闘技場と武芸者。その一
王都で一番大きい娯楽施設は、と質問すれば大抵の人間は闘技場と答えるだろう。その闘技場へと近付くと人々の歓声だけで大地が揺れている。
その建物に近づけば近づくだけそれを肌で感じる。
「祭りを思い出すね、お兄ちゃん」
「まあ、これもお祭りだからね。由緒正しい伝統らしいよ、王立図書館で資料を見たから間違いないよ」
「お兄ちゃん、いつの間に」
「せっかく王都にいてそれも王女様に招待されてるんだから図書館に行っても何も言われなかったしね、というか言ったら怒られるだろうね司書さん」
相手の行動を読むことに長けているというかあざといというか少女の目の前に立つ顔を隠した男はケラケラと笑っている。たぶん性格が悪いんだと思いながらも二人は目的の闘技場へと来ていた。
「初代王様はここで優勝したっていう話らしいけど、それはどうなんだろうね」
「ルルリアさんか、お姫様に聞いたら?あのひとたちなら知ってると思うよ」
「ルルリアさんは知っている可能性は低いね、彼女そういうものに興味なさそうだし。あの人は良くも悪くも本能に忠実だから」
ここ数日、暇そうにしていたルルリアからこの国の成り立ちやその他諸々を聞こうとしていたのだが、話にのってくるのは大体決まって治癒術かこの近辺のおいしい食べ物屋のことだけでそれ以外はからっきしだった。
よくそれで近衛騎士をやっているものだと不思議に思うが近衛騎士になれる資格は戦闘技術だけではないのかもしれないと結論づけることでそれ以外ケルトは特に追及することもなく、その代わりに治癒術の系統について詳しく聞いていた。
ルルリアは人に物事を教えるのが苦手のようで要領を得ず、ルルリアからそれなりに治癒術に詳しい人間を呼んでもらい講義を受けていた。
治癒術自体、ケルトが使用することはできない。それが種族的な特性であり呪いみたいなもの。使用することが出来ずとも錬金術に応用できることがあるかもしれないとケルトはルルリアが呼んできた人間から必至にその理論を習った。
錬金術でも治癒術を応用したものはケルトには扱うのが難しい。それでもケルトがそれを習っていたのは弟子であるティアに教えるためだった。
それならティア自身がその人から習えば早いのだが、ティアは頑なに学ぼうとはせず師はケルトだけで十分ということだった。
ケルト自身も新しい知識が増やせるということで積極的に師事していたため、特に問題になることはなかった。
しいて問題になるというか問題になりかけたのは巫女の存在だろうか。
ケルトが同じ治癒術を習っている巫女との交流がティアと第二王女であるグレイフィアが気に入らなかったのかたまに授業に乱入してきたことだろうか。
それはさておき王国の治癒術は無事理論を完璧に把握したケルトはすることがなくなり、グレイフィアにケルトが知っている異国の物語を聞かせたり、これからどんなことをしていきたいかなどそんなことを話したり、平穏な数日を過ごし楽しみにしていた剣舞祭までこう言ってはあれだが、暇つぶしをしていた。
ケルトが暇つぶしと思っているかはこの際にどうでもいい。これは勇者視点から見たケルトがそんな様子だったというだけの話で傍から見たらそんな感じにも見えていたというだけの話なのだ。
「お兄ちゃん、剣舞祭って何するの?」
「簡単に言えば、王都にはいくつもの武芸を極めようとする家があるからそのお披露目だったり、外から来た実力ある人たちがそれを披露するための場所でもあるんだ。で、実力が認められれば国王から声が掛かるかもしれないし、貴族の私兵として雇ってもらえるかもしれないし、いろいろと利益が出るからね」
「そうなんだ……お兄ちゃんが出ないのは、やっぱり目立っちゃうから?」
「そうだね、見た目もそうだし実力者がいればそれなりに戦うことになるから、そうなれば俺の戦い方は魅せる戦い方とは違うからね」
「魅せる?」
「要はきれいじゃないから。武芸は突き詰めて行けば作品に例えられることがあるくらいだし、俺のそれはちょっと違うから」
「ふーん」
ティアは興味がなくなったのかポーチからチケットを取り出しそれを係員に渡した。
いつも読んでくださってありがとうございます。




