最後の行事となるお花見がスタート
ノアと斗真の最後の行事、花見がスタートした。
斗真にとって最後の晩餐とあって、ノアは部屋に敷いたビニールシートいっぱいに斗真の好物を並べた。
「こんなに沢山!とっても嬉しいけど…ノア…これ全部食べられる?」
「うっ…今日1日では無理かも。しばらく食事作らなくて済むかもな。」と言いながら紙皿に斗真の分を取り分け
「どうぞ!」と差し出す。
「ありがとう。物凄く嬉しい。桜を見ながら食べられるなんて…幸せ過ぎだよ。ゆっくり味わわせてもらうね。」
乾杯をし、斗真は目をつぶり一つ一つじっくり味わい、満足そうな顔でノアを見る。
「美味しい?」
「うん!」子供のように笑顔いっぱいで答える。桜を見ながら美味しい物を味わう…最高の最後の晩餐だ。
「本当に綺麗だね。ノアが頑張ってくれたおかげだよ。出来れば桜と一緒に写真撮って天国に持っていきたいくらいだよ。」
「あっ!それいいかも!斗真、桜の前に立って。写真撮ろう。」
「いや無理だって。写らないから。しかも写真持てないし。」と笑う。
「そうか…でも私が欲しい!桜と一緒に写ってる斗真の写真!ちょっと試しに並んでみて。ほら!心霊写真なんていうのもあるじゃない!写るかもしれないよ!」
斗真は焦る。(写ったらダメなんだよ!ノアの中の僕の記憶を消す訳で…そんな写真持ってたら本当に心霊写真だって大騒ぎするから!)
「いや!やめておこう!お互いにしっかり目に焼き付けよう!」ノアは諦められない様子だったが
「分かった…じゃあせめて桜の木と斗真を絵に描きたい。忘れないように…いや忘れる事は絶対にないけど…でも人って会わないでいると姿形がだんだん曖昧になってくると思うんだ。だから斗真の似顔絵を上手くないけど描いて残しておきたいの。」
「そっか…でもノアの絵が全然似てなかったら、もっと曖昧になるかもよ。」なるべく思い出を残さないよう斗真も必死に抵抗を試みた。
「うーん…分かったよ。写真も絵も諦めるよ。その代わり…しっかり目に焼き付ける為に斗真をずっと見ていよう!」ジーッと見つめる。
「えっ、そんなに見つめないでよ。恥ずかしいよ。」顔を背ける。
「一つだけ願いが叶うなら一度でいいから斗真に触れてみたかったな。手を繋いだりハグしてみたかった。」と言ってから急に恥ずかしくなり下を向く。斗真はノアを見て
「触れる事は出来ないけど…ノア…ハグしてもいい?」
顔を赤らめながら聞く。ノアはびっくりした顔で斗真を見る。
「ハグ…うん…お願いします。」ノアも顔を赤らめ斗真の方に向く。
透明な斗真の腕がノアを包む。ノアも斗真の背中辺りに手を添える。しばらく2人とも目を瞑り無言で時を過ごした。斗真が目を開け
「温かい…ノアの体温が感じられる。不思議だ…今まで暑さも寒さも感じた事ないのに…今しっかりとノアの体温が伝わってくる。久しぶりの人のぬくもりだ。ノア…温かいよ。」ノアもパチっと目を開け
「斗真!私も!私もだよ!斗真が物凄く温かく感じる。信じられない…こんな事あるんだ。私…斗真に言ってない事があって…。」
「なに?」
「この家に引っ越してきた時、何でこの家はこんなにも寒いんだろうって思ってて…斗真の存在に気付いてから斗真が側にいると霊気って言うのかな…冷たい空気が漂ってきて寒かったんだ。でも、でもね!日に日にその冷たい空気がなくなって来て、いつの間にか斗真が側に居ても寒いって感じる事がなくなってたの。寒く感じなくなってかなり経つから、そんな事すっかり忘れてた。」
「そうだったんだ。自分では分からなかった事だけど、寒い思いさせちゃってごめんね。」
「そんな謝ることじゃないよ。もしかしてだけど…天国に行けない幽霊さんはこの世に未練があるからなのかな。誰かを恨んでいるとか、大切な人と離れたくないとか、やり残したことがあるとか…そういう思いって冷たい思いのような気がするの。だから幽霊さんが側にいると、その思いを受け取って寒く感じるんじゃないかなって。斗真もそんな思いが強かったから冷たかったけど、少しずつ穏やかな気持ちになってきたから温かい空気に変わってきたのかなって…。」
ハグしていたノアから離れノアの顔を見つめる。
「ノアの思考力は凄いよ!本当にそうかもしれないね。」
「この世にとどまっている全ての幽霊さんが、温かい気持ちを持てるようになって天国に行けるといいのにな。」
「本当にそうだね。」
2人の優しい気持ちによって、さらに周りの温度が上がっていくようだった。
お別れの時間が刻一刻とせまり、外は暗くなり始めていた。時計を見ると6時を回っている。
「いつの間にかこんな時間!このまま夜桜しちゃう?」と卓上ライトを桜の木に向けて点灯する。
「夜桜も綺麗だね。でもノア。花見は充分楽しんだよ!本当にありがとう。ノアも明日は仕事だし、花見はお開きにして片付けようか。」
「片付けは…明日仕事から帰って来てからするよ。」
「ダメだよ!今日中に片付けて、明日から心機一転で始めてほしいんだ。」
「分かった。確かに…帰って来て斗真との楽しかった花見の状態が残ってたら、ちょっとおセンチになってたかも。よし!片付ける!」
ノアが了解してくれたので心からホッとした。記憶がなくなった状態で朝を迎え、この光景を目の当たりにしたら…絶対にパニックを起こしていたことだろう。
1時間程で元のノアの部屋に戻った。そのままお風呂に入り、お迎えが来るまでゆっくり過ごす事にした。
ノアがお風呂に入っている間、自分を思い出すような物がないか隅から隅まで見渡し、大丈夫な事を確認しやっと安堵する事が出来たのだった。
ノアがお風呂から出てくると、斗真は窓から外を眺めていた。
「何見てるの?」斗真の隣に並ぶ。
「星だよ。星を見てたんだ。ベランダが怖くて星なんてゆっくり見たこともなかったなって思ってさ。」
「東京だけど今日は雲一つないし、空気が澄んでるように綺麗に見える。」
「うん。綺麗だ。」
「私達って、毎日毎日よくこんなに話す事あるなっていうくらい話題が途切れなかったよね。」
「そうだね。ノアが帰って来るとずっと話してた。」
「私…施設にいた頃、施設の先生に学校での出来事とか、ちょっと聞いて欲しい話しとかあっても、常に先生の周りには子供達がいたから遠慮しちゃって話せない事が多かったの。だからかな…真剣に話しを聞いてくれる斗真には何でも話したくなっちゃうんだ。今現在の事だけでなく、子供の頃に話せなかった溜まり溜まった話さえも止まらなくなっちゃうの。だから本当はまだまだ話してたい。」
「僕もだよ。僕は家族はいたけど、家で話す事はほとんどなかった。父に学校での出来事を話しても、なぜか機嫌が悪くなり説教が始まるから、話す内容を考えているだけで疲れてしまって…。だから僕も子供の頃の聞いて欲しい話しがまだまだ沢山ある。ノアに聞いて欲しいっていう気持ちは僕も同じだよ。」
「何でも話せる相手って本当に必要だと思った、それだけで気持ちが楽になるし前に向ける。斗真と出会って本当にそう感じた。」
「僕も。」2人で微笑み見つめ合う。
そんな穏やかな時間を断ち切るように、ベランダから眩しい光が部屋に差し込んできた。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次回は2人にお別れの時間が来てしまうお話しです。
最後まで2人を見守っていただけたら有り難いです。
よろしくお願いします!




