旅路の風向
今日はイライジャ老と話しながら、平野を行った。
特に何もない平野だが、一応、道があるらしい。
エルフだけに見える特殊なあれかと思ったが、ところどころ草が薄くなっていたり、人の行き来が無というわけではないらしい。
レサンさんが一通り依頼の説明をする。
偵察からしなきゃならない。他の依頼と同じように形式通りに作っていたら、依頼数が半端なくなるし、現場判断ができない。
ギルド職員であるレサンさんが一括で依頼を受託した形になっている。依頼達成後にはレサンさんが報酬の受取人となるわけだが、これを俺たちに分配してくれる。その比率については、帰り道で相談らしい。
まぁ、あれよな。
田舎のギルドでしかできない方法だろうな。
そもそも、帰り道で報酬相談ってどれだけの信用がないとできないか。
いや、なんというか。老体のイライジャさんが一つも同行を渋っていないあたり、「誰かがやらなきゃいけないんだから、報酬関係なく行くしかない」というあたりか。
仕事の選り好みができないってあたりは、どこの世界の田舎も同じかなぁ。
それで、本題の空エビの倒し方については、状況把握してないからどうしようもないらしい。
加えて、襲撃場所さえ知らないから、偵察の方針も立てようがないとか。
現地の人との交渉から始まるのかよ。
冒険者の仕事じゃねぇじゃん、と思うが、そこら辺も田舎。少ない人数でやるべきことは多い。
しかし、まぁ、呑気過ぎやしないか。特にレサンさん。
イライジャ老は、鋭い質問を幾重にもレサンさんに訥々とぶつけていたが、この妖怪エルフはのらりくらりと交わしていた。
なんだ?
何か算段があるのならいいんだが。
なさそうなんだよなーこれがなー。
さて。
カーチさんに関わりたがるキーやんと、できるだけ情報を仕入れておきたい俺。
自然と、一同を先導するレサンさんと、レサンさんが気になるけど気まずいカーチさんの間にキーやんを挟むことで、落ち着いた。
その後ろから、俺はイライジャ老の手を引いていく。
いや、「肩に手を置きます?」とか聞いたんだよ、一応。なんかちょい理解されなかったので、慎重に手を引くことにした。
魔物が襲ってきたら、声だしながら行動だよなぁとか思いつつ。でも、イライジャ老もソロ冒険者だから、無用な気遣いなのかね。
キーやんに一切言及しないイライジャ老。
色々と可能性はあると思う。
視力がなくて見えてない。
見えていても、老いがみせる幻覚と判断している。
もしくは、彼はスライムを知っていて、問題にする必要性も感じていない。
会話から相当、知的な人みたいだから、最後の可能性が否定しきれない。
うーん。あれだな。どうでもいい、と思われているかもしれないしな……。
ちなみに、ちょいデカくなったキーやんは、抱き上げられなくなった。
抱き上げられる大きさは、キーやん的にスライム体重の適正範囲らしい。まぁ、それをノーマルの大きさと呼ぶことにする。
ノーマルの大きさだと地面を這っているときは、人間としては「クソ遅えよ」ってな感じ。
時々、跳ねて距離を稼ぐけれども、「いや、抱いてた方がいいわ」ってな具合で、抱き抱えるという定位置に落ち着いていた。
短い瞬間移動をバシバシ使うの、キーやん的には問題ないんだが、俺が落ち着かないからな。
で、今のちょいデカだと、這っていても人間の歩調とだいたい同じくらいなんだよな。
ちとここは要相談だよな。キーやん側の不都合とすり合わせして、街中だとちょいデカで這ってもらう必要も出てくるかもしれない。
いやでも、下が土とか石畳とかだといいが、カーペットとかだとどうなるんだこれ。
昨日ギルド行った時も、入った瞬間、床が軋んでな。キーやんと同時に動き止めて、「どうするよ?」ってなったくらいで。
相当、重いのは確かなんだよ。スライムにも適性体重とかあるのな。
ちょいデカモードのキーやんは這って動いているわけだが。
これが、また、見ていると不思議生物というか。
外側がキャタピラみたくぐるぐる回っていて、中身は動いてないっぽい。
俺の頭の上でバランスとったり、重力の扱いがうまいんだよなこいつ。
中身の濃淡が変わらずに、動く外側が反射する光だけが変わる。
見てるとクセになる感じ?
動画サイトで耐久30分とか上げたら、仕事で疲れた時とか永遠リピートしてしまいそうな。
駄目だ。ダンジョンコマンド使ってしまったせいで、思考形式がいかにウケを取るかになっているぞ。
今は、冒険者としていかに安全に依頼をこなすかだけを考えねば。
あと、空エビの調理法と、確保方法と、売りつける先……と、おい。雑念は多いが、まぁいいか。
イライジャ老と話しているとあっという間に日が暮れた。
徒歩旅の上に、平野で日光が上からくる。イライジャ老は首に巻いていたスカーフを帽子代わりにしていた。総代のスカーフもこうやって使うのかね。
俺なんか途中で王城土産のスカーフを巻いたくらいで。レサンさんは妖怪だからいいとして、カーチさん髪がほぼ黒だからな。
見かねた俺が途中で帽子をふくろから出して被せておいた。意外と自分大切にしないよな、このエルフ。
イライジャ老もいるので、休憩はこまめに。
俺はともかく水分はどこから出てくるかと思いきや、ここは便利な魔法で賄っていた。
歩いているときは言葉少なに話してくれるイライジャ老は、休憩時には目を閉じて休む。
自然と若いエルフ二人と話すことになるのだが。俺がこの世界のことを知りたいように、レサンさんも俺のことを探ってくる。
例えば、こんな感じ。
「ケンゴ、髭、生えないの?」
「あははは、いやぁ、そこら辺は魔法で……」
「便利な魔法があったものだねぇ」
「レサンさんたちは?」
「私はねぇ、毛を制御できるからねぇ」
なんだそれ、ヤベェな。じゃぁ、この世界では、俺が旅系しやすくなる加護持ってるのもそんなに不自然じゃないんじゃないか?
これは第四の世界で貰った加護だな。あそこの世界の神とはあんまり交流なかったが、そこらへんの理解と気遣いがあった……。
まぁ、召喚慣れしてるわけで、それはそれでどうなの感はあるけどな。
「僕は生えるねぇ……」
カーチさんが嫌そうに顎をさすりながらいう。
レサンさんの髪が、もっよーんって感じの動きをした。「もっ」で3cmくらい急に浮き上がり、「よーん」でゆっくりゆっくり元の場所に戻っていく。
カーチさんも男だから生えるのな。小綺麗にしているあたり、レサンさんが「え、気持ち悪い」的なことを言った過去があるのかね。
いや、どうでもいい、本当にどうでもいいんだが、それに関しては、俺。
気まずくなったところに、キーやんが「髭って何?」みたいな質問をぶっ込んできたので、なんとかその休憩の雰囲気は和やかに保たれた。
ナイス、キーやんと思うと同時に、俺はあることに気づいてしまった。
待てこれ、一ヶ月以上かかるような案件だよな。
イライジャ老も呆れて、片目を開けてみせるくらいだからな。
うわぁ。
ずっとこの空気?
ヤベェな。
もういっそこの二人をなんとか引っ付けてしまうか? 手段はさておいて。
いや、より戻したら永遠目の前でいちゃつかれるぞ……。どっちもどっちだな……。




