斗真、天国へ旅立つことをノアに告げる
次の日の朝、元気に起きてきたノアに
「おはよう!」と斗真も元気に挨拶をする。ノアの目覚めを待つのもあと一週間…そう思うと寂しい気持ちになりつつも、まだ現実味がなかった。
「そうそう!週末の花見まで帰りちょっとだけ遅くなるけど心配しないでね。」
「もしかして毎日残業があるの?」
「違うよ。花見の準備でちょっとね。」
「ノア…お願いがあるんだけど。今日だけでも早く帰って来れないかな。話しがあるんだ。」
「話しって?」
「そんな不安そうな顔しないで!帰って来てからのお楽しみ!」ノアの不安を消すように明るく答える。
「えーなになに?うん、分かった!今日は仕事終わったら真っ直ぐ帰って来るからゆっくり話し聞かせてね。」
ちょっとだけ安心し出勤する。
ノアを見送り1人になると、正直このままがいいと思ってしまう。この生活を永遠に続けていたい。でも永遠なんて無理な話しだ。でも天国に行かなければ…しばらくはこの生活を続けてられる…ノアに新たな出会いがあるまでの数年間だけでも一緒にいられる。いや…優しいノアのことだ。僕がここにいる限りずっと僕の側に居てくれるだろう。それではノアの人生ではなく僕の為の人生を歩むことになってしまう。大好きなノアにそんな人生を歩ませてはいけない。ノアのこれからの人生を決して自分の勝手な思いで邪魔をしてはいけない。そう。お互いのこれからの運命(宿命)を進まなくては…もう決して迷わない…。
夕方になるとノアはソワソワし時計ばかり見ていた。今日は有り難いことにお客の入りが少なく、定時ですぐにあがれそうだ。
ノアは話しの内容をいろいろ想像していた。
もしかしてプロポーズとか…いや逆に別れ話しとか…他に好きな人(幽霊さん)が出来たとか。ブンブンと首を横に振る。
それはない!絶対にない!…て思いたい。そんな想像をしていたら定時5分前に。タイムカードの前でウロウロして待つ。同様に他のスタッフもウロウロし始める。5時ジャストに1番でタイムカードを押し、ダッシュで着替え
「お疲れ様でしたー!」と元気に挨拶し走ってロッカー室を後にした。同じく早番のスタッフがロッカー室に戻って来た。
「えっ!ノアちゃんもういない!早っ!」驚かれる程のスピード退出。
「仕事もこのくらいの早さでテキパキ動いてくれたら有り難いんだけどね。」その場にいたスタッフ全員が笑って同感したのは言うまでもなかった。
ノアは走った。ご飯を作る時間さえも短縮したく、途中で夕食を買う為に家の近くのコンビニに立ち寄る。今日はカレーの気分。カレー弁当とサラダを購入。ここからは走らず(カレーが偏ってしまったら大変!)足早で帰る。
4月に入った途端、暖かい日が多く、走ったのもあるが家に着いた頃には軽く汗をかいていた。
「ただいま!」「お帰り!」いつもはリビングからヒョイと顔を出す斗真だが、今日は玄関で待っていてくれた。
「もしかして走って帰って来た?顔が赤いよ」と笑っている。
「走ってないよ!意外と今日は暑くてさぁ〜。ゆっくり帰って来たんだけど汗かいちゃったよ。」急いで帰って来たことを何故か隠したくなり嘘をついてみた。
夕食時、お互いに違う意味で緊張し、美味しいはずのカレーの味も分からず黙々と食べていた。早く聞きたいという思いでノアは早食いをし、むせ込んでは斗真に子供扱いされ笑われた。夕食後コーヒーを入れ向かい合わせでテーブルを座る。お互いにコーヒーカップを見つめ 沈黙が続いた。先に口を開いたのは斗真だった。
「ノア…今日は早く帰って来てくれてありがとう。大切な話しがあって…僕とノアのこれからの話しなんだ。」
ノアがコーヒーカップから斗真に目線を移し
「私達のこれからの話し?」プロポーズなのか別れ話しなのかドキドキしながら斗真の言葉を待った。
「そう。これからの話し。実は…昨日の夜、花見のことを想像して過ごしていたら…罰を受ける時間がとっくに過ぎてもベランダに向かわなかったんだ。念の為部屋中の時計を見て回ってみたけど狂いはない。何でだろうと不安に思って怖かったけど自らベランダの方に行ってみたんだ。そしたらベランダの外に1人の男性がいたんだ。」
「えっ?男の人?斗真の仲間?」
「そう。すぐに生きてる人間ではないことが分かったよ。宙を浮いてたからね。その人は田中さんっていう神様の秘書的な立場の方だったんだ。」
「神様の秘書?かなり偉い人じゃない。そんな偉い人がどうして私の部屋の外にいたの?」
「神様からの言付けで来てくれたんだ。神様は僕とノアの事をずっと見ていてくれたらしい。」
「神様が?ずっと見てたの?えっ…私何も悪い事してないよね?」慌てるノアに笑って
「大丈夫!ノアは何も悪い事してないよ。神様は僕がノアを助け、今の状態になるまでの様子を見ていてくれて…その…えっと…ノアの命を救ったご褒美に僕を天国に迎えてくれることになったって。」
「えっ!斗真天国に行けることになったの?本当に?本当?」斗真がゆっくり頷く。
「斗真!おめでとう!良かったー!本当に良かった、この先、斗真が飛び降りるという罰を受けなくて済むって事だよね?ここから出られるって事だよね?はぁ〜本当に良かった。ずっと一緒に居られなくなっちゃうのは辛いけど、そこは我慢する。せめて夕飯の時と週末は一緒に居たい!斗真と外でデートもしてみたい!」ノアの言葉に斗真は黙って下を向く。その様子を見てノアは察した。
「もしかして…もう会えないの?」その事に黙って頷く。
「何で?ここに戻って来ること出来ないの?」
「僕も戻れると思ってたけど…もうここに戻って来る必要性がないからって。」
「いつ天国に行くの?」
「日曜日…ノアと花見をした日の夜に迎えに来るって。」
「日曜日って…急過ぎだよ。じゃあ来週から帰って来てもお帰りって言ってくれる斗真はいないの?一緒にご飯食べてくれる斗真はいないの?今日の出来事や愚痴を聞いてくれる斗真はいないの?やだ!!やだよ!!斗真とずっと会えなくなるなんてやだ!斗真がいない人生なんてやだ!ずっと一緒に居たかったのに…うわぁ〜ん。」膝に顔を埋めて子供のように声を上げて泣き出した。ノアの言葉に斗真の心も爆発しノアの隣に座り
「僕も…僕も…本音はずっとずっとノアと一緒にいたいんだ。ノアに会えないと思うと気が狂いそうになる。離れたくないよ。ノア…。」斗真は声を押し殺して泣いた。
しばらく泣いていた2人だが、泣くだけ泣いたら2人とも落ち着き、お互いがお互いの中で気持ちの整理をし始めた。
自分の膝を見つめていたノアが無言で立ち上がり洗面所の方へ歩いて行った。鼻を噛む音が聞こえ顔を洗う水の音が聞こえた後、笑顔で戻って来た。
「斗真、さっきは取り乱してごめんね。泣いて本音を吐き出したら冷静になれた。私はもう大丈夫だよ。来世で出会うって約束したから。ほんの少し離れるだけ。そう思えたら頑張れる気がしてきた。」泣き腫らした目で斗真を見つめる。斗真も頷いた。
「僕の方こそ自分の想いぶつけちゃって…ごめん。自分の本当の気持ちに蓋をして天国に行くつもりだったのに…恥ずかしいや。でも本音を言えたことで僕も本当に決心がついたよ。ノアと過ごした最高の思い出と一緒に天国へ行くよ。来世で会える事を楽しみに。」穏やかな表情でノア見つめる。
「ノア、この先僕のことは思い出として心の奥底に閉まって、ちゃんと恋愛して結婚して幸せな家庭を築いて欲しい。ノアが理想とする家庭を。ノアが幸せでいてくれる事が僕の1番の願いだから。」ノアは下を向き
「今すぐは無理かな…でも斗真の思いはちゃんと守るよ。いつかそんな人が現れたら、ちゃんと恋愛する…ように…する…かも。」斗真は吹き出した。
「ノアは嘘をつけない人だ。大丈夫!きっとノアを支えてくれる僕以上の人が現れるよ。僕は来世でノアと幸せになれるからやきもちは焼かないよ。」
「えー!そこはちょっとやきもち焼いて欲しいところかも。」2人で大笑いする。
「もう泣かないって決めた。最後まで笑顔で斗真と過ごす。」
「僕も最後まで笑ってノアと過ごす。」笑顔で頷き合う。
「あっ!そうだ。斗真…内緒にしてるつもりだったんだけど…実は花見をするにあたって、部屋に桜の木を作ろうと思ってて、本物の桜の花びらを使いたいって思ってるの。落ちてる花びらだったら持って帰っても大丈夫かなと思って、毎日仕事の帰りに拾って来る予定だったんだ。けど…斗真との貴重な時間を減らしたくないから…どうしようかな…。」
「そこまで考えてくれてたんだ。ありがとう。でも本物の桜の花びらじゃなくていいよ。」
「ダメ!斗真に桜を感じて欲しい。そこは絶対に譲れない。こうなったら信じてもらえらるか分からないけど、佐々木さんに本当のこと話して手伝ってもらおうかな。斗真…話してもいい?」
「全然いいけど…信じてもらえるかな。」
「分からない。けど話してみる。もう佐々木さんしか頼れない。」
ノアは明日佐々木さんにどこからどう話すか考えながら眠りについた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
次回、佐々木さんに信じてもらえるのか…無事に花見をすることが出来るのか…。
楽しみにしていただけたら嬉しいです!
よろしくお願いします!




