釜茹で所 殺人ナズナを求めて
釜茹で所に到着。
「うーん……ふらふらオニ」
「ここは確か殺人スズナの筈よ。私の分も合わせて2本お願いね」
「はい……」
「熱いいいい」
「はああ、いい湯加減だぜえ」
ぬ?
「何かしらこの声?」
「ここは釜茹で所ですからね。亡者達がそのお湯の熱さに苦しむ声だオニ」
亡者が何人も同じ釜の中で茹でられている。中には平気そうにして言う亡者もいる。この違いは何だろうな? 防御力か? 耐性か? それとも強がりなのか?
「酷い有様ねえ。これを6時間も……」
「まあこれでも比較的楽な地獄だオニ」
「鈴木さんもそんな事言ってたね……って? 鈴木さんもいるんじゃない? 確か釜茹で所って言ってたもんね。ちょっと探してみよう」
「寄り道は止めてほしいオニ」
「いいから……鈴木さーん?」
「誰だよ俺の名前を呼ぶのは……」
そう言いつつ釜の一番隅から顔を出す。
「いた! あれ? 覚醒Ⅴに昇級してない?」
「アリサちゃんじゃないか! と言っても数分振りだけどなw ん? これか? これはな、あの時頭をなでてくれたろ?」
「ええ。めちゃくちゃ驚いてたよね?」
「そりゃ驚くさ……12万も上昇したんだぜ? 戦力」
なんだと?
「え? たったそれだけの事で?」
「ああ、稀って文字が出た。初めて見たわ。閻魔様も細かいところまで配慮してるんだなあ。こんな事普通思いつかんぜ」
「ああー」(針山でも亡者さんが驚いてたよね。すごい成長したって)
「卒業に近づいた」
「うん。じゃあ私が色々な亡者を撫でるだけで上昇するのね?」
「いや、恐らく本心から認めた時にしか起こらない戦力上昇だと思うぜ」
「そうか……そう簡単にいかないよね……」(そういえば針山の亡者は撫でてなかったわ)
「で、何の用だい?」
「仕事中ごめんね。居るかなあって思って……後6時間?」
「いや、後4時間だ。覚醒の階級補正で5時間ちょいで済むからな」
「熱過ぎて死にそう?」
「徐々に体力が減ってきてる。0になったら報酬が半分になるからヘールで回復しながら茹でられてるぜw」
「回復のコトダマ持ってたんだ」
「ああ、買ったばっかりでな。2回しか使えんw」
「大変ねえ……」
「やばくなったら回復薬を使って凌ぐさ。明日は責め苦免除パスを使うしな」
「ああ、あの有給休暇ね?」
「何枚か貯めて一気に使いたいがすぐ使っちまうw」
「あのさ……私別れる前に鈴木さんに何かお願いしなかったっけ?」
「ん? ああ、確か忘れた。と、言う感覚を知りたいって言ってたな。アリサちゃん。君の苗字は?」
「え、やだ……思い出せない……なんで?」
「本当だったろ?」
「うん。記憶具現って怖いねえ」
「そうか?」
「ありがとう。貴重な体験が出来たわ。責め苦頑張ってね」
「おう、そういえば一つ思い出した事がある」
「え?」
「内藤、あいつに俺が、お前はもうすぐ終わる。って脅した事があってな」
「どんな時に?」
「説教の後だ」
「悔しそうな顔して……っと肛門してたんでしょ?」
「いや。笑っていたんだ。顔……おっと肛門はもう思い出せんが」
「ああ、消えちゃったんだもんね。でも顔……肛門は覚えてなくても奴の行動自体は覚えてるんだもんね」
わざわざ言い直さないでよ……
「うむ」
「でも どうして?」
「分からん。だが、まるでそんな訳ねえじゃんと馬鹿にした感じの笑い方だった」
「気になるわねえ。それだけ?」
「ああ、なんか腑に落ちなくてな。それだけだ。じゃあなぶくぶく」
オニに、かき混ぜ棒で釜の底に沈められる鈴木。
「あ! ちょっと! 手加減しなさいよ?」
「仕事ですので……」
「まあこれが仕事。仕方ない……あっ薬草探さないと」
ダダダダダ
「ここは殺人スズナね? じゃあ早いところ抜いてよ」
「ぬううう……」(何でこのお方この階級なのに抜かないんだ? まさか? よし、ちょっと実験オニ)
「あっ」
サクッ
「あれ? 変な音したけどどうしたの?」
「ちょっと葉で手を切ってしまったオニ」
「ああ、確かにこの葉っぱ結構鋭いよね」
「痛いオニ。流石殺人スズナオニ……これではもう死んでしまうオニ……」
「あんたオニでしょ? 辛いでしょうけどもうすぐ終わるんだし頑張ってよ」(あれれ? 鬼ってこんな事でもう諦めようとするの? なんかイメージと違う……根性無しねえ。がっかりだわ……これも修ちゃんが居ない世界だから仕方ない事なのかもね……どうしようか)
「あー痛いオニ! このままでは可能する化膿性がするオニ……もう草なんか採れないオニー」(これで逃げ切るオニ)
「こらこら! 化膿と可能が逆よ? でも、どうしよう……まあ私の方が立場も上だしこのまま無理やりにでもこの子を働かせてもいいんだけどぉ……余りに非人道的な事をしたら読者さんに反感買っちゃうし……それだけは絶対に出来ないからあ……可能する化膿性? あら? これ、どこかで聞いた事があるわ……あっそうだ……はああああ」
ぬ? なんだ?
「な、何をする気オニ?」
「何度も見て来た。その術式、ワードの組み合わせ。私なら簡単に思い出せるよね?」
「な、何する気オニ?」
「……」
「どうしたオニ?」
「来た……さっすが私! 死んでも天才って……まーた自分の事を好きになっちゃうじゃんw正に腐っても鯛じゃない? ちょっと違うかしら?」
「な、何を言って……?」
「青鬼君? 君の言った可能する化膿性……その間違い。これね? 正に前話のエピソード7
【ミイラ男 × 妖精の森?】
でニイラ君が大怪我をした私を慮って言ったセリフなの」
「え? え?」
「その間違いのお陰で君を思い出せたよ! ニイラ君」
「ニイラとはなんだオニ?」
「読者さんに聞いて?」
「読者? 誰オニ?」
「何で呼び捨てするんだ! 読者さんでしょ!! この馬鹿オニ!」
ギロ……
<鬼> <殺>
「ひいい、読者さん助けてオニー」
「分かればいいのよwwじゃあニイラ君? 遠慮なく
【借 り る よ?】
はああああ……」
ニイラ? ぬ! まさか……詠唱か? ニイラが使った魔法と言えばあれか!!! アリサよ……虚無平原で起こした奇跡を再び起こす気なのだな?
『大いなる森よ! そして、そこに住まいし、心清らかなる聖霊よ! この、小さき命の手に刻まれし傷の穢れを、聖なる輝きで浄化したまえ!! ぬううううううう……ハッ! ホイミイラ!!!!』
やはりだ……こ、この詠唱……そしてこの、呪文は……!
パアア
「き、傷が治ったオニ」(でもこれで逃げられなくなってしまったオニ。流石神裔Ⅳオニ……こんな事も出来るのかオニ……面倒臭いオニ……でもこのお方、自力では薬草を抜けない。確信したオニ……回復特化の神裔Ⅳという事オニ? でも、その弱みを絶対に明かさないと言うスタンスの筈オニ。全ては自分の優位を崩さない為に……まあこのタイプは恐らくオイラ程度の火力で攻撃してもすぐに傷を癒すから永遠に倒せそうにないけれど……でも徹底して自分の
【力が弱い】
という弱みを見せていない……プロオニ……この幼さで泣き付こうとせず絶対的なカリスマを保ち続けている……そこまでしてオイラを使い潰そうとしているオニ……伊達にこの若さでこの階級ではないオニ! 腹黒い方オニ)
「あー疲れた。でもオニにも……あら? 私今何をしたの? 傷が治ってるけど?」
「え? 今ホイミイラっておかしな魔法を使って回復してくれた筈オニ? この地獄ではヘールが回復魔法オニ。何であんな得体のしれない呪文を?」
「え? 私があんたに回復魔法を? そんな記憶ないなあ」
「何とぼけてるオニ……間違いなく使ったオニ!」
まただ……ブライト・モアを使った後もこんな感じだったな。ホイミイラでも同じ状況になっている……
「へえそうなんだ。まいいか。回復したんだし……変だなあ? 全く記憶にないんだけど……でもそんなに魔力を消費した気がしないのよね。何度も見ていたからかしら? ニイラ君はすぐMP無くなって滅茶苦茶大変そうだったのに……これが師匠の特権ってやつ?」
「師匠? 何を言っているオニ?」
「これを私に教えてくれた男よ」
「この回復呪文、弟子から教えて貰ったと言う事オニ?」
「そうよ。私は人生の師匠。奴は回復の力はあったけど心が無かった。だから心を与えた。ただ、それだけ」
「へえ、良く分からないけど貴女様に底知れぬ恐怖を感じたオニ」(回復特化の神裔Ⅳではないという事オニ? では一体どれを特化している? 攻撃も弱く回復も教えてもらったばかり……分からないオニ……)
「だよね。察しがいいよ? まあ次は気を付けなさいね。でもまさか弟子の力を借りる事になるとはね……この力、新しく習得した物なのかしら? どういう物なのか気になるわね? そうだ、自分にもアレ、使えるかしら?」
そう言いつつ自分のおでこを触り始める。
「な、何だオニ?」
「これから自分のステータスを見ようかなって思って」
「そんなスキルがあるオニ?」
「ええ、私しか使えないスキルよ」
「ステータスを見るのだったらおいらも使えるオニ?」
「え?」
「自分のステータスは、目閉じて出て来る画面がある筈オニ。そこにバナーがいくつかあるオニ?」
「ああログインボーナスの時のあれか」
目を閉じる。
「その中で、マイデータという右上の笑顔マークの付いているバナー部分に意識を持っていけばそんなスキル使わなくても見れる筈オニ」
「あー、そんな仕様なわけ?」
そういいつつ目を閉じる
「マイデータ……これか……タッチ」
ポチッ
カブラギ アリサ LV11 名探偵の曾孫 ♀
力 1
素早さ 41+100 (装備効果)
体力 12
賢さ 320
運 50
HP 25
MP 640×3 (装備効果) 1920/1920
攻撃 4
防御 780
スキル
速記マスター
速読マスター
記憶マスター
戦力引継ぎ【2周目特典】
魂時装備可能【3周目特典】
地獄内全施設開放【5周目特典】
初期所持金五百万ヘル【7周目特典】
☆お笑い芸人の資質
☆お化け屋敷鑑定士2級
☆☆回復術師の師匠
☆☆☆賢さ限界突破
★★★打撃、炎、冷気耐性 (装備効果)
☆撮去黒封円の陣 消費MP 40
☆☆☆☆☆ 万物調査 消費MP 150
☆☆☆☆☆ 光化 消費MP 3000
★★★★★★ 記憶具現(新)消費MP 使用術式に依存 (本来の消費MPの2倍消費。自身がもともと習得している物は通常消費で使用可能。一度のみ使用可能)【地獄内限定スキル】
満腹値 97/100
状態異常 霊体化
E,爪 牙 毒舌
★上級亡者の着物【地獄内限定装備】
★上級亡者の雪駄【地獄内限定装備】
★黄金の烏帽子【地獄内限定装備】
好きなもの 読書 謎を解くこと たこ焼き
嫌いなもの 斉藤隆之 ゴキブリ ナメクジ
枠は虹色に輝いている。
地獄に落ちたアリサ。状態異常が霊体になっている。頭上には階級が浮かんでいる。ホーム画面? では詳しい戦力と持ち金が上部に表示されていたな。彼女の現段階の階級は神裔Ⅳとの事。ここでの様々な上昇条件を達成した数値が250万に到達した者のみがこの階級を名乗る事が可能。なぜかアリサはそれを飛ばしてこの階級に居座っている。これはまさか2周目特典の
【戦力引継ぎ】
が適応されているという事か? そして、地獄内のみ使用可能の地獄専用のスキルと地獄専用装備を飛ばされた直後から受け取っているな。これを渡したのは死神と思われる。魂なのに装備出来るのは
【3周目特典】
で装備可能となったのか? しかし、
【周】
とは一体? 予想だが、同じ魂が生まれ変わり、再び悪事を行いここに戻ると、その度に周回数が増え、その回数に応じた特典が貰えた状態で虚無平原に落ちたと言う事か? だが全ての魂は閻魔の所に行く筈だが……アリサは死の呪文で飛ばされて来た筈。この場合、虚無平原に落ちるのかも知れぬな。そして、何回も地獄に落ちて這い上がる度に周回特典は豪華になり、次の周を迎えるという事なのか? もしその仮説が正しければアリサの
【前の人】
は相当悪事を重ねた魂という事になってしまうが……まさかな……だが7周目まで特典を獲得している事からほぼ間違いない推理であろうな……そして、1話で謎の二人組? が、
『今までこんな事はなかった』
と、騒いでいたのは、長い地獄の歴史でも周回ボーナスを獲得していた魂が、死の呪文で飛ばされたケースは初だったと言う事だろうな。
次に星6のスキル
【記憶具現】
は鈴木も多用していたが、この説明から察するに、他にも用途がある様だな。自分が見てきた思い出せる呪文なら地獄内に限りどんな物でも再現可能らしいな。 ただ、本人が習得している者以外の呪文は消費量が割り増しではあるが一度だけ使う事が? 自分が元々使える呪文に関しては通常消費量で済むようだ。地獄で売られているコトダマは何度でも使用可能なので慎重に使って行きたいな。ただ、鈴木は画像をブロックとして呼び起こしていたが、こんな事も出来るのだな。ただ一度のみしか使用出来ないらしいな。そこは忘れてしまうという事なのだろう。ブライト・モアを一度使った後思い出せなくなったのはこれが原因だろうな。本来市田が使っていた呪文なので消費量が多く使用後疲弊していた。しかし、一体何故だろう。
そして初期装備は上級と書いてあるだけの事はあって、防御力がかなり高い。そして同時にブラックダイアを所持していないせいか、運の良さが50になっているな。アリサの本来の運はこれくらいだったのだな。
そして光化と言うのは、2話の
『最修問題』
の回で光に変化した奇跡の正体だ。消費MPは3000だったのか。修造を見て全ステータスが上昇していたが、その影響で一時的にMPが3000を超えていたという事であろう。その後もう一度使おうとしていたが限界突破が終わってしまえばこの消費量。使える筈もないな。
「おっ出てきた出て来たwMP減ってないわすごーい……で、万物調査と全く同じステータス表記ね。これは使える! 相変わらず力は1かあw可愛い♡……あれ? 2周目特典? 何これ? 私が250万で始まったのも、魂で装備が出来たのも食事処を魂の状態で使えたのも閻魔から500万ヘル貰えたのもこの特典のお陰だったって事なのね? でも7周って……前の人? 頑張ったのねえ……あれ? スキル欄に私が使ったとされる回復魔法っぽいのが無いじゃん。じゃあどうやって? あら? ステータスが上がっているわ。何かしらねえ? 装備効果で色々底上げされてるの? で、新しく使えるみたいなのは……記憶具現? これは……鈴木さんが使ってたあれよね? ☆6つってかなりレア? ☆6のスキルを地獄の亡者全員が持っているんだ。凄いわね」
「神裔様? どうでした?」
「そうね。色々変わってたわ。でも私は君の力も万物調査で見れるのよ? 今まで知らなかった新たな一面も知れて本当に幸せです。って言う体験談も沢山寄せられていて、身長も7cm伸びて給料も上がって友達も千人出来てその後1週間以内に彼女も出来ましたって報告も多数あるから調べられて見る?」
「遠慮するオニ」
「そう? まあ150も減るから疲れるのよねあれ。でも万物調査も一回使ったら消えるのね、じゃあやっぱり見てあげないwでも自分のステータスなら消費無しで見れるのは大きいわ」
「それが普通オニ」
「記憶具現かあ……今唱えた呪文はニイラ君の詠唱をまんまパクった呪文だと思うのよね。それが特に訓練無しでも使用出来てしまった。と言う事は? 過去に見た記憶から覚えていれば、MPを消費して使う魔法みたいな物なら地獄内では全て使えると言う事? 鈴木さんは画像を呼び起こしていたけど、覚えて居れば映像だけでなく呪文も一回だけ使用出来るという事ね? 虚無平原で光を呼び起こす魔法を一回唱えた後一切思い出せなくなったのはそういう事だったんだ……私が忘れるなんてありえないからね……それでも凄いスキルねえ。でも2倍ってのが気になるなあ」
ほう、記憶力の高い彼女ならロウ・ガイの筋力増加の詠唱なども消費量が2倍で使用可能と言う事か。地獄限定とは言え、彼女のステータスと記憶力の高さとのシナジーも完璧である。チートスキルだなあ……これは不思議のダンジョンで言うならば
【百紙の巻物】
に相当する特技であろう。知っている物を思い出す事で何でも使えてしまう。リスクは消費MPが2倍になるだけの事で……当然攻撃魔法ならば魔力が低ければ威力は劣るかもしれないが、補助魔法ならそういう物が必要ない。アリサは今、消費2倍ではあるが僧侶にも魔法使いにも如何なる魔法でも扱える最強の魔術師になれたと言う事なのか……? ……では1話で登場したロウ・ガイの使用していた筋力強化の妙技も思い出しさえすれば使用可能で自分で薬草を引き抜く事も? まあその事を思い出せなければ使えない。MPも消費する筈だし結局一度しか使えないだろうからな。意識して思い出そうともしないだろうな。どうせ引き続き豪傑の鬼に薬草採取を頼るのであろうな。
「これが神裔様の力と言う事オニ……恐ろしいオニ……でももしかして覚えてる魔法なら本来の消費量よりも2倍にはなるけどで何でも使えるって事オニ? チートじゃないですかオニ? 地獄では思い出をブロックにする以外の使い方は無いオニ」
「あら? 知ってる癖にw」
「え?」(見破られていた……このお方の真のスキルはもしや探偵? 推理力が凄まじいオニ……)
元々探偵の技術は所有している。
「でも思い出だけじゃなくって覚えていた呪文も一回なら使えるって事ね。……でも、記憶力が無ければ何にも出来ないって事じゃない? 宝の持ち腐れよ。そこそこ記憶力のある私だから使いこなせるけど……」(でも回復はもう使えなくなったのよね……こんな所で使うの勿体なかったかな? 慎重に使わないと……)
「ありがとうオニ」
「回復したのよね? じゃあまたお願いね?」
やはりな……
「あっ、はい……うおおお」
ポン
「よし4つ目! 確か釜茹での次は……焦熱地獄の獄炎スズシロだっけ? よーし! いくよおお」
「もう逃げられないオニ……」
「後2個なんだから我慢なさい。さあ走るわよおお」
「ここからだと結構かかるオニ?」
「そうね。まあ走るのは好きだし、君も勿論大好きだしー?」
「えーオニ」
「もう! 文句ばっかり! 閻魔様の敵を取りたくないの? 未踏の地だから走っていくわよお。まずは看板……」
「ちょっと待ってオニ」
「何?」
「出来れば乗り物を使って欲しいオニ。ヘルを使うけど歩きよりは速いオニ」
「乗り物があるの? 知らなかったわ」
「上界で言えばタクシーみたいな物オニ」
「ふーん。ヘルかあ……いいよ」
「助かるオニ」
「で、どうやって呼ぶの?」
「おーい火車ああ! こっちに来てくれええええ」
「火車? 家計は火の車みたいな?」
「上手い事を言うオニ。でも関係ないオニ。地獄での移動手段の一つの人力車……じゃないオニ……鬼力車オニ」
「へえ。あ、まさか」
「どうしたオニ?」
「ログインボーナス10日目の火車パスってこれを無料で使えるって事?」
「そうオニ」
「でも3日は歩かなきゃいけないのね」
「え?」
「あのログインボーナスさ、10日で一周する訳よ。でも火車パスは七日分じゃない?」
「ああ。ですが、一週間の内1日は休みですし、毎日火車を使えるとなったらだらけてしまいますから」
「確かに」
「それでも乗りたければお金を払って乗ってくれという事オニ」
「毎日ログインした程度ではそこまで優しくないって事ね? 納得したわ。しかし、中々来ないわねえ」
「結構忙しいみたいですオニ」
「歩いた方が早いんじゃない?」
ドドドドド
「あっ来たオニ」
「どちらまでカシャオニ?」
新米Ⅲと頭に付いた赤いオニが、車輪が燃えている人力車の様な乗り物を運んで来た。車輪自体が炎の様に燃え盛っているが……こんなのに乗ったら熱そうである……まあ徒歩よりは早いのだろうし少々焦げても問題ないな?
「ねえ? この車、私に燃え移ったりしない? 滅茶苦茶熱そうなタイヤねえ」
「え? タイヤ? これは地獄スタンダードな乗り物ですカシャオニ? あ、お嬢さん! 上級亡者の着物を着ているじゃないですかカシャオニ! そんないい装備をしているのに露骨な嫌味を言うのは止めて欲しいカシャオニ」
「嫌味? 何が? これ……すごい装備なの??」
一回転して赤鬼に着物を見せつけるアリサ。
「そうですカシャオニ。物凄い防御力と3属性を7割カットしてくれる優れものですカシャオニ!」
「……ねえ」
「ん? 何だカシャオニ?」
「それよ!」
「どれカシャオニ?」
「カシャオニって語尾よ! 長くない? 2文字か3文字に抑えなさいよ」
「分かったカシャ」
「なんかしっくりこないなあ。でもこの子の語尾まで【オニ】じゃなくてよかった」
「どういう事カシャ?」
「ああそれはね、豪傑の青鬼君と全く同じ語尾じゃどっちが喋ってるか全く分からなくなるからよw」
「え? 語尾が同じだと誰が喋っているか分からないカシャ? 不思議カシャ……だって今喋っているのはオイラだカシャ? 貴女には見えているカシャ。なのに何故分からない人がいるなんておかしな事を言うんだカシャ? そこの青鬼さんもしっかりと聞こえてこっちを見ているカシャ? 誰に対しての心配なんだカシャ?」
「それが居るのよ……とっても大事な人達なの。でもここでは詳しく説明しない」
確かにな。鬼が大半を占めるこの世界。2種類以上同時に存在した場合。語尾がオニばかりでは語り分けが非常に難しくなる。
読者の方々に、
「このセリフは一体誰が喋っているんだあ?」
と混乱させてしまう事になる。プロとしてそんな事があってはならない。
故に同時に同種の生物が出た場合、同じ語尾を使いそうだと私が判断した時、意図的に語尾を変更し発言者の特定をしやすい様に工夫する事を許してほしい。以上。語りランク8段の素人語り部からのお願いである。
「で、さっきの話だけど、この着物に耐性あるの? 意外ねえ、因みに何と何と何か分かるの?」
「ええと……衝撃……打撃とか炎と氷ですカシャ」
「へえ、そうなんだ。そういえばこれね、ここに着た瞬間に装備していたのよね。死神が付けてくれたんだよね? 私を全裸にしてさあ。で、地面に叩きつけられたんだけど、そこまで痛くなかった。それってその耐性のお陰かな?」
「そうなんですかオニ? 不思議オニ。普通は閻魔様の裁量でどの地獄に行くかを決められる筈オニ。神様は突然空中から出て来て叩き落とされたって事オニ?」
「そうみたいカシャ。やはり主人公特権なのかカシャ?」
「そうなのかもね。でも、元々イチゴのワンピースだったし色々入っていたカバンも持っていた筈なのに、無くなってるのよ」
「そんな事言われても知らんカシャ」
「だよね……でも私の美しい裸も死神に無料で見せた事になっちゃったよ。悔しイイイイ」
「うぬぼれが激しいオニ」
「赤鬼さんもう一つ良い?」
「何だカシャ?」
「この帽子は? 金色のやつ!」
「これは賢さを少し上げる金の烏帽子ですカシャ。後消費MPを3分の1にしてくれるカシャ」
「へえ! じゃあ記憶具現とのシナジーえぐいじゃん! どんな魔法でも覚えていれば2倍で使えるスキルだったのよ! それの3分の1って事は……本来の0,66666倍でどんな魔法でも使えるって事じゃん! やったあ」
「まあここ専用の装備ですので現世には持っていけませんカシャ。
後、貴女様の頭の階級を拝見しまたが、あなたはもういつでも自由に帰る資格を既に持っているカシャ」
「知ってるよ。でも閻魔様が死んじゃったの。でそれを検視する為に現世から連れてきた女友達が居るのよ。その子を置いて帰る訳にはいかない。ここに永遠に残る事になるからね」
「いつかは生まれ変われるカシャ。時間は掛かるけどカシャ」
「そうだけど時間が過ぎれば虎ちゃんの肉体が腐っちゃうのよ。死神に直接魂を剥がされたから肉体は残っていてね。だから早く閻魔を殺害した犯人を捕まえないとね」
「だからって? 犯人を捕まえても死んだ閻魔様は戻ってきませんオニ? 他に復活が使えるのはナンバー2の鬼だけオニ」
「まあそうかもしれないけど犯人は私が捕まえたいの! それは意味も意図も無い厳然たるルールなの! それにあの階級の化け物をどうやって倒したのかも知りたいのよ! これって犯人から聞き出すしかない事でしょ? ってのもあるし。でも、もし蘇生方法が見つからなくても6種類の草のお粥をその鬼に食べさせれば、家に送り届けてくれるって約束なの。だから犯人捜しのついでで6草を集めている訳ね」
「でもそれなら6種の薬草を集めればそれで終わりじゃないカシャ?」
「閻魔様の事件は別に解決する必要ないオニ」
「うるせえ! どっちも完璧にやってから帰る。これは決定事項だ!」
「分かりました。その装備は捜査にも相当役に立つ筈ですカシャ」
「だよねえ。全部便利じゃん。ここにいる間は有効利用させてもらおっと♪」
「で、どちらまでカシャ?」
「焦熱地獄よ」
「了解ですカシャ。少々熱いですが、お乗り下さいカシャ」




