頑張って仕事に行っていたノア。初の飲み会に誘われたが…,
いろいろな事があり過ぎて考えることも面倒になり無の状態で家に辿り着く。ドアを開けるとくま太と斗真が待っていた。もちろんノアには斗真の姿は見えないが。
座布団に座りボーッとする。そんな様子を見て斗真は一瞬で何かあったと感じた。心配でノアの側に座り恐る恐る肩に手をかけてみるが、やはり空を切るだけで触れることは出来なかった。
「東京の人は心が無い人が多いのかな。親がいないから何?偏見だよ。あんな人達とやっていけるかな。いや!夢が成功するまでの辛抱だと思って頑張る!大丈夫。ノアは強い…強いから。」と言いながらくま太の体が変形する程ギューッと抱き締めた。
(ノアちゃん、強がらなくていいんだよ…辛かったら泣いていいんだよ。)そう声を掛けたい、背中をさすってあげたい。生きていない自分を初めて悔やんだ斗真だった。
次の日の朝、布団の中でダラダラしていたノアだったが、ヨシッ!と起き上がりしっかりとご飯を食べる。行きたくない気持ちに蓋をし
「今日こそ失敗せずに接客してみせる。見返してやりたい!」と気合いを入れ、出勤の時間まで気持ちを上げる為にギターを持ち出し自作の曲を歌ってみた。
斗真はノアが引っ越してきたからノアの歌をよく聞くようになった。聞くたびにノアの歌も歌声も好きになり、毎日
聞くのが楽しみになっていた。ノアの歌は聞いているだけで不思議と心が穏やかになれる。
(ノアちゃんは成功できる素質を持っているよ!だから頑張って!ファン1号は僕だからね!)
聞こえないのは分かっていてもノアに優しく声援を送る斗真だった。
その日から毎日気合いを入れ出勤するノア。それを見送るくま太と斗真。これが日々の習慣になっていた。そして帰って来たノアの話を聞くのもくま太と斗真の習慣になっていた。毎日ノアの話しを聞いていると、心が温かくなったりノアに対する周りの言動に怒りでいっぱいになったりと、生きていた頃を思い出すような感情に懐かしさを覚える事が多くなった。命を絶ってから何年もここから動くことが出来ず、ずっと時間が止まっている状態だったから、ノアのおかげで感情というものを取り戻せた気がする。そして一緒に生活を共にしているうちに自分の気持ちにも気付き始めた。ノアに惹かれていく自分の気持ちに…。
ノアが仕事を初めて1か月。本来なら仕事にも慣れてくる頃だが…鮫島が常にノアの行動を監視しているように見てくるので萎縮してしまい、うまく行動できず、今だに失敗の多いノア。鮫島が休みの日には伸び伸びと自分らしく接客ができ、不思議と失敗もせずにいられるのに。鮫島がいるだけでダメ人間だと思わされてしまう。なぜ私にそこまでするのか…新人いじめをしたいのか…ただ単に親に捨てられたノアを下の人間と判断し嫌がらせをして面白がっているのか…どんな理由でも許せない気持ちでいっぱいだ。
ノアが働いているこのカフェはオフィス街にある為、平日は繁盛しているが週末は周りの会社が休みなのもあり、客足も少なく、それに合わせて日曜日は休日となっている。そのため土曜日の仕事の後は反省会と称した飲み会がほぼ毎週行われていた。今まで誘われることがなかったノアだったが、1か月たったので
「そろそろどうかな?」と誘われた。強制ではないとの事だがほぼ全員が出席しているので、ここで断ったらまた鮫島に何を言われるか分からないと思い、仕方なく参加することにした。
週末になり、いよいよ今日は初の飲み会(一応反省会)だ。気が乗らず不安でずっと考えながら仕事をしていた。今だに誰とも仲良くなれていない中での飲み会。そんな苦痛な時間を過ごすより、その時間を曲を作る時間に使いたいくらいだ。
仕事も終わり居酒屋にスタッフ全員で向かう。ノアは1番後ろを控えめに歩く。早くそして何事もなく無事に終わりますようにと念じながら。
予約していた居酒屋は常連らしく、皆が店員さんと言葉を交わしている。それぞれ好きな席に座るのを見て、鮫島の隣だけは避けたいと鮫島の姿を探し逆側の一番端っこに座りホッとする。お疲れ様〜の乾杯から始まり反省の言葉など誰一人発する事なく2時間近くダラダラと続いた。その間ノアは隣の人と何回か言葉を交わしただけで、飲み物と目の前にある料理だけを取り分けチビチビと食べていた。言うまでもなく緊張の中で食べる食べ物の味なんてまったく分からなかった。頭の中にくま太の顔が浮かび、帰りたい気持ちが込み上げる。とタイミングよくお開きの声が聞こえてきた。お疲れ様の声が飛び交い、ノアもホッとし誰にでもなく
「お疲れ様でした。」と呟き帰ろうとすると、鮫島に声を掛けられた。
「あれ?ノラ!いたのか!いるの全然気付かなかった!皆んな気付いてたか?ノラ…おまえ本当に存在感ない奴だな!仕事の時は失敗しまくって存在感あり過ぎる程なのにな!周りに迷惑かけまくるし…本当にノラ猫みたいだな!」
鮫島の言葉に皆が反応し大笑いする。酔っているとしても酷い言いようだ。いや…酔ってなくても鮫島は平気で言うだろう。何も言えず、ただ笑うことしか出来なかった。
皆んなと別れてから涙が出てきた。これは何の涙なのだろう…鮫島に対する怒りの涙なのか、言い返せない自分への怒りの涙なのか、誰も助けてくれない孤独からの涙なのか…ノア自身分からず涙を拭いながらくま太に会いたい一心で走り出した。
家に着きただいまも言わずくま太を抱きしめた。いつもなら今日の出来事をくま太に話したり、ずっと独り言を言っているようなノアだが、今日は一言も言葉を発しない。いつもと違う様子のノアを見て斗真は不安になり、ノアの側からずっと離れなかった。
夜中の2時近くになってもノアは眠りにつくことはなかった。ノアの側にいた斗真だったが、時計を見てスッと立ち上がりベランダへ向かう。この時間…そう…斗真がこのベランダから飛び降りた時刻。自ら死を選んでしまった事への罰を受けているのだ。毎日毎日この時刻にあの日と同じようにベランダから飛び降りる。それは斗真の今の意思とは関係なく体が勝手にベランダに向かってしまう。心の中で抵抗しても容赦なく飛び降り、あの時の激痛を体験しなくてはならないのだ。本来の寿命がくるまで…毎日毎日…。それだけ自ら命を絶つということは罪な事なのである。今日だけはノアの側にいたいと強く念じてもその想いは叶わなかった。
ノアは自分は強いと思って生きてきた。だからこんな仕打ちをされても耐えられると思って頑張って仕事に行っていた。けど…鮫島に標的にされてから日々どんどん自分に自信がなくなり、鮫島の言うことが正しいとさえ思うようになっていた。自分はノラ猫なんだ…夢を語ることさえ許されないのかも。孤独だし…まさにノラ猫と一緒…私には何の価値もない。東京に来てからまともに人と話していない…スタッフともうまく会話が続かない…休み時間もスマホとお友達状態…愚痴をこぼせる相手はくま太だけ。そんなくま太も返事や慰めの言葉を発することはない。そのせいか最近はくま太に話すことも無駄な事に感じるようになってしまっていた。
3話目も読んで頂きありがとうございます!
ノアが斗真の存在に気付くシーンまで書くつもりでしたが、2話目同様長編になってしまったので今回はここで区切らせてもらいました。
4話目こそ2人の出会うシーンを楽しみにして頂けたらありがたいです!
よろしくお願いします!




