最後の行事、花見の為に皆が動いてくれる
次の日、職場に着きロッカー室に入ると桜の花びらが入ってる大きな袋が3袋も置いてあった。その横でドヤ顔の佐々木さんが立っていた。
「えー!すごい!1日でこんなに!」
「どうよ!私の力をみくびるではないぞ!って私は拾ってないけどね。私に貸しがあるスタッフが30分で集めてくれたよ。」
「すごい!本当にありがとうございます。皆さんにもお礼言いたいです。」
「いいのいいの。30分拾うだけで私への貸しがチャラになったんだから…逆にノアちゃんに感謝だと思うよ。3袋で足りる?なんなら今日も頼むけど。」
「いえいえ、全然足ります!桜の絨毯まで作れそうな量です。」
「良かった!じゃあ…これ仕事終わったら鮫島くんに頼んでノアちゃんのお家に運ぶよ。」
「えっ?鮫島さんに?」
「心配しなくて大丈夫。悪霊がいると思ってるから部屋には行かないと思う。車で運んでもらうだけ。軽いから私とノアちゃんで運べるし。ねっ!」と話していると鮫島が出勤して来た。
「あっ!鮫島くんおはよう!今日の帰りノアちゃんの家に荷物運ぶの手伝ってくれる?」
「はぁ?ノアの家?やだよ。悪霊がいる…」ノアがいる事に気付き慌てて黙る。
「大丈夫!軽い荷物だから私とノアちゃんで運べるし。鮫島くんは車の中で待っててくれればいいからさ。」
「それでも近寄るなって言われたし…。」モゴモゴ囁くようにごねる。
「鮫島くん…私に貸しがあったよね?発注ミスした時、私が上手く調整したし、平日の急な休みの時も代わってあげたよね?」痛いところをついてみた。
「分かったよ。絶対に車から降りないからな!」と念を押し渋々了解する。
「助かるわ〜鮫島くんは頼りになる!」一応もちあげておき、それぞれの仕事に向かった。
仕事後ノアと佐々木さんが着替えている間に、鮫島が桜の花びらが入った大袋を運んでくれていたおかげで、スムーズに出発する事ができた。
「こんなに沢山の花びら、何に使うんだい?」鮫島に聞かれ答えに詰まっていると佐々木さんが
「ノアちゃんも知り合いに頼まれたんだって。何かのイベントに使うらしいよ。」上手く取り繕ってくれた。
「鮫島さん、いつも本当にありがとうございます。」余計な質問をされないようノアがすがさず言葉を発する。たわいもないやり取りをしているうちにノアの家に到着。ノアが先に降りトランクから大袋を下ろす。助手席に乗っていた佐々木さんが「すぐ戻るから待っててね。」と声を掛けた瞬間、鮫島が佐々木さんの腕を掴み小声で
「念の為、これ持っててよ。」と交通安全のお守りを渡して来た。それを見て思わず吹き出す。
「本当に鮫島くんって面白いね!交通安全って…ウケる。大丈夫だよ。私、何も感じないし、意外と強い人に守られてる感じするし…ありがとうね!じゃあ行って来るわ!」
降りてからもツボに入ったのか笑いが止まらずノアに
「何かあったんですか?」と聞かれたが、鮫島の好意を笑いのネタにするのも気が引け
「何もないよ。さっ!行こう!」2人で大袋を持ちマンション内へ入っていった。
部屋の前でノアが鍵を開けようとした時
「ちょっと待って!急に緊張してきた。」胸に手を当て深呼吸をする佐々木さん。
「大丈夫ですよ。佐々木さんに危害加えるような事する人じゃないし…佐々木さん見える人じゃないから対面する事もないし…リラックスしていつも通りの佐々木さんでオッケーです。」
「そうだよね。柄にも無く緊張しちゃった。よしっ!入ろう!」ドアを開け
「斗真ただいま!佐々木さんが桜の花びら運んでくれたよ!」と言いながら目配せで佐々木さんにどうぞと促し、一緒にリビングに向かう。何も知らされていなかった斗真は、いきなりの佐々木さん登場に前回より緊張した状態で姿勢良く立っていた。
「アハハ!佐々木さん、斗真も緊張してますよ。ここ!ここに斗真が立ってます。」テーブルの横の空間を指さす。
「ここ?ここにいるの?分かった!えっと…初めまして。佐々木と申します。いつもノアちゃんにはお世話になってます。」と何もない空間にお辞儀する。
「初めまして。斗真と申します。いつもノアがお世話になってます。そしてノアと僕の力になって頂き、本当に感謝してます。って言ってます。」ノアが通訳する。
「いえいえ。私の方こそ斗真さんには感謝してます。ノアちゃんの命を救ってくれたこと、本当にありがとうございます。」
「ノアの命を救えて本当に良かったって思ってます。これからもノアの事よろしくお願いします。って言って深々とお辞儀してます。なんか自分でお願いしてるみたいですけど…全部斗真の言葉です。」佐々木さんも慌ててお辞儀を返した後、ノアの方を見て
「分かってる。信じられない話しだけど私はちゃんと信じてるから。斗真さんと会話出来て嬉しいよ。」佐々木さんの言葉を聞いて斗真の心の中が物凄く温かくなった。
「じゃあ2人の時間邪魔しちゃ悪いし、鮫島くんもモヤモヤしながら待ってると思うからそろそろ行くね。」
「あっ、ちょっと待ってて下さい。缶コーヒーしかないですけど、帰り2人で飲んでって下さい。」と言いキッチンの方へ姿を消す。
佐々木さんと斗真の2人になると、佐々木さんが
「斗真さん、ノアちゃんの事は私が責任を持って守りますから、心配せず安心して天国でゆっくり休んで下さいね。来世で私もお会い出来たら嬉しいです。では…斗真さん…お疲れ様でした。」お辞儀をし部屋を出ようとすると
「お別れをした次の日の朝、ノアに電話してあげて下さい。」と言う男性の声が聞こえてきた。
「えっ?」と振り向いたが誰の姿もなかった。一瞬にして斗真からの伝言と確信した佐々木さんは笑顔で頷き、見えない空間に手を振り部屋を後にした。
斗真は驚いていた。まさか自分の声が佐々木さんに聞こえたなんて。奇跡としか思えない。無理を承知でお願いしてみた。田中さんを信じてない訳ではないが、もし記憶が消えなかったらノアは本当に大丈夫だろうかと少し心配になっていたのだ。佐々木さんがノアを支えてくれる。「本当にありがとうございます。」佐々木さんか出て行ったドアに向かって両手を合わせて呟く斗真だった。
缶コーヒーを入れる丁度良い袋を見つけるのに手間取ったノアが、慌てて佐々木さんの後を追い缶コーヒーを渡す
。
「今日は本当にありがとうございました。鮫島さんにもよろしく伝えて下さい。
「ありがとう。私こそ貴重な経験が出来て良かったって思ってる。斗真くんと残りの時間、悔いのないように過ごしてね。」手を振り出て行った。ノアは玄関のドアが閉じるまで頭を下げ続けていた。
車の中で待っていた鮫島はソワソワしていた。
「まだかよ…遅くないか?大丈夫かよ…。」入り口の方をガン見していたら、他の住人出てきて目が合った。不審者を目撃したような怯えた表情で住人は足早に去って行った。
「はぁ?何か疑われた?早く戻ってこいよー。」と懲りずにまた入り口の方をガン見していたら、佐々木さんが戻って来て目が合った。
「お待たせ!なんちゅう顔してるのよ。悪霊よりよっぽど怖い顔してるから。」笑いながらノアに貰った缶コーヒーを手渡す。
「心配してた顔だよ。てか大丈夫だったか?寒気とかしなかったか?」
「まったくなかったし、逆に穏やかな優しい気持ちになれたよ。」
「えっ?もしかしていなくなったか?俺の睨みがきいたか。」得意げに話す鮫島。面倒なので
「そうかもね。」と答えておいた。
一方ノアは見送ろうとベランダから下を覗いていた。たぶん気付かないと思うけど車が走り去るまで見ていたかった。斗真も見送りたかったが、鮫島に姿をみられることは避けたかったので我慢し、部屋の中でノアの様子を見ていた。車が走り出してすぐブレーキランプが点灯する。窓が開き佐々木さんが顔を出して大きく手を振っている。ノアも負けずに大きく手を振り返すと、窓が閉まり勢いよく車が発進し、あっという間に見えなくなった。逃げるようにアクセルを踏んでいる鮫島の姿を想像してノアは笑ってしまった。
夕食を済ませた後、さっそく桜の木を作り始めた。目標は2本の木を作ること。大きな白い画用紙に桜の木の部分を描き糊をつける。茶色の折り紙を細かく手でちぎり、それを切り絵のように糊を塗った部分に貼り付ける。桜の花びらの部分にも糊を塗り、集めてもらった本物の桜の花びら貼り付ける。ノアの背丈ほどの大きな手作り桜の木が一本出来上がった。もう一本は明日に持ち越し、その後は斗真とゆっくり過ごす事にした。
今までは1人で寝室で寝ていたノアだが、今日から最後の日まで斗真と一緒に寝室で過ごすことにした。ノアの隣に斗真も寝転がり、眠りにつくまで沢山お喋りをし、ノアが眠った後はノアの寝顔を飽きる事なく斗真はずっと見つめていた。
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