事で少し楽になれたりするかもしれない。いや、自分がそうだったからといって斗真くんがそうとは限らない。でも…斗真くんの苦痛な思いを私も共有してあげたい。今日は私の話しではなく斗真くんの話しを聞きたい。話してくれるだろうか。


夕食後すぐにコンビニで買ってきたアイスを準備していると斗真に

「ノアちゃん、お腹いっぱいって言ってたけど…まだ食べるの?」と笑われた。

「甘い物は別腹だもん。てか斗真くんも毎日一緒に味わってるし!」ノアも笑ってツッコむ。

「僕はお腹いっぱいになる事ないから、いくらでも味わえるのさっ!」

「なるほど!じゃあ食べよっ!」2人で笑いながらアイスを食べる。最後の一口を食べ終えた後、ノアが正座に座り直し真剣な顔で斗真を見る。

「斗真くん。ずっと聞きたいことがあって…でもずっと聞けなくて…このまま聞かなくてもいいかなって思ったりもしたんだけど…。」そこまで話すと斗真は察した。

「そうだよね。うん。聞きたいことは分かってる。どうしてこうなったのか興味あるよね。」と言われ慌てて否定する。

「興味とかじゃないよ。辛かったこたを話すことで少しでも楽になれるんじゃないかって思ったのと、斗真くんの苦しみを一緒に感じて受け止めたいって思ったから。偉そうに言ってしまったけど…本当に興味とかじゃなく斗真くんの事が心配だから…。」黙って聞いていた斗真の目から涙がこぼれた。

「ノアちゃん…ありがとう。こんなにも僕の事を心配してくれるなんて…。」しばらく言葉を詰まらせた後ゆっくりと話し出した。

「どうしてこんな結末になったのか話すよ。というか聞いてほしい。」

「うん。聞くよ。無理なくゆっくりでいいからね。」ノアの目を見て頷く。

「僕の両親はとても厳しい人だった。父は会社を経営をしていて母も公務員だった。僕には兄がいて…定番な話しなんだけど兄は優秀、僕は落ちこぼれで、兄と僕を比べ父には常に嫌味を言われていた。兄はもともと真面目で勉強が好きだったから、今置かれている立場を苦痛とも思わず人生を楽しんでいた。でも僕は…父が求める良い大学、良い会社に行かなきゃならない人生が本当に辛かった。それでも親の言うことは正しいと思い込まされて育ってきたから、必死で勉強しどうにか父が許してくれるギリギリの大学に入学する事が出来たんだ。大学に入ったばかりの頃はそれなりに楽しかった。サークルにも入って、いつしか勉強よりもサークル中心の大学生活になってしまっていて…その結果成績も落ち、父から強制的にサークルを辞めさせられてしまったんだ。そうなると何の楽しみもなくなり、ただただ無心で大学に通い続けたよ。真面目に生きていればきっと良い人生が待っている、両親の言う通りに生きていれば成功者になれるって信じて。そんな間違った考えを自分に擦り込ませていた。」

「何のサークルに入ってたの?」話しの途中だったが、斗真が何に夢中になっていたのか気になった。

「ちょっと恥ずかしいけど、ノアちゃんと同じで音楽が好きだったからバンドのサークルに入ってた。僕はギター担当で、それは楽しくて仕方なかった。」当時を思い出し生き生きとした表情を見せる。

「斗真くんも音楽に興味があったんだ。それなのに続ける事が出来ないなんて…斗真くんの人生なのに好きな事も出来ないなんて…親がいるから幸せとは限らないんだね。」斗真の辛さを思うと胸が苦しくなった。斗真は続けた。

「就職活動が始まり、父の勧める会社を何社か受けたんだ。でも倍率が高い会社ばかりで全て落ちた。倍率が高いって言うのは言い訳だね…。」ハハと悲しげに笑う。

「最終的に父の力で1社だけ内定が決まったんだ。父の為にも父の顔を汚さない為にも頑張ろうって当時は本気で思ってた。でもね…ノアちゃん…やりたい仕事じゃないと脳が積極的に覚えようって働いてくれなくて…覚えが悪い!仕事が遅い!やる気が見られない!ってレッテルを貼られちゃって。同期にもどんどん追いていかれてる気がして焦るし、焦れば焦る程失敗も多くなって怒られた。そのうち先輩からのいじめが始まったんだ。仕事を押し付けられ、家に持ち帰って寝ずに仕事をしたこともあった。職場でも遅いって後ろから蹴られたり物を隠されたりした。そしてとうとう同期までもが一緒になって僕をいじめるようになったんだ。」当時を思い出し怒りと悲しみで苦しそうに目をつぶり息を荒げる。ノアは泣きながら触れることの出来ない斗真の背中に手を添えた。ハッとして斗真が目を開ける。ノアの優しさに触れた斗真は、少し気持ちも落ち着き再び話し始めた。

「そして耐えられない出来事が起きた。その日いつも通り帰り際に仕事を押し付けられたんだ。けど、珍しく自分の仕事が終わってたし、30分くらいで終わらせられると思ったから残って仕事をしてた。そしたら仕事を押し付けた先輩が戻って来て、余裕そうな僕が気に入らなかったのか僕の仕事のデーターを全て消してしまったんだ。頭が真っ白になったよ。どう頑張っても明日の朝までに終わるような仕事の量じゃなかったから。呆然としている僕に先輩が「明日までに出来てなかったらどうなるか分かってるよな?取引先にも迷惑かける事になるから大変な騒ぎになるぞ。だから絶対に終わらせろよ。」そう言って僕の頭を叩いて帰ってしまったんだ。正直その後の事は覚えてないんだ。気が付いたら家に向かって歩いてた。家に着いてから我に返って青ざめたよ。仕事を放棄して返って来てしまったって。もう会社に行く事は出来ない。父にも連絡がいくだろう。父の顔を潰してしまう。父に合わせる顔がない…どうしよう…どうしよう…もう逃げるしかないって思った。この世から逃げる事しか頭になくなっていた。そして(迷惑をおかけして申し訳ありません)と一言だけメモに残し…何の躊躇もなくそこのベランダから飛び降りたんだ。やっと解放されると思って。でも解放なんてされなかった。ずっとこの場所から動けないだけじゃなく…ノアちゃんには言えなかったけど…毎晩飛び降りた時間と同時刻に今の意思とは関係なく体が勝手にベランダに向かって飛び降りるんだ。そして、しばらく落ちた瞬間の痛みに耐えなければならないんだ。」

「えっ…。」ノアは絶句した。毎日そんな辛い思いをしているのに、いつも笑ってノアの話しを聞いて勇気付けてくれていたのだ。調子に乗っていた自分を恥じた。

「斗真くんごめんなさい。本当にごめんなさい。助けてもらったうえに、自分ばかり楽しかった話しを普通にしてしまって…斗真くんの立場に立ててなかった。辛かったよね。本当にごめんね。」泣きながら頭を下げ続けた。

「ノアちゃん謝らないで。逆だよ…逆なんだよ。ノアちゃんが来てから毎日が楽しくて…自分がこの世に存在しないことを忘れさせてくれて、生きてノアちゃんと暮らしている錯覚さえ起こしてしまう程なんだ。こんなに毎日笑顔でいられるのはノアちゃんのおかげなんだよ。だからノアちゃんには感謝の気持ちしかないよ。本当にありがとう。」ノアは泣き腫らした顔で斗真を見つめる。

「斗真くんにも助けてくれる人がいてくれたら…そう思うと悔しいよ。」

「今でも後悔している。この世から逃げる事じゃなく、この状態から逃げ出す事を考えれば良かったって。会社も親も嫌なこと全部捨てて一から自分の人生をやり直せば良かったって。」

「もう少し早く私が東京に来てたら、生きて会えたかもしれない…。」後悔の思いが込み上げる。

「ノアちゃん、僕ノアちゃんと過ごしてるうちに前向きに考えられるようになったんだよ。来世は自分の好きなように、自由に生きることが出来るような人生を歩めるよう、本来の寿命が来るまで頑張って耐えようって。いつかノアちゃんがこの家を出て行っても、ずっと来世の楽しい人生を考えて耐えようって。」

斗真は全てを打ち明け、満足したように笑顔でノアを見つめた。ノアは斗真の気持ちを聞いて切ない気持ちでいっぱいになった。私がこの家を出て行ったら…斗真くんはまた一人ぼっちになってしまう。そう思った瞬間、ノアは全力で斗真と楽しむ事を決意する。

「来世の人生を考えて耐える…斗真くんのような考え方…なかなか出来ないよ。前向きなところ見習いたい。斗真くんといると教わる事沢山ある。」

「僕はノアちゃんに沢山支えてもらってる。お互い有り難い存在って事かな。」それを聞いてノアはもの凄く気分が高ぶり

「ヨシッ!これからも斗真くんに笑顔でいてもらえるように沢山ドジな事して、その話しで笑ってもらえるように頑張る!」と宣言した。

「ちょっと違う気がするな(笑)クビにならないように気を付けてよ!」と指摘され、頭を抱えるノア。それを見て大笑いする斗真だった。


ノアが寝た後、斗真は穏やかな気持ちで部屋から外を眺めていた。ノアに辛かった話しを聞いてもらえた事で、怒りや悲しみの感情から解放されたような気がする。まだまだずっと先だけど、心から来世が楽しみになった。来世では生きてノアと出会いたいと心から願わずにはいられなかった。

6話目も最後まで読んで頂きありがとうございます!

次回も読んでもらえたら嬉しいです!

よろしくお願いします!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ