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総代④

 俺はちょっと、いやかなり後ずさった。

 総代は動じなかった。いや、咄嗟のことについていけてないだけかもしれない。

 ともかく、彼はどんな感情も外に見せず、その場で立ち止まった。


 レサンさんの髪が宙をうねる。絶好調みたいだ。

 そして、焔やら水やら氷やらビームやら、とにかくありとあらゆる魔法で何かを攻撃していらっしゃる。超強いじゃんレサンさん。

 RPGで言うとあれだな。すごい田舎町に住んでて魔法とか教えてくれる系エルフ。

 いや、冒険者ギルド職員て斬新だけどな。うん。


 ありとあらゆる攻撃が向かう先は、俺のスライム。

 キーやんも絶好調だ。跳ねて飛んで、心なしか楽しそう。お前も絶好調だな。

 ふはははとか聞こえてきそう。いやー……見た目からは分からないぞ。でも、なんか……楽しそう。

 うん。


 これ、鍛錬場という名の空き地なんだよな。でも。

 と言うことは、この戦闘、普通に近隣住民と通りすがる人たちにはバレバレなわけで。

 レサンさんがよく分からない丸いものを殴ってたら、普通に噂になるだろう。

 キーやんの存在、もう、町中に広まった、と言って差し支えなかろう。

 レサンさ〜ん。何してるの。


「レサン、どういうことかな?」

 総代が、低い声を発した。

 そんなに、大きな声ではなかった。だが、レサンさんの動きが止まるくらい、響いた。

 一斉攻撃を止めるレサンさん。そして、宙で炎をかわしたまま、次の手がこなくて、何かを避ける必要がなくなったキーやんが、すとーんと下に落下した。

 大丈夫かキーやん。

 状況わかってるか?

 まぁ、レサンさんに攻撃仕掛けてないってことは戯れてただけだよな。大きくなって食えば終わるし。


 レサンさん、なぜかキーやんを拾いに行く。

 そして、胸に抱きしめる。

 あー。不思議生物同士で意気投合したの?

 で、テンション上がっちゃたみたいな?

 俺は別にいいけど。ブルエモンの町と冒険者ギルドを預かる総代的にはちょっと許せない、みたいな?


 レサンさん、お願いって顔をしてもダメだってことが分かったらしい。

 一気に髪が萎む。

 感情豊かだなこのエルフ。普通、感情死ぬはずなんだけどな。長生きしすぎると。

 そして、とぼとぼ歩いて俺にキーやんを返しにきた。

 両手で差し出されたキーやんを、俺も両手で受け取る。

 すまん、無言だ。受け取ってから軽く会釈しておいた。


 いや、キーやんの面倒を見てくれてたレサンさんが、総代に叱られる流れだぞ。

 一応、お世話になる身としてはフォローしておいた方がいいのか?

 総代よりレサンさんの方がギルドにいそうだしな。


「あ、キーやんと遊んでくださって、ありがとうございます〜」

 なんかもっとマシなこと言えないのかよ。俺はよ。

 子供預かってもらってた親か? 子供いねーけどな。子作り的な行為もカネ払わなきゃできなくて、カネもったいなくてやめてけどよ。

 そうじゃねーんだ。


「たのしかったー」

 キーやんも俺に追従する。

 心の底から言ってるなこいつ。

 まー、よかったんじゃね。この世界の魔法の色々をキーやんが知るイベントが勝手に発生したわけだろ。

 キーやんの存在だってそのうち町人にバレるわけだし。レサンさんとガチバトルしてたって噂、全然、いいよな。実力あるってマウントにもなるはず。

 レサンさんが町中でバトってるってことは、ある程度安全なやつだってことでもあるし……。

 お? これなにも俺ら損してないんじゃね?


 総代には悪いけどな。

 ちらっと見たが、ちょっと表情読めない。目に感情が出てないと分からないわけだからな。

 でも、レサンさんの髪を鷲掴みした。

 あ、それ、ヘルさんもしてたな。レサンさん御すための自然な(?)動作なんだ。

 俺がやるのは不味かろうが、キーやんはやってもいいんじゃね? 仲良くなってたみたいだし。


「ともかく。ギルドに戻ろうか」

 総代がレサンさんの髪を引っ張りながらいう。

 レサンさんが、ちらっとこっち、キーやんを見た。あぁ。やり足りなかったのか。

 キーやんも同意見らしい。

「ありがと」

 なんか、感謝し出した。

 レサンさんもこれにはちょっと驚いたようで言葉に困る。髪の毛がちょっとバフって膨らんだの面白かった。

 感情と髪の毛、直結なんだな。


「え、えーとね」

 と、急に視線をそらし出すレサンさん。

 ん?

 なに? どうした?


 総代は相変わらず無言。

 そのまま、ギルドへの道を引き返す。

 あー。

 これだからややこしいんだよな。

 これまで関係が色々と出来上がってる所に、ぽっと俺みたいな事情の知らないのが入っていくのって。

 何が起こってるのかサッパリ分からねー。


 ちょい、また折みてキーやんと作戦会議だな。

 王国の件もどうにかしないとならねーし。

 あー。王国クーデター、俺一人でなにしろって言うんだ。キーやんもいるけど。

 そういう問題じゃねー。情報なさすぎる。敵の拠点とか、攻略法くらい教えろってんだ。


 なんて考えていると、本当にそのままの道順を辿ってギルドに戻ってきてしまった。もうちょい町の様子とか知りたいんだが、俺は。

 総代、割と無口な方なんだな。社交的に見えるんだけどな。ダンディアラフィフだからさ。

 無言のまま、レサンさんの髪を引っ張って、カウンターを越えていく。レサンさんも、髪を引っ張られて、それに続くしかない。

 本体、髪の毛なんじゃないか、あのエルフ?


 レサンさんは奥へ姿を消す前に、小さく俺たちに手を振った。俺たちじゃねーかもな。キーやんにだけかもしれない。

 キーやんはそれに応じることはない。


 んー。

 キーやん、聞こえてる?

 手を振るのってのは挨拶なんだな。今のは「またね」って意味だ。

 でも、ちょいレサンさんと外でやりあうのはまずかったかなー。


「あそんでた」

「まー、それだけだったとしてもな? 俺たちのこと、ギルドは扱いかねてるみたいだから……」

「あそぶ、だめ?」

「うん、だめ。今はだめ。明らかだめ。結局姿見られてたわけだろ? この前もさ」

「うん」

「騒ぎにならねーのが優先な。今は」

「わかった」

「よし、とにかくそれで」

「たかはし」

「どうした」

「ここ、ぎるど?」

「おう、そうだ」

「まわり、ひと、いない?」

「……いるわ」


 あーやらかした。

 いや、総代。総代よ。

 普通に、普通にギルドの正面から帰ってきたぞ俺ら。

 なんか裏口とかねーのかよ。


 カウンターにいたのは、この間にヴェルツさんと交代したのだろう、ヘルさん。その奥には、机に向かって一心不乱に書き物をしているソレナさんの姿がある。

 ヘルさんは、口をあんぐりと開けて固まっていた。

 おう。まじ申し訳ない。


 ヘルさんが対応しているのは、めっちゃ大男。振り返ってこっち見てきた目が怖い。

 「あん? 誰だよお前は?」みたいな。

 すみません、すみませんまじ許してください。


 そして、ギルドにいるのはもう一人。はぁ? カーチさんなんでここにいるの?

 いや、ワンチャン、イバンさんの方って可能性が、ないなぁ。にっこり笑って手を振ってきたからなぁ。面識ある方だ。

 うわぁ。怖。レサンさん待ちに戻ってきたの?

 やっぱり、あの、ガッツポーズを決めた瞬間の「え? まさか戻ってくるとかないよな?」と思った直感は正しかったの?

 ああああああ。今さっき、手を振るのは挨拶って教えたばかりのキーやんが、跳ねて応えちゃった。

 くそ、許してくれ? 何とは言わないが許してくれ?


 ソレナさんがひたすらペンを走らせる音だけが響いた。

 カーチさんが首を傾げる。

 お? 見えてないのか?

 キーやんが見えてないのか? それとも、未知の生物は、見なかったことになるルールなのか?

 どっちだ?

 いや、レサンさん、初対面で突いてたしな。エルフ的には未知の魔物に、そんなに物おじしないのかもしれない。

 どれだ? どれが正解だ?


 とりあえず、俺は、ヘルさんの担当だからな!

 助けてくれ、ヘルさん!


 視線を送った先。

 ヘルさんはまだ固まってた。大男に、ツンと額を叩かれてようやく我に返るヘルさん。

 そして、どうしたらいいか、迷いに迷った上、ソレナさんをふりかえる。が、無視してるレベルで熱中しているソレナさん。

 か、カオスだぁ。


 優しいV系、しかし戦闘狂なヘルさん

 ザ・筋肉、笑い上戸のヴェルツさん。

 表情が豊かな冷徹無表情なソレナさん。

 変態する妖怪エルフなママ(イケメン)、レサンさん。


 それを総括するラスボスは、レサンさんを一言で従え、無口で部下を困らしちゃうところもある、ちょっと地味目なダンディアラフィフでした。


 どうしろと、これ。


 いや、それはもう、いいよ。うん。

 それよりも、俺は腹が減ってるんだが。

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