特殊商人について
やべー。
ソレナさん、V Sフェンリルの立ち合いしてくれた時の倍くらい疲れてね?
やばい。もう自動で仕事してるだけの。
もうスイッチはいてますよーって感じ。
こう雰囲気出し始めた人って、あれだよ。何ヶ月がしたら気づいたら職場からいなくなる感じの……。
俺がどうこうできることじゃないしなー。
仕事増やした直接の原因は俺だろうけど、ソレナさんに負担が集中する体制が一番の問題だもんな。
うーん。俺が何かできることはないよな。
せめて、雰囲気が悪くならないように立ち回るぐらいで。
ソレナさん、なんかトラウマとかあんのかな。他のギルド職員と仕事への入れ込み用が違うよな……。
いや、ヘルさんは命晒してたり、レサンさんも出動してたりするが、基本的に気楽。自分の追い込み様に鬼気迫るものを感じる……。
ヘルさんとソレナさんに淡々と尋問を受けた部屋、その前でソレナさんが壁にもたれて立っていた。
俺の姿を確認すると、中へ入っていく。
ここ、部外者入れての会議の部屋なんだろうなー。ただ、このギルドの建物がボロいから、会議室って感じはしない。
手で示されたので座る。
座った目のソレナさんと対面でなにがはじまるんだ、コレ。
うわー。キーやんやっぱりいかせちゃダメだった。俺の精神的安定のために。
「それで、空間転移とか、魔術空間とかの件で」
「はい」
返事はしたものの、件と言われても何かわからないやつな。
「ギルドで使いたいって話でしょうか」
「うん、そう。えーとね、流石に契約を交わさないと後々問題になるから」
「あぁ、そうなんですね」
空間転移一回、白金貨が出てくるような商売しているやつもいるんだもんな。俺がタダでバンバンやってたらそりゃヤバい。殴り込みにこられてもおかしくない話で。
「アタシらと契約を交わしてほしいって思ってるんだけど」
「ブルエモンの冒険者ギルドと、ですか? それとも、冒険者ギルド全体?」
それとこれとでは全然話が違うからな。冒険者ギルド全体となったら忙しさがパなそう。
スローライフ的には避けたいが、お金も欲しい。
でも、どのみち後者だと要検討だよな。俺の知名度爆上がりになるだろうし、そんなに目立ちたくねー。キーやんに可能かどうかも聞かなきゃならないし。
「そうだね……」
ソレナさんがちょっと考えた。
あっれ。そこふわふわしてる段階で俺に話持ってくる?
「まずはブルエモンと、かな。その後にうちをモデルにして、もっと広範囲でお願いすることになるかも」
「ふむ……」
「その時は、ボルテ王国、次は東大陸、って規模の話になるかな……。そうなると、上が出てくるけど」
上って冒険者ギルドの組織として上ってことだよな。その辺り、組織がどうなってるのか、どういう人たちなのか気になる。
ただ、まぁ、話そらしたら戻らない気配がするので、とっとと本題を進めるか。
「わかりました。心算はしておきます。それで、ブルエモンと契約を交わすとなると、詳細を詰めるところからですか?」
ソレナさんが目を細めた。
ん?
俺なんかまたやらかしたか?
「アタシら、商人のことは詳しくわからないのだけれど、そういう商売をしようと思ったら、商人ギルドで特殊商人の申請がいるらしい」
「特殊商人……」
「普通とは違うものを売ろうと思ったら、特殊商人になってもらわにゃいけないらしくてね」
「そう、なんですか……」
契約内容が大雑把な部分も決まってないはずだわ。
そもそも、俺にその商売をする資格がないってことか。
「ま、今回、実際に使わしてもらったわけだしね。ヘルの件はレサンの個人的な頼みと言い訳できなくもないけど、カーチやイライジャは完全にギルドの運用の問題」
「ブルエモンの冒険者ギルドが、俺を騙して搾取してる、と言われかねないわけですか」
「そういうこと」
なるほどねぇ……。
このギルドの立場って結構特殊だと思うんだよな。
初心者のFランクをギルド内に囲ってしまうのものそうだし、危機に陥った冒険者をわざわざ助けに行ったり。
冒険者としてはありがたい話なんだが、ギルド内では批難があると想像はつく。
しかも、ここのトップの総代が、町の政治役でもあるわけで、そりゃまぁ「あいつら冒険者ギルドの基本わかってるか?」みたいな話にはなるだろうよ。
で、そんな微妙な立場で、ちょい手続き上の不備があれば「田舎のギルドだからなぁなぁにするとか許されんぞ?」と圧力がかかる、というわけだろう。
「だから、ともかく、特殊商人になりに商人ギルドへ行ってほしい。で、ブルエモンにはないから、空間転移だっけ、それでネスマーに行ってほしいの」
「あー……」
いけないんですよね、ネスマー……。
「ん……?」
真面目な話で不意打ち食らった。
ソレナさんが素で首を傾げた。そうだよなーレサンさんとかヴェルツさんとか感情が豊かな面々に囲まれてたら、つい出てしまう時があるよな。
「行ったことのある場所なら行けると聞いたけど」
ですよねー……。
草原で急にキーやんを出現させたことは隠してるからな。んー、行けないとは言えんだろ。
どう切り抜けるかなー……。
「どのくらい頻発できるか、ちょっと俺では分かりませんね。ネスマーのあたりは人も多いだろうし、そうなると精度が求められるので」
「あー……なるほど……」
ちょっと無言になる俺たち。
キーやん、必要だったなー……。
「……レサンのところへ飯を持っていくのは? ……まぁ、いいか。空エビが大量発生してるんだし、あいつも自分でなんか狩ればいい話だ」
レサンさんの扱い適当だな!
まぁ、明らかに仕切る役だったのに、飯の心配を一切してないとかおかしいが。
「ま、まぁ、ほら、草原は上の方にでたら物に当たる心配もないみたいですから……多分大丈夫だと思います……」
「ともかく、帰ってきてから、かな」
「そうですね、はっきりとしたことはそれからお願いします」
ソレナさんが、頬杖をつこうとしてやめる。
「えーと。それで、特殊商人なんだけど、アタシの方じゃぁ、どういう手続きでとか一切分からないの」
「そうなんですね……。行商人とかより審査は厳しそうですし……」
「魔術が関わるなら、本当にできるか、って部分は確かめられると思う。そこらへん、時間かかりそうだから、できるだけ早くネスマーに行ってほしい」
「はい、わかりました。そこら辺はキーやんと相談します」
「お願い」
ソレナさんが、眉間をもむ。
ん?
何か思案中?
「そうだ。空間転移だけじゃなくて、魔術空間。袋だっけ? それでも商売できるようにしてほしいの」
言い忘れたことがないか考えてたんだな。
さっきからちょくちょく語尾が「の」になるの不意打ちすぎるだろ。
疲れて素が出てるんだなー……。
「一つひとつ審査がありそうですね……」
「やることはアタシたちに見せたのと変わらないだろうし……。あぁ、でも、あれかな」
「はい?」
どれだよ。
「どうやって商売にするか、って部分は考えておいた方がいいと思う」
「どうやって……?」
どういうことだ? ざっくりしすぎてて分からない。
「アタシたちなら、空間転移は冒険者の移動に、魔術空間は魔物死骸の処理に、って利用方法を勝手に考えたけど」
そこでソレナさんの言葉が詰まる。彼女自身の中でも言いたいことがはっきりしてないようだ。言葉を探しているのか、だいぶん時間があった。
「……商人ギルドはそうはいかないんじゃないかな。誰に何を、どのくらいでどうやって売るのか……そういうことも聞かれるんじゃない?」
「あぁ……なるほど。提供サービスの詳細と、サービスのターゲット、マーケティング戦略を考えておいた方がいいってことですね……」
そんなことできるかね……俺に……。
キーやんと相談はするけど、あいつ別に人間の商売に詳しいわけじゃないんだよな。あくまでも政治系。
うーん。まぁ、とりあえず忘れないように日誌にメモしておこう。うん。
あれ……?
ソレナさん、寝た?
なんか無言なんだが。
目を開けたまま寝てても不思議じゃないしなぁ、ここのギルドの職員。
「……ともかく。できるだけ早くネスマーに行って、特殊商人の申請。お願いね」
「わかりました。キーやんと相談して、行く前にこちらに声かけますね」
「うん。わかった。そういうことで」
ソレナさんが立ち上がって、ドアに向かう。俺もその動きを遅れてなぞるように後を追った。
と、急に彼女が立ち止まった。
あー。違う。
足をもつれさせて転んだんだわ。
咄嗟に支えるが、普通にソレナさんの方が筋肉ついてて重量が。
耐えろ、俺。
耐えた。
「……大丈夫です?」
寝オチもとい失神じゃないだろうな。
「いや……悪い」
「肩を貸しますね?」
颯爽と抱き上げたら格好いいんだろうが、俺にはできません。
なんとか不器用にドアを開けて廊下へ出る。
ヘルさんがいた。
うっわ。
気まずい。
俺は別にいいよ。別に何の問題もないはずなんだよ。
ただ、ソレナさんが反射的に無言で俯く。それがヤバい。
うわー。そういう仲だったの?
ちらっと、ヘルさんを見る。
んー……。平常通り。感情を隠してるのか、何もないのか、判断できない。
「少し、気分が悪くなったようで……」
何もやましいことはないしな。とりあえずそう言っておくのが無難だろ。
「まったく、無理しやがってよ」
「……」
ソレナさんの無言が怖い。
ヘルさんは俺に代わってソレナさんを支えると、そのまま軽い動作で抱き上げた。
お姫様抱っこだぞ! かっこいいな!
なんの造作もなくできるところが、またかっこいい。
すごい、流れるようなお姫様抱っこだった。
ヘルさんに見えない角度の、ソレナさんの顔が赤く染まっている。
あー。そういう。
まさかのソレナさんの片想い。こっちも面倒そうだな。
そして、この様子じゃ、ヘルさんは微塵も気づいてない。
うっわー。
でも仕方ないよなー。育ての親がレサンさんだもんな。
色恋に関しては、12禁あたりで止まってそうだしな、あのエルフ。
ヘルさんが超鈍感でも仕方ない……。
エルフに育てられた孤児で、色恋に超鈍感とか、ひと昔前の王道主人公っぽいなー?
「どーせ、寝てねぇんだろ」
バッサリ!? そんなにバッサリ言うか、ヘルさん。超鈍感通り越して、唯我独尊だな!?
うわーちょっとびっくりした。かなりびっくりした。俺に、というか冒険者には優しいのに。あの優しさは冒険者限定なわけか?
それに対して、モゴモゴと言い訳するソレナさん。
「いやー……ヘルさんがなかなか帰ってこなかったから仕方ないんじゃないです?」
フォローしておく。ナイスフォローか、それとも二人の空気に水を刺したか分からないが。
どのみち、この場に居合わせてしまっただけで気まずいしな。
俺の渾身のフォローは、鼻を軽く鳴らしただけで躱されてしまった。
マジか。ヘルさんも疲れすぎて限界突破してますか。
「俺とヴェルツでやっとくから、ちょっと休め」
有無を言わさないその命令に、ソレナさんはすぐに反駁した。
「ダメ。依頼、また作り直さないと……」
「いいんだよ、多少雑で。気ぃ回しすぎ。預言者デル・カペルじゃあるまいし、俺らにそんな完璧な仕事なんざできるか。一週間ぐらい適当やって後から調整すりゃぁいいだろ。他なんて一ヶ月単位でやってるぜ?」
「ダメ、やらなきゃ。ヘル、離しな」
ソレナさんが弱々しく暴れる。ヘルさんはそれを楽々と押さえつけて、彼女を抱き上げたままだ。
うわーかっこいい。俺様系の気配あるけど、まぁだからこそソレナさんが惚れてるんだろうなーとも思う。
ゴリ押ししてるが、言ってることは「休めよ」って気を遣ってくれてるだけ。
恋心が入れば、「(心配してくれて)、休めと強気に言ってくれてる(Heart)」くらいまで感じなくもないだろう。
「第一な、おばはんが万全だったら、すぐに抜け出せて俺の腕固めてるだろ」
……。
……?
……ん?
ヘルさんが俺に何か声をかけて、ソレナさんを連行していった。
いや、それはいい。
それはいいが、ヘルさん、ソレナさんの扱い、それは、ないだろ……。
ソレナさん、あれ普通にヘルさんの恋愛対象外だなと思ってて身動きできない感じか……?
共同生活っぽいし、仕事激重で私事も感情に蓋状態だとそりゃメンタル瀕死状態になるわ……。
まぁ、俺にはどうにもできないが。




