ノア、勇気を出して自分の意思を伝える。
次の日、ノアは久しぶりにスッキリ目覚めることが出来た。起きてハッとしキョロキョロ斗真の姿を探す。
「ノアちゃんおはよう!」
くま太の隣に座って笑っている斗真を見てホッとする。夢じゃなかったんだと安堵する。ヨシッ!と気合いを入れ身支度を整える。
「そうだ!斗真くんってご飯とか食べられる?無理かな?」
どう答えていいのか迷っている斗真をみて、こんな質問してはいけなかったと反省していると
「結論から言うと…食べられるよ。なんていうか…実際には食べられないけど、僕のために用意してくれた物なら味わえるんだ。母親が家で僕にお供えをしてくれると味が伝わってくる。そんな感じでだけど。」と笑顔で答える。
「なるほど…じゃあ今日は何が食べたい?斗真くんの食べたいもの買って帰ってくるから。遠慮なく言って!昨日のお礼がしたい!」
「ありがとう。嬉しいよ!じゃあ遠慮なく…唐揚げが食べたい。それとオロナミンCが飲みたいかな。」
「唐揚げとオロナミンCね!了解!子供みたいで可愛い!楽しみに待っててね!」子供みたいと言われ、もっと大人が好みそうな食べ物を選べば良かったと後悔し、顔が赤くなる。でも不思議とノアの前では飾らずにいられる。とっても居心地がいい。ずっと一緒にいたい!と無理な事と分かっていてもそう願わずにいられない存在になっていた。
ノアは通勤中もずっと今日言うべきことを復唱していた。ちょっと不安もあるけど、家に斗真くんが待ってくれていると思うだけで勇気が湧いてくるから不思議だ。
カフェに着きロッカー室の前で大きく2回程深呼吸をしドアを開ける。
「おはようございます!」いつも以上に大きめの声で挨拶をする。
「ノラちゃんおはよう。」と皆が各々に返してくれた。
コホンっと咳払いを軽くした後、意を決して口を開く。
「あの…皆さんにお話しがあります。」皆が一斉にノアに注目する。一瞬ひるんだが(斗真くん…頑張るから!)と心の中で斗真を思い出しゆっくりと話し出す。
「えっと…ずっと嘘をついていてごめんなさい。私…ノラって呼ばれること…猫が好きだから嬉しいとかニックネームとかいいかもなんて言ってしまったけど、本当はとっても嫌でした。なので今日からノアって呼んでもらってもいいでしょうか?」と頭を下げたタイミングで鮫島がドアを開け入ってきた。
「えっ?何だって?ちょっと聞こえたけどノアって呼べって?ノラが生意気なこと言うな!一人前に働けるようになるまでノラでいいんだよ!」と言われたが、キッと睨むように鮫島を見て
「私は赤木ノアです!ちゃんと名前があるんです!鮫島さんがノラって呼び続けるならそれでもいいです。でも名前を呼ばれない限り返事はしませんから。」
しっかりとした口調で訴えた。ノアの言動に周りは驚き何も言えずにいたが、指導係の佐々木さんが口を開いた。
「ノアちゃんごめんね。本当にごめん。もう二度とノラなんて呼ばないから。自分の気持ち伝えてくれてありがとう。」
佐々木さんの一言で皆も「ごめんね、ごめんね」と口々に謝ってくれた。鮫島は
「勝手にしろ!」とドアを思い切り閉めて出て行ってしまった。
「ノアちゃん、これからは今みたいに何でも言ってね。我慢はダメだよ。」と言ってもらえ信じられないほど気持ちが楽になった。今なら何でも言える。
「じゃあ…もう一ついいですか…私大人数での食事会とか本当はとっても苦手なんです。なので週末の反省会、出席しなくてもいいですか?数人での食事会とかあったら誘って下さい。」と頭を下げると
「ノアちゃんが無理してたの分かってたよ。それなのに出席させちゃって本当にごめん。もちろん出席は強制じゃないから大丈夫だよ。ていうか私も正直きつかったんだよね。私も今週は欠席します!」佐々木さんが断言した途端、他のスタッフも「私も!」「私も!」と同意する人が出始めた。ノアの勇気の告白で他のスタッフの苦痛も回避されることになるとは…思ったことは言ってみるもんだと清々しい気持ちでいっぱいになった。
その日の帰りにスタッフの1人、ノアより2歳年上の鈴木さんが声を掛けてきた。
「ノアちゃんお疲れ。来週末に佐々木さんとご飯食べに行く約束してるんだけど、ノアちゃんもどうかな?あっ!ちなみに私…今週も来週も反省会は欠席にする予定。」クスッと笑ってノアの様子を伺う。
「そうなんですか!来週末…はい!行きます!ていうか行かせて下さい!」
「良かった!じゃあ仕事終わったら佐々木さんと合流して行こうね!愚痴いっぱい聞くよ。」と手を振りながら帰って行った。
ノアは最高に気分が良かった。東京に来てこんなに気分が高揚したのは初めてだ。昨日この世を去っていたら…考えただけで怖くなった。これも斗真くんのおかげだと思うと、改めて感謝の気持ちでいっぱいになった。
斗真のリクエスト通り唐揚げ専門店で唐揚げを買い、コンビニでオロナミンCを2本買い家路に向かう。途中で急に不安に襲われた。もし斗真くんがいなくなってたらどうしよう…斗真くんの姿が見えなくなってたらどうしよう…不安に押し潰されそうになり走り出した。(どうかどうか斗真くんが家にいてくれますように)心の中で何度も不安を掻き消すように呟いた。こんなに走ったの何年ぶりだろうと思いながら玄関の前で息を整える。鍵を開けドアを開け恐る恐る中を覗くと、斗真が玄関前で心配そうな顔をして立っていた。斗真の姿を確認した瞬間、一気にテンションが上がる。
「ただいま〜!斗真くん!やったよ!言えたよ!もう話したい事いっぱい!」笑顔で話すノアを見て、良かったと斗真は胸を撫で下ろした。
買ってきた唐揚げを2つのお皿に分け、サラダを作り、朝のご飯をレンジで温め、オロナミンCとともに食卓に並べる。
「今日からここが斗真くんの座る場所ね!」クッションを置く。
「ありがとう。じゃあ遠慮なく…失礼します。なんか嬉しい。」とはにかむ。
「私も嬉しいよ。帰って来て斗真くんがいなかったらどうしようって不安だったから。1人じゃないっていいもんだね。あっ!まずは乾杯しよう。オロナミンCの蓋開けるね。」
「ノアちゃん!勿体ないから僕の分は開けなくていいよ。本当に飲めるわけじゃないから…ノアちゃんのオロナミンを一緒に味わってもいいかな?」
「えっ?一緒に?」顔を赤らめるノアを見て慌てて
「実際に口を付けるわけじゃないから大丈夫だよ。」と言って斗真も顔を赤らめる。
「あっ…そうだよね。じゃあ一緒に飲もう!好きな時に味わってね!」
「ありがとう。」目をつぶって味わう。
「美味しい!久しぶりに飲んだ!感動!」嬉しそうに味わう斗真を見て、嬉しくなる気持ちと同時に切ない気持ちにもなり少し胸が苦しくなった。
「それでノアちゃんどうだった?はっきり自分の気持ち伝えられたかな?」と聞かれハッと我に返り
「そうそう聞いて!」今日一日の様子を、息つく暇もない程の勢いで話しまくった。
「ノアちゃん凄いよ!昨日のノアちゃんと別人に見える!とっても生き生きしてる。ずっと心配だったから本当に良かった!」
「斗真くんには感謝しかない。斗真くんは私の命の恩人だよ!」
「大袈裟だよ。ノアちゃんの勇気が前に進むきっかけを作ったんだよ!」
「例の鮫島さんと鮫島さん寄りの人達はいい顔してなかったけど。」
「気にする事ないよ。ノアちゃんの意見に賛同出来ない人この先もいるかもしれないけど、自分の気持ちが一番だから。人の顔色なんて伺う必要ないと思う。」
「本当にそうだよね。自分の意思を伝えるだけで周りの反応もこんなに変わるなんて…。ずっと間違った考えで生きてきたのかも。相手に合わせたり周りの空気を読む事ばかり考えてた。これからは自分の気持ちに嘘をつかない生き方をする。斗真くんが居てくれたら何でも出来そうな気がする。」純粋なノアの気持ちを聞き、ずっと側で見守っていたいと強く思う斗真だった。
次の日から元気いっぱいで起きてくるノア。毎朝
「今日は何が食べたい?」と聞いて来てはリクエストに答え、忠実に買ってきてくれる。(生きていたら確実に太ってることだろう)
ノアと過ごす事で幸せを感じる時間が増えた。と同時に死んだ事への後悔もどんどん増えていく斗真だった。
5話目も最後まで読んで頂きありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!




