花見そして斗真が天国へ旅立つ前夜〜当日の朝
次の日も次の日もいつもと変わらない日常を送っていた。
朝起きて斗真と朝食を済ませ、ノアが出勤する時は玄関まで斗真が見送り、仕事を終え帰って来たノアを斗真がお出迎え、夕食を済ませた後は斗真とゆっくり過ごすコーヒータイム。刻一刻とお別れの日が近づいているとは思えないほど楽しい時間を過ごしていた。
ずっとずっとこんな日が続くと思っていた。でも明日で斗真とお別れだ。明後日からは1人…くま太との生活が始まる。今は気も張っているし、現実味がないのか不安な気持ちは少ない。今夜も大騒ぎしながら楽しく桜の木を作っていた。そして感動の瞬間が訪れる。花びらが入った最後の袋を逆さにし全て出し切り
「出来た!やったー!無事完成した!」と歓声を上げる。
「すごい!本物の桜の木みたいだ!何年ぶりだろう…綺麗だ…ノア本当にありがとう。明日の花見が楽しみだよ。」
「喜んでもらえて良かった。思いきり楽しもうね!あっ!もうこんな時間!遅くなっちゃったからそろそろ寝室で過ごそうか。」最後の夜は朝まで寝ずに斗真と過ごすと決めていた。
「ノア…ごめん…今日は神様の秘書の田中さんが来ることになってるんだ。」
「田中さんが?何で?明日だよね?」
「そうなんだけど…念の為、前日に最後の気持ちの確認に来るって言われてるんだ。」
「そうなんだ…。」落ち込んでいるノアの様子を見た斗真は
「すぐ終わると思う。田中さんが帰ったらすぐノアの側に行くから。」安心させるように声を掛ける。
「うん。分かった。待ってるね。」
「眠かったら我慢しないで寝ててね。」最後まで優しい斗真。心の中で(絶対寝ない!)と叫んでいたが素直に「うん。」と頷き先に寝室に入る。布団に潜るが、寝ない為に目を大きく見開いて隣に来る斗真を待っていた。
夜中の2時頃、ベランダから明るい光が差し込んできた。近付くと田中さんが立っていて、斗真と目が合うと会釈をし部屋に入って来た。
「斗真さん、この一週間良き時間を過ごせましたか?最終決定として斗真さんの意思の確認に来ました。どうですか?天国に旅立つ気持ちに変わりはないでしょうか?」
そう問われ下を向き考え込む斗真。田中さんの表情が曇る。
「斗真さん?」斗真は顔を上げ、田中さんをしっかり見つめる。
「田中さん…本音はやっぱりこのままずっとノアの側にいたいです。出来れば天国に行くよりノアの守護霊になってノアを守りたいです。でも…僕は天国に行きます。ノアには僕と言う縛りの無い人生を歩んで欲しいから。」
田中さんはゆっくり頷き
「斗真さん、懸命な決断だと思います。では明日この時間にお迎えに参ります。」
「その時ノアもここに居て大丈夫ですか?」
「大丈夫です。私の記憶も消しますので心配無用です。」と小声で答える。
「では…ノアさんとの最後の一日を悔いのないようお過ごし下さい。」と言い残し、上から差し込んできた光の輪の中へ吸い込まれるように消えて行った。
「明日あんな感じで僕も天国へ旅立つのか…。」
自分が光の輪の中へ吸い込まれる姿を想像してしまった。自分自身の事なのに見送る側の気持ちになり、悲しい気持ちでいっぱいになった。(こんな思いをノアにはさせたくない…明日お別れする時は僕がノアを見送ろう)そう決心したのだった。
寝室に入り、頭から布団を被っているノアの隣に横になった。空気のような斗真が隣に来ても気付く事はない。起きているのか寝てしまったのか分からず、声を掛けるか迷ったが、寝ていて起こしてしまったらと気遣い、静かに盛り上がった布団をずっと見つめていた。
最後の朝を迎えた。目覚めたノアはガバッと起き上がり隣を確認するが、斗真の姿はなかった。待っているつもりが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
ふと急に不安と寂しさに襲われた。明日から斗真がいなくなる。明日からは1人だ。声を掛けても返事もなく、斗真の優しい笑顔を見ることも出来ない。笑って話しを聞いてくれる斗真とは今日でさよならだ。嫌だ!怖い!斗真を失うのが怖い。涙が溢れて止まらなくなった。こんなにも斗真のことが大好きで、こんなにも斗真に依存していた自分に改めて気付かされた。
「斗真…斗真…斗真。」不安で押し潰されそうになる。涙がとめどなく流れる。
最後まで泣かないって約束したのに…はぁ…しっかりしろ自分!斗真が天国に行けるんだよ!大好きな人がやっと楽になれるんだよ!自分の気持ち優先してどうする!そう!そうだよ!今日は斗真にとって喜ばしい日なんだから!笑って過ごさなくちゃ!私はもう大丈夫…そう…大丈夫!
自分に言い聞かせるように頭の中で何度も呟く。気持ちも落ち着き、ティッシュで涙を拭き鏡の前へ。
「うわ!泣いたのバレバレだ!」そろ〜っと寝室のドアを開け顔を出すと、斗真はノアに背を向ける状態で桜の木を見ていた。
「斗真おはよ〜!顔洗ってくるね!」と早口で言い、斗真が振り向く前に洗面所に駆け込んだ。いつもと違うノアの行動に察した斗真は、気付かぬふりをして
「おはよう!」と元気よく挨拶をした。顔を洗い出て来たノアに
「桜、綺麗だね。花見は何時ごろ始めるの?」いつも通りに話しかけた。鼻声だけはすぐには治らず
「ちょっと風邪ひいたかな…。」とありきたりな嘘をつき
「花見はお昼頃から始めようか。」
腫れた目で斗真に笑顔を見せるノアだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ずっとお付き合いいただいてきたこの物語もいよいよ終盤に差し掛かりました!
最後の最後まで読んで頂けたら有り難いです!
よろしくお願いします!




