鮫島、斗真の存在に気付く
無事に斗真にバレンタインのチョコを渡せた後、ちょっと早めに出勤し、スタッフ一人一人にチョコを渡す。上辺かもしれないが皆んなもの凄く喜んでくれた。佐々木さんにチョコを渡している所に鮫島が出勤して来た。
「あっ!鮫島さん、これバレンタインのチョコです。いつもお世話になっているので良かったら受け取って下さい。一応手作りです。」恐る恐る渡すとぶっきら棒に受け取り
「手作り?毒味したんだろうな?スタッフ全員腹壊してカフェ休業になったら大変だからな。」
「心配なら無理して受け取らなくていいです。」とチョコを奪おうとすると、信じられない早さで自分のバックに入れてしまった。
「仕方ないから食べてやるよ。胃薬でも買って帰るか。」と嫌味を言いロッカーの方へ歩いて行くが、急に立ち止まり
「ありがとうな。」ボソッと言ってその場から足早に立ち去った。鮫島の口から感謝の言葉が出るなんて…ノアは何だかとても嬉しくなった。根っから悪い人ではないんだろうな。そう思うと今までの事がほんの少しだけ許せる気持ちになれた。
仕事が終わり帰り支度をしていると佐々木さんに声を掛けられた。
「ノアちゃんってお茶飲む人?」
「はい。お茶好きですよ。」
「社員用の2リットルのペットボトルのお茶が、間もなく賞味期限切れるんだけど飲む?」
「えっ!いいんですか?飲みます!助かります!」
「ここにあるの全部いいよ。」指差す方を見て
「えっ、こんなに?」3ケースのお茶が置いてあった。
「ノアちゃん車持ってないもんね…全部持って帰れないか…あっ!鮫島くん、車で通ってるよね?ノアちゃんの家までこのお茶運んであげてよ。」帰り支度をしている鮫島に声を掛けた。これにはノアも慌てた。
「大丈夫です。毎日2本ずつ持って帰りますから。」佐々木さんが笑いながら
「大丈夫だよ。私も行くから。女の子の部屋に鮫島くん1人で行かせるようなことしないよ。」
(いやいや、そうじゃない!いきなり2人も連れて帰ったら斗真が驚くし、もしかしたら怖がるかも。携帯で連絡出来ないし…どうしよう…。)と頭の中で葛藤していたら、良い言い訳を思いついた。
「あっ!部屋ものすご〜〜く汚いので明日とか明後日でもいいですか?」どこが良い言い訳なのか…。
「お茶置いたらすぐ帰るから大丈夫だよ。しかも私、明日も明後日も用事あるんだよね。」これは何を言っても断れそうもない。
「じゃあ…お願いします。」という訳で3人で鮫島の車に乗り込みノアの家に向かう。
「ノアちゃんの部屋何階?」
「6階です。」
「鮫島くん頑張って!」
「俺?俺1人で3往復するってこと?ありえん!」
「一気に3ケース持てば1回で済むよ。」佐々木さんに無理難題を突きつけられ、負けず嫌いの鮫島の心に火がついた。
マンションに着き運ぶ気満々の鮫島だったが、どう頑張っても3ケースは持てず2ケースを重ねて持ち上げエレベーターに乗り込む。6階に着き部屋の前で鍵を開けながら
「ちょっとだけ…せめて5分…3分だけ待ってて下さい。」
返事も聞かずに部屋に入り、すぐドアを閉める。
「斗真、斗真、何処?ただいま。」囁くように声を掛ける。ヒョイと斗真が顔を出し
「ノアお帰り!」と満面の笑みで迎える。
「ごめん!急だけど外に佐々木さんと鮫島さんがお茶を持って来てくれてるの。」
「えっ?あの鮫島と佐々木さん?」
「そう!斗真に気付く事はないと思うけど…帰るまで隅の方に居てもらってもいい?」
「鮫島はノアに酷い事した人だよ!じっくり見てやる!」
「斗真、落ち着いて。すぐ帰すから!」と隅の方に促し2人を呼びに行く。ドアを開け
「お待たせしてすいません。散らかってますけど、どうぞ。」中に促すが鮫島の姿が見当たらない。
「鮫島さんは?」
「残りの1ケース取りに車に戻った。すぐ来ると思うよ!」
という事で佐々木さんを先に部屋に招き入れる。
「全然綺麗にしてるじゃない!」キョロキョロと部屋中を見回す。
「恥ずかしいからあまり見ないでくださいよ。」
「男っ気ないから彼氏がいないのは本当だね。」
「いませんよ!」斗真の方をチラッと見る。
「鮫島くんさ〜ノアちゃんからチョコ貰った時嬉しそうだったよね。」
「えっ?そうですか?逆に迷惑そうに見えましたけど。」
「ノアちゃん分かってないなあ〜。鮫島くん不器用なんだよね。素直じゃないし…。あんな風に言ってたけど、喜んでるの見て分かったもん。ノアちゃんのこと気になってると思うよ。」
「ないない!」と大袈裟に顔の前で手をブンブン横に振り
「絶対にそれはないですから。変に勘繰らないで下さい。」と言って斗真の方を見る。面白くなさそうな怒っているような、今までに見たことのない表情をしていた。その時、玄関のチャイムが連打で鳴る。慌てて玄関に行きドアを開ける。
「近所迷惑になるからやめて下さい。」注意するが聞く耳持たず
「重いんだから早く開けろよ。お茶どこに置けばいい?」言い方に腹が立ったが、何だかんだで運んで来てくれた事には感謝だ。玄関先に置いてもらい、鮫島もズカズカと部屋に入って来た。
「まぁまぁ片付いてる方か。喉が渇いた。何か飲ませて。」相変わらず何様の態度だ。
「カフェオレでいいですか?」
「ノアちゃん本当に気にしないで!もう帰るから!」佐々木さんは礼儀のある人である。
「一杯だけでも飲んでって下さい。」そう言ってノアはキッチンの方へ姿を消した。
鮫島と佐々木さんは座って辺りをキョロキョロと探るように見回していた。
端っこに追いやられた斗真はというと、ノアに辛い思いをさせた張本人を前に怒りでいっぱいだった。
(あんまりキョロキョロ見るな!)と鮫島を睨み続けていた。視線を感じたのか鮫島が不意に斗真の方に視線を向けた。一瞬ひるんだ斗真だったが見えてるはずが無いと、さらに睨み続ける。するとバチっと目が合った。
「えっ!」(えっ!)お互いに声が出る。
(えっ?見えてる?えっ?…見える人?)
鮫島も目を逸らす事なく無言で斗真を見ている。そこにノアがカフェオレとお茶菓子を持って戻って来た。
「自分流の手作りカフェオレなので味の保証は出来ませんが…どうぞ。」
「気を遣わせちゃってごめんね。わっ!美味しそう!いただきます…ちょっと鮫島くん。ボーッとしてないでいただきなさいよ。」
一点を見つめている鮫島に声を掛けた。鮫島の視線の先を振り返って見ると斗真の姿が…。(えっ?見えてる?)驚いて鮫島に視線をうつし、さらに佐々木さんを見るが、佐々木さんは気付いてないようだ。恐る恐る鮫島に声を掛ける。
「どうしたんですか?」
「ノア…おまえこの家…出た方がいいぞ。」「えっ?」と動揺すると佐々木さんが
「何言ってんの?ノアちゃん引っ越してまだ一年も経ってないんだよ。無責任な発言しないでよ。」ノアも斗真の事言い出されたら大変だと焦り
「本当ですよ。まだまだ引っ越しなんて考えられませんよ。それよりこのお菓子、美味しいですよ。食べてみてくださいよ。」と鮫島のの視線を逸らすようにチラチラとお菓子を目の前で揺らす。鮫島は斗真に負けず睨み返していたが
「とりあえず引っ越すこと考えてみろよ。その時は力になってやるから。」この場を平穏に保つために
「分かりました。」と素直に返事しておいた。その後2人ともカフェオレもお菓子もペロッと平らげ帰って行った。エレベーターまで見送り部屋に戻る。お互い驚きを隠せない。
「まさか…鮫島さんが見える人だったなんて…。」
「目が合った時は本当に驚いたよ。何から何まで好きにならない人だ。僕とノアを引き離そうとしてるし…ずっと睨んでるし…僕もずっと睨んでたから仕方ないけどさ。」
「斗真、睨んでたの?アハハ!それで悪い霊に見えたのかもね。」
「でも一つだけ見直した所があった。」
「えっ?なになに?どんな所?」
「僕の存在をノアに言わなかった事。怖がらせたくなかったのかも。ほんの少し優しい気持ちもある人なんだって思えた。」
「確かに。私もほんの少し見直した。」
「でも好きにはなれない。僕は絶対に許さないから。それよりこの後大丈夫かな。また家に来たりするかな。」
「大丈夫!もう二度来させないから!この話しが出たら上手く対応するから安心して!」
「ノア、ありがとう。」斗真は鮫島の"引っ越した方がいい"という言葉を聞いて心がモヤモヤしていた。自分の欲でノアをこの家にとどまらせているのではないか…ノアも望んでここに居てくれるからと甘えてないか…ノアはもう僕が居なくても大丈夫なくらいに成長しているって分かってるんじゃないのか…僕がノアを縛ってるんじゃないのか…いろいろな思いが心の中で葛藤していた。
車の中で黙り込んでいる鮫島に佐々木さんがしつこく質問していた。
「ノアちゃんにあんな事言った理由教えてって何回も聞いてるんですけど…ねえ、ねえ!!」
「うるさいな!絶対ノアに言うなよ!約束出来るなら話す。」
「絶対言わない!約束する!」信用していいものか迷ったが話す事にした。
「ノアの家に若い男の霊がいるんだ、」
「えー!嘘でしょう…えっ…鮫島くん見える人?本当に?」
「物凄く俺のこと睨んでた。あいつ危ないかも。普通の死に方じゃないな。たぶん自殺かもな。」
「やめてよ!鳥肌が止まらないじゃん!本当なの?だとしたらノアちゃんに本当の事言った方がいいよ。」
「下手に怖がらせても可哀そうだしな…今のところ何も悪い影響出てない感じだし。俺…見えるだけでどうこうする力ないしな。佐々木さん、誰か除霊出来る知り合いいない?」
「はあ?普通に考えて身近にそんな力のある人いると思う?」
「だよな…もう少し様子見るか。たまにノアの家に一緒に行ってくれないか?まさか俺1人で行く訳にはいかないからさ。」
「へぇ〜意外とそういう所はちゃんとしてるんだね。分かった!行きたい時は声掛けて!」
「サンキュー!やっぱ佐々木さんは頼りになるぜ。」
どうにかしなくちゃな…鮫島は真剣に考えていた。
あの日からしばらく出勤するたびに
「調子悪くないか?うなされたりしてないか?」と鮫島にしつこい程聞かれていた。さらには
「風呂から出たらパジャマ着てから部屋に戻るんだぞ。」まるで父親が娘を心配するような事まで言ってくる。そんな鮫島をノアはほんの少し頼りになる人かもと思えるようになってきていた。ただ一週間に一度家に行ってもいいかと聞かれた時は秒で断った。二度と来させないと斗真と約束したし、斗真に何かしたらと思うと怖くなる。絶対に近寄らせないって決めたから。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今後2人はどうなるのか…
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