修羅場①
ブルエモンの冒険者も冒険者ギルド職員も一癖も二癖もあるってことはよーく分かった。
まぁ、人数が少ない分、接する密度が濃い。その分、深いところまで見えてきてしまう。
ネスマーで出会った人たちだって、なくて七癖。無個性なはずはない。
まぁ、ここの人たちはその個性を爆発させてる傾向があると思うが。
それは、個性を爆発させても受け入れてくれる土壌があるから、でもある。
あるものはなんでも使う。そうでなければ生きていけない厳しい土地、そういうことでもあるだろう。
まぁ、それはいい。
それより腹が減った。
いくら優しいヘルさんでも俺の腹減り具合など知らない。
さんざ迷った末に、ヘルさんは大男と俺を引き合わせることにしたらしい。
なんでだ……。ともかく水だけでいいから飲ませてくれ……。
ふくろから出したら不審だしな。この人たち俺を一人にしてくれないしな。
水……みず……。
「ギル、彼がさっき話していたケンゴ。しばらくはブルエモンにいると思うから」
「しばらく……」
うわー、そんなに長くいるなよってあれかな。
「あぁ、まぁ、まだFランクだから、彼は。やっていけるようになるまでは俺たちがこの町から出さんさ。それ以降は彼次第だがな」
えーちょっと、ヘルさんなんか怖いこと言ってません?
「そう……」
ギルさんはそう答え……ん?
ギルって、一昨日ギルドに着いた時にヘルさんが「ギル坊」って言ってたのと同一人物?
え?
あれだ。西洋人は歳をとって見えるあれだ。
いや本当に。よく見ると肌が若いし、全然ティーンエイジャーかもしれない。
まず長身、そして次に体格の良さが視界に入ってくるから、気づかなかったが、よく見るとイケメンだ。
ちょっと人を選ぶかもしれないが、強面タイプでモテそうな感じ。
「あぁ、ケンゴ、彼はギル。この町で一番若い冒険者だ」
「あ、そうなんですね」
んん? ヘルさんは俺のことを二十代前後と勘違いしてるんだよな。
それより若いってまぁ、ティーンエイジャーだよな。
んー見えない。全然見えない。
「ちなみにいくつなんですか?」
「今年で15」
本人が答えてくれた。
「んん?」
声が漏れてしまった。
「15になったら、Dランクになって、もっと稼ぐ」
「Dランクに。おめでとうございます」
なんかそういう、年齢制限的なのがあるんだ。Fランク登録の時に聞かれなくてよかったな。流石にへこむぞ、俺も。
「……ごめん」
「はい? いや、お気になさらず?」
なぜか急にギルに謝られたのでサラッと流しておくことにする。
なんでだ? 俺の方が謝るというか、ショバをあらしたことでシメられる流れだったのでは?
ヘルさんの立ち会いのもと、しばらく話していた。
どうやら、ギルくんは俺の世界でいう発達障害というやつらしい。
俺はよく知らないのだが、いつぞやの世界から帰ってきたら、急にまわりに「自分は〜」というやつが増えた。それで、なんとなく知っているだけなのだが。
まぁ、発達障害と言っても色々あるらしい、俺は英文字はとんと疎いから覚えてないが。
ともかく、ギルくんの特徴はヘルさんのさりげない補足で大体わかった。
日常から外れることが起こると、ちょっと、というか、かなり辛い。あらかじめ言っておいてくれると嬉しいとのこと。
で、言葉だとわからないことがある。だから、もし通じてなかったら、書いて教えて欲しい。
時々、自分でも抑えが効かないまま叫び出したり、動けなくなったりする。もし、魔物のいるところでそうなっていたら、助けなくてもいいからギルドに報告してほしい。
などなど。
そういうことらしいので、俺もキーやんのことを紹介しておく。
急に跳ねたり、飛んだり、思いの寄らない挙動をすることがあるかもしれない。
あと、絶対に口に入れないでほしい。ちぎったりとかしてはいけない。ちぎって口に入れると最悪だ。
どうなるとは言えないが。
まぁ、そんな感じで。
俺とギルくんは割と和気藹々と話せるようになった。
すると。ヘルさんがちょっと奥に行ってくるとか言い出した。
あー。レサンさんと総代のことが気になるよな。
レサンさんが長引くなら、カーチさんに伝えるべきだし。
で、そのカーチさん。
いや、カーチさんは別に特に何もせずに、じっと待ってるんだが。
キーやんの方が、なんか興味あるらしい。
怖。
なんでだ。陰の妖怪でも妖怪である限り、惹かれるものがあるのか。
いやもう。腹が減って。何が何だか。
それから、しばらくギルくんと話していた。
ただ、ギルくんのお母さんは介護が必要らしい。一人にしておくのが心配でなかなか依頼に出れていないらしい。
時間が合えば二人で依頼に行く約束もした。
キーやん?
キーやんはカーチさんに凸ったので無視で。
俺は関わりたくない。絶対に。関わらない。
レサンさんが嫌々そうにカウンターを超えてきた。
どうやら、ヘルさんに追い払われたらしい。
レサンさんは、カーチさんの方へ行く。座っているカーチさんに対して、レサンさんは座るつもりはないらしい。
立ったまま、
「それで?」
二度見した。
レサンさん、そんな声出るんだ。
感情を押し殺して押し殺して。
怖。
やっぱり、カーチさんが絡むとみんなやばくなるんじゃぁ。
その気配を感じたのかキーやんも俺の元に戻ってくる。
レサンさんの姿を確認したギルくんは帰宅するらしい。察するに俺を監視していないといけないヘルさんが、その任をギルくんに託したというところだろう。
じゃぁまたと挨拶をしあって、ギルくんは身を小さくしてドアをくぐり抜けていった。
「レサン、僕とやり直してほしいんだ」
飛び込んできた言葉に耳を疑う。
ちょっと待て。思わずその発言の主・カーチさんを見ようとした自分を押しとどめる。
みてはいけない、これは見てはいけないだろう。
「自分で、何を言っているかわかっているの? カーチ」
囁くような、でもこの夜半のギルドではどうしようもなく響いてしまうレサンさんの声。俺の耳にも漏れなく入る。
ソレナさん? ソレナさんはずっと机に向かったままだよ。
「当たり前だよ。イバンがまさか僕に嫉妬するなんて、思ってもいなかったんだ。でも、僕は彼にどう思われたっていい。レサンが大切なんだ。一度、機を逃してしまったのは、僕の責任だけれど。もう一度、僕にチャンスをくれないかレサン」
割と真っ当な口説き文句が飛び出してきた。
だが、レサンさんから発せられる気はどんどん冷めていくばかりだ。
ひえー。
これは修羅場じゃん。
今日は何もせずレサンさんと寝ているだけだったはずなのに。
飯を食いたいなど贅沢を思ったのがいけなかったのか。
「待っているだけが嫌で、こうして冒険者にもなった。僕がレサンを理解していたと思っていたのは、浅はかだったよ。今、一緒に暮らしてくれれば、間違いない。お願い、もう一回やり直して」
カーチさんが、レサンさんの手を取って跪く。
無言がその場を支配した。
気まずい。
だが、カーチさんは負けない。その気まずい沈黙の中ずっと跪いている。
どちらが先に根負けするのか。
そういう勝負になりそうだった。
負けたのはレサンさんだった。
「どうせ、ジジイどもにそう言えと言われたんでしょ。私はカーチとやり直すつもりはない。ジジイどもの子を孕んだ方がマシだね」
驚いたキーやんが、ブルリと震えた。
キーやんにこんな繊細な話はわからないだろう。
レサンさんもカーチさんも傷つけて貶める言葉。その幾分かはレサンさんの本心で、さらにそれが二人の心を抉る刃になる。
うわ。
マジで修羅場じゃん。
今日、飯食べようとしてからが、密度濃すぎて辛い。
何が辛いって、まだご飯にありつけてないことが辛い。
でも、気になる。なんとでも言え。野次馬根性上等。




