ノア、幽霊の斗真と出会い(存在に気付き)意思疎通出来るようになる。
ノアにとっての一番恐怖の時間、週末の飲み会の日が今日も来てしまった。断る理由も見つからず断る勇気もなく毎週出席している。今日も時間が過ぎるのをじーっと待つことにしよう…鮫島の目に留まらぬように。
そんなノアの願いも虚しく今日は鮫島に今までにないほど絡まれた。
「施設ってどんな感じか教えてよ!」
「学校の授業参観の時は誰が来るのか教えてよ!」
「施設育ちは施設同士で付き合ったりするんだろう!」
「今までの人生を15分だけノラの為に時間あげるから語ってみろよ!」
周りのお客さんにも聞こえる程の大声で絡んできた。鮫島が怖いのか誰も鮫島の暴走を止めることが出来ず、皆がノアに注目している。いつもだったら笑っておどけるノアだが、今日は笑うことすら出来ずうつむいてしまう。その行動に対してさらに腹が立ったのか、鮫島はノアの隣りに座っているスタッフをどかし、ノアの横にドカッと座る。そして耳元で
「聞いてるのか!シカトするな!上の命令が聞けないのか!早く語れノラ猫が!」と怒鳴られた。
限界に達してしまったノアは、バックを持ち黙ってその場を立ち去った。後ろから鮫島の大笑いする声が聞こえ、耳を塞いで走り出した。
精神的にかなり参っていたノアにトドメを刺すような今夜の飲み会。早く帰りたいのに心身ともに疲れすぎて上手く歩けず、亀が隣を歩いていたら抜かれているのではないか?くらいの歩幅でゆっくりと歩く。
もう疲れたな…親に捨てられた人間の人生に幸せという文字はないのかもしれない。この先もずっと孤独で寂しい人生しか待ってないような気がする。夢なんてもった所で意味がないのかも。
ふと立ち止まり思い出したかのようにスマホを見る。何日か前にノアが投稿したSNSを確認するが、たいした反応もなかった。
もう何しても無理なんだ。もう今の人生終わりにしてもいいかな…頑張る意味がよく分からなくなってきたし…先生…ごめんなさい…応援して背中を押してくれたのに…こんな結末になってしまって…。
涙が溢れて止まらなかった。
相談できる相手もいなく、一緒に大笑いする友達もいない。孤独ってこんなに寂しくて辛いものなんだ。私がいなくても悲しむ人もいないし困る人もいない。何も変わらない。今日で終わりにしよう。生きていても意味がない。
そう決心しノアは考える。
どうやって終わらせる?眠るように終わらせられたら…そうだ!睡眠薬を大量に飲んで寝てしまえば苦しむ事なく終わらせられるかも。
そう決まった瞬間、解放された気分になり急にテンションが上がってきた。最後の晩餐は何にしようと考えだしたら楽しくさえなってきた。帰りながらドラッグストア(都会は遅くまで薬剤師さんが常勤でいてくれるので有り難い)を何件かまわり睡眠薬を5箱購入する。
最後はコンビニに寄り、お金を気にせず食べたい物をカゴいっぱいに詰め込みレジへ。嬉しそうにお会計をするノアを見た店員さんに
「何か良い事ありました?とっても楽しそう!」と声を掛けられハッとした。笑顔で頷き外に出る。
(こんなにワクワクするの久しぶりかも。生きる威力より終わりにする威力のが勝るなんて。ハハ…笑っちゃうよね。)そう思い一瞬迷いが走ったがノアの決心が鈍ることはなかった。
家に着き「ただいま!!」と勢い良く玄関のドアを開け家に入る。元気に帰って来たノアを見て斗真は驚いた。ここのところずっと沈んでいたノアだったので心配していたのだ。何か良い事があったのかと安心し斗真も笑顔になる。
ノアよりも先にテーブルの前に座り、久しぶりにノアの話しが聞けると楽しみに待っていた。
ノアはまず買ってきたものをテーブルに並べ、くま太を座らせる。そしてコップに水をたっぷり入れテーブルに置き、睡眠薬を5箱重ねて置く。その様子を見て斗真は嫌な予感に襲われる。
(ノアちゃん…どういう事?話して!くま太に話しかけて!お願い!何か話して!何があったの?ノアちゃん!)
ノアの横で斗真が必死に声を掛けるが、ノアにその声は届かず、買ってきた物をモクモクと食べ始めた。さらに横で斗真が
(お腹空いてただけだよね?薬は最近眠れないから多めに買っておいただけだよね?)無駄だと分かっていても不安な気持ちを抑えきれず声を掛け続ける。
「くま太、おいで。」とくま太を膝に乗せメモ用紙を取り出し "くま太も一緒にお願いします" と書く。
それを見た斗真は不安が的中してしまったと焦りでいっぱいになった。
(どうしよう…どうしたら止められる…どうしよう…生きていたら止める事が出来るのに…)後悔でいっぱいになる。
「あー美味しかった!沢山買ってきたけど食べきれなかったな…無駄にしてごめんなさい。くま太…ずっと一緒にいてくれてありがとう。これからもずっと一緒だよ。」睡眠薬の箱を開け薬を何錠も取り出す。
「やっと解放される。次は両親共に喜んで迎えてくれる家庭に生まれてこれますように。」両手を合わせ呟き、大きく深呼吸をし薬を手に取り、口に入れようとした瞬間
「ダメだーーー!」という声とともに手に持っていた薬が宙を舞う。「えっ?」何が起きたのか分からず一瞬動きが止まったノアだが、隣にいる斗真に気付き
「キャー!えっ?えっ?誰ですか?えっ?」と後ずさりする。驚いたのは斗真も一緒で
「えっ?えっ?見えてる?えー嘘?!」動揺を隠せない。斗真の見えてる?の一言でノアは察した。
「もしかして…幽霊さんですか?」と恐る恐る聞くと斗真も恐る恐る「はい…。」と囁くように返事をする。
「もしかして…お迎えに来てくれたんですか?」怖がる事なくむしろ嬉しそうに聞いてきた。
「違います!お迎えなんてとんでもない!僕は以前ここに住んでいた者です。えっと名前は畠中斗真と申します。」礼儀正しい幽霊(斗真)さんにノアも姿勢を正し
「ここに住んでいた方なんですね。私は赤木ノアと申します。いつからここにいらっしゃったのですか?」
「実はずっとここにいました。ノアちゃんが引っ越してくる前からずっと。」と下を向く。
「えっ!私の事ずっと見てたんですか?」くま太を相手に独りごと言いたい放題の自分を思い返し、恥ずかしくなり顔が真っ赤になる。
「ごめんなさい!でも…どうして急に僕の姿が見えるようになったのか…。」
「たぶん…もうすぐそちらの世界に行くからだと思います。そちらの世界に知り合いがいないので仲良くして下さい。」まるでご近所さんに挨拶するかのように明るく元気に答える。
「ノアちゃん。お願いだから自らの手でこちらの世界に来るなんて考えはしないでほしい。ノアちゃんが思ってる程楽になれる事なんてないんだ。僕は自ら命を終えた者。ずっとずっと苦しい時間を過ごしてる。命を絶ったことをずっと後悔してる。だから生きて欲しい!どんなに辛くても生きてる方が幸せだから。」涙を流しながら訴える斗真を見てノアの気持ちが変わりだした。
「斗真くんも…自ら命を…そうだったんだ…生きてる時も苦しかったのに亡くなった今も辛いなんて…報われない。それなのに見ず知らずの私の為に必死で止めてくれて…。軽々しく仲良くしてなんて言ってしまってごめんなさい。死を選ぶことで解放されるなんて思ってしまってごめんなさい。でも…生きていても辛くて寂しくて…どうしていいのか分からないの。」
「ノアちゃん…ずっと一人で頑張ってきたんだね。ここに来てからのノアちゃんしか知らないけど、頑張ってきた人なんだって感じてたよ。だからこそ生きて幸せになってほしい。今が辛かったら違う道を選択していいと思う。そして…多分だけど…自分の意見はちゃんと相手に伝えた方がいいと思うよ。相手に意見合わせたり嫌な事も我慢して受け入れたりしないで、ノアちゃんの本当の気持ちを伝えてみて。そうすることでノアちゃんの辛い気持ちも楽になるし、意外と本音を話すことで周りの態度も変わってくると思うんだ。ノアちゃん…自分を生きて欲しい。自分の意見、自分の気持ち、自分の楽しいと思えること…全部ノアちゃんがしたいようにしていいんだよ。ノアちゃんの人生なのだから。自分に我慢させないで。」斗真の話しを聞いてノアの中で何かが崩れ、涙がとめどなく流れ、子供のように声を出して泣きじゃくった。斗真は泣き止むまで静かにノアを見守っていた。
涙を出し切ったノアは、スッキリとした明るい表情に変わっていた。
「斗真くん、ありがとう。私…ずっとずっと我慢して生きてきたのかもしれない。こんなにも私のこと考えて意見してくれた人…斗真くんが初めてかも。物凄く嬉しくて心が楽になれたし救われた気持ちでいっぱいだよ。親がいたらこんな感じで安心して生きてこれたのかな。斗真くん!私頑張って生きてみる!もう自分に我慢させない!止めてくれて本当にありがとう。」ノアの気持ちが変わってくれたことで斗真も心から安心し、やっと笑顔を見せることが出来た。
「ノアちゃん、今辛い嫌だと思うこと相手にしっかり伝えてみて。それでも状況が変わらなかったら、その人達と関わることはノアちゃんにとって良くない事だから離れるべきだし…怖いかもしれないけど本音を伝えて自分を楽な方に導いてあげて。自分の思いで動けば絶対に良い方にいくから!」ノアの目をしっかり見て話す斗真に、心の底から信じられ、そして見守ってくれる人に出会えた気持ちになり、それだけで勇気が湧いてきた。
「斗真くん、明日自分の本当の思い伝えてみる。だから…斗真くん…明日も話し聞いてくれる?」恐る恐る聞くと斗真は嬉しそうに
「もちろんだよ!これから僕でよかったら何でも聞くよ!ノアちゃんがここにいる間は聞き役になって支えるから!頼りにならないかもしれないけど。」照れながら答える。一気にノアに生きる気力が湧いてきた。
「斗真くんありがとう!めっちゃ心強いよ!明日と言わず今すぐにでも言いたいぐらいにまで強気になれてるよ!」と拳を作って大笑いする。もう大丈夫だなと安心してノアと一緒に斗真も大笑いした。
4話目も最後まで読んでいただきありがとうございます。
この先斗真とノアの関係がどう変わっていくのか見守っていただけると嬉しいです。




