路地裏の出来事。
外套で顔を隠した長身の男は路地裏の壁に背中を預けながら何かを頬張っていた。手に持っているそれからは湯気が出ていたため出来立ての暖かい何かだということが分かる。
長身の男の隣には小柄な少女が一緒にいた。その少女も同じように何かを頬張っている。傍から見ればそれはとてもおいしそうなのに何故そんな路地裏で食べているのかが謎だった。
少女は特別何かを話すわけでもなく、黙々と手に持っているそれを頬張りときよりポーチから水筒を取り出し流し込んでいる。
どうやら少女は猫舌のようだ。
この少女は猫舌のくせに食べ物は温かいものが食べたいという、そんなところがある。隣に立つ怪しげな男はそれに苦笑し、自分の水筒を手渡していた。
少女は嬉しいのか照れているのかそんな表情で水筒を受け取り、自分のポーチへと仕舞った。
で、話は冒頭へと戻るのだが、なぜこんな場所で何かを食べているかと言えば通行人が多すぎて休む場所がないというのと何より今日は暑かった。
少しでも日陰で休みたい気分だったのだ。
年に一度行われる強さを競う大会のおかげでここ王都は大いに賑わっており人が濁流のごとく入り乱れている。それに剣舞祭に合わせ勇者のお披露目をするということで大通りは道の真ん中を除き人がすれ違う幅はないといってもいいくらい混雑している。
そんなわけであまり人のいない路地裏で休んでいたのだが、いらぬ誤解を生んだようだ。
「そこのお前何をしているっ!」
少女は日差しの暑さと食べ物の熱さのせいか顔を少し赤めており、その横に怪しげな男がいては誤解を生んでもおかしくはないのだが、それにしてもと男は項垂れる。
「……聞いているのか」
頭の固そうな兵士は怪しげな男に問う。ここで身分証明書でも提示出来ていれば何の問題も……たぶん注意程度で済んだのだろうが男は生憎とそれを持っていない。性格には持っているが携帯していない。一部荷物を城の中において来てしまっているためどうしたものかと困っていると先に少女が動いた。
「はい、これ」
少女は身分証明書を兵士に提示すると爽やかな笑顔でもう大丈夫なんてことを言っている。
「そこの男、お前は?」
これは本当に困った。男はどうしたものかと考えているとやはり少女が動く。
「その人はわたしのお兄ちゃん。だから問題ない、それでもだめならルルリアさんに確認するといい」
ルルリアという名前を聞いた兵士は何かに気付いたのか顔が青ざめていた。
その様子を見たのか見ていないのかは分からないが男がフードを外すとフードで隠れていた銀髪が出現し兵士はさらに青ざめる。
「も、もしかしてケルト殿でいらっしゃいますか?」
先日、訓練所で勇者を圧倒したと話題の銀髪のダークエルフがいるという話は末端の兵士まで届いている。それにルルリアと親しいことも話に出ていたため巡回をしていた兵士は顔を青ざめている。
「身分を証明出来ず申し訳ありません、ですがその通り俺はケルト・シエルハイムです。この場で証明することが出来ないので詰所まで一緒に同行しますが?」
「い、いえ、とんでもございません!卿の顔を見たことがなかったもので……どうして、外套を?」
「この姿はどうしても目立ってしまうので……それに人が多いところが少し苦手でここで休んでいたんですよ。すみませんいらぬ誤解をさせてしまったようで」
「そ、そちらのお嬢さんは卿の妹さんで?」
「妹兼弟子です。妹といってもそのように接しているだけで血のつながりがあるわけではありませんが……」
「はぁ……なるほど。わかりました、一応警備をしているとはいえ路地裏は危険ですのでどうかなるべく大通りのほうを行かれるようお願い申し上げます。卿に関しては大丈夫だとは思いますがそれでも危険がありますので、自分はこれで」
そういうと兵士はまた巡回へと戻っていた。
「ケルトお兄ちゃんも有名になったね」
「俺としては無名のほうが嬉しいんだけどね」
そういって手に持っていた食べ物の残りを一気に口に入れ飲み込んだ。
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