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【ヴェルツ】新たな火種

 こういう時はちょっと体動かして気合いを……と思った瞬間、また表が騒がしくなる。

「何も、レサンをあんなところで残してくることはなかったんじゃないかな……」

「構わん。一人でなんとかなろう」

「でもさ……」

 カーチとイライジャだ。

 声と同時にその姿もギルド内に入ってくる。

「ちゃんと毎晩、行きますから。心配しなくとも」

「いや、レサンは一度痛い目にあっておくとよかろう。数日行かなくとも良い」

「いやいやいや、行きます、行きますから、カーチさん安心してくださいよー?」

 カーチの後ろからケンゴの姿が見えた。背、低いよなー……。


「おう、おかえり」

「ねー、今から、依頼いくの? ケンゴがいるならいけるよね?」

「んー……イライジャ老は休みたいんですよね? カーチさんと、ってことですか?」

「だね」

 おう、俺思いっきり無視されたな。

 なんというか、エルフたちと対等に会話しているこいつはスゴい。

「キーやん、お前はどうなの? 瞬間移動いける?」

「もんだいないー」

「じゃぁ、行きます?」

「うん、行こう行こう」

 ケンゴとカーチが話している間に、イライジャは定位置に座っている。大抵、人が捌けるまでそこで休んでいて、夜になると寝床に帰る。

 ただ、その寝床ってのがどこなのか俺たちもさっぱり知らない。もしかしたらないのかも知れず、その場合はギルドでうとうとしてるだけってことになるんだが。

 レサンでさえ聞きづらいとなると、俺らで聞き出せるもんじゃねぇんだよな。


「あ、ヴェルツさんすみません。えーと、ヘルさんに話聞きました?」

「あぁ、ソレナからな。聞いた」

 カーチは苦手なんだよな。レサンとのアレがあるから、どこまで踏み込んでいいかわからないし。

 ケンゴが間に入るように会話をしてくれるなら、正直、助かる。

「えーと、なんか、高火力のカーチさんとイライジャ老が抜けるとやばいってので戻ってきたんですよね?」

「……そうだな?」

 俺に聞かれても。


「だから、カーチさんと今から依頼に行きたいんですけど」

「あぁ、ギルドとしてもそうしてくれたら助かる。キーやんが空間転移できる場所の依頼だよな? 南部だったらいいのか?」

「たぶんー」

 本人からのお墨付きを得て、適当に依頼票を漁る。南部のインデックスがついてるやつは……と。

 なんだな、前提共有とかしなくていいのにケンゴ。そこは商人って感じがするな。

 んー。カーチだと、ここら辺か……。この中で一番優先度が高いのは……。

 これだな。


 依頼の説明をしようと口を開いた瞬間、俺の後ろのドアが乱雑に開いた。

 おぉ、ヘルが戻ってきたか。寝落ちしなかったとは、レサンとは違うなー……。

 手元の依頼票に目を落とす。

「えーとだな、同じく南東部で、討伐対象は黒告鳥。デカい個体が暴れてて、ハリーが印をつけてるから、すぐわかるはずだ」

 律儀なケンゴが慌てて日誌を出してメモをし始める。

 いや、いいって別にそこまでしなくても。


「その印は、えーと頭のあたりに大きなばつ印の傷。それと注意事項が……」

 依頼票が後ろから取り上げられた。

「ん? ソレナ?」

 視界に入った袖の色で分かる。

 ヘルだと思っていた存在がソレナで、しかも、「依頼を任せるんじゃない」と怒りを喰らうと思って身構えたのがこなくて。

 ちょい混乱する。


「あー?」

 とりあえず、疑問を外に出す。

「ケンゴ。奥来な。話がある」

 振り返ってみた彼女の目がイってた。

 これはあれだな。逆らったら、物理的に首が締まるやつ。

 俺は死にたくねぇ。


「ケ……ううん、うん」

 思わず声が震えた。咳払いで、うん。ごまかせてないなー。

 が、ソレナは完全に心ここに在らず。ケンゴに用があるだけ。

 カーチは……首をかしげてるから、別にどうでもいいってことだな。わからないふりを決め込んでいる……これ、ちまちまストレス溜まるんだが、まぁ、今はいい。問題はレサンにこれ決めるときで……。

 いや、今はそれどころじゃない。ソレナを怒らせたら俺の腕一本くらい吹っ飛ぶからな。


「ケンゴ、そう言うことだから、いいか?」

「あれ、えーと……。俺だけ? キーやんはいいんだったら、カーチさんと二人でどうです?」

 ケンゴが折衷案を出してきた。

 俺たちの視線はまずカーチに行く。ちょっと不思議そうにした後、頷いた。

 で、ソレナ。

「いいから、こい」

 うわ、怖―……。


 ここは俺しかないよな……。

「で、ケンゴだけでいいの?」

 俺が聞くしかない。

「……ケンゴがいいなら。早くきて」

 彼女がドアの向こうへ消える。

 うっわー……怖……。


「ケンゴ、悪いなー……。色々、忙しくて……」

「あ、大丈夫です。ソレナさんって面倒見いい人ですよね。俺のために時間削ってもらって申し訳ないです」

 あー出来たやつだなこいつ。俺なら最低でも、無言で……俺のことはいい。うん。

「じゃ、カーチさん、キーやんお願いしますねー」

 彼が軽くカーチに会釈する。テイムドの方は状況が分かっているのか分かっていないのか表面を揺らし続けている。

「うん、任されたよ」

 ケンゴがカウンターを越えてくる。おー。恐る恐るだった動作が様になってきてるなー……。

 そんなにカウンター越えることは今後ないと思うんだが。


 ケンゴの姿を一応見送る。

 で。

 こっちは。

 カーチに依頼内容確認しておけばいいかな?

「カーチ、依頼だが」

「んー黒告鳥だね。額にバツの傷がある……」

「そう、大丈夫そうだな。そっちのキーやん、も……?」

 とりあえず、言葉をむけてみる。が、目鼻どころか顔もないとなると、どこに視線をやればいいかわからない……。


「さっきと、おなじところ?」

 お、言葉が返ってきた。言葉の後には、揺れる不思議な何かが残る。なんていえばいいのか分からないんだよな……このプルプルした……。

「そう、エリア24だから……ちょい待てな。えーと、饅頭目撃情報禄……」

 なんだかんだこれ便利になりそうだよな。どこにあるんだっけか。もう要らないから誰かが片付けたかな。

 いや、あったあった。

「えーと……これ、24……うーん?」

 地の中を何かが這って進んでいた……?

 これ、こいつの目撃情報かぁ?

 まぁ、一応聞いておこう。

「土の中を進んでた? その辺りなんだが」

「わかったー」

 なんで土の中にいたんだ……?


 まぁ、ともかく。

「その辺りだ。カーチと頼めるか?」

「うんー」

 ぷるんと震えながら、言葉が返ってきた。

 カーチもその表面を突いている。仲が良いのは、いいことだよな。うん……。

「じゃぁ、カーチよろしく」

「行ってくるねー。キー、行こうー」

 つられてカーチの言葉尻も伸びている。

 ぽよんぽよんと跳ねるキーやんに続いて、カーチが出ていく。

 空間転移するのに出ていく必要ない気がするが。まぁ。うん。見送りとしては、普段通りだと安心はする。


 はー……昼だってのに嵐のような……。

 朝から今日はバタバタ忙しすぎたな。

 あーあ。イライジャ、寝てるな。レサンにカーチ、ケンゴはともかくそのテイムド……疲れるよなぁ……。

 ヘルの仮眠用毛布、そこらにあったはず……拝借、っと。


 さぁてと。

 仕事、仕事。

 俺にできることなんて、知れてるが。ソレナの負担軽減しないとなぁ。しばらく、飯も俺が作るかな。

 んー。

 あんまり手伝いすぎると、逆に気負うから面倒だしな。首を決められたら、問答無用で「はい」と言うしかねーんだもん。

 楽できるならしとけって思うんだがな。なぜか嫌うんだよなぁ。


 カウンター乗り越えて定位置に戻る。

 さっきの依頼票を処理して……。

 ……。

 依頼票に目を落として固まった。

 エリア24、討伐対象は黒告鳥。頭のあたりに大きなばつ印の傷。

 注意事項、咎の花の実を好む。


 ソレナが後ろから来て、驚いて。

 注意事項、伝えてない。


 クソが。普段だったら追いかける。追いかけて間に合う。

 カウンター邪魔! 本当にこれ必要か!? もう要らねーんじゃねーのか!?

 重いんだよこのドア、丸一日ここにいるのに、いちいち閉める必要あるか!?

 外に出る。あたりを見渡すが、もちろん求めている姿はない。

 クソ。そうだよな。もういねぇんだよな。

 あー……。サリムに続いてまたやらかした。

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