王女と錬金術師。その一
「グレイフィア様、体調は?」
ケルトは心配そうに尋ねる。
「ケルト様のおかげで、もうだいぶ良くなりました」
「そうですか、それは何よりです」
するとグレイフィアがケルトの頬にわずかな傷があることに気付く。それを治そうとルルリアに声を掛けようとするがケルトに止められる。
「ケルト様?」
「すみません、傷を治してもらわなくても大丈夫ですよ。というより俺には回復魔法は効きませんし、少し休めばすぐに治ります」
「ケルト様が怪我をしたときは誰も治せないと?」
悲しそうな顔をするグレイフィアに笑いかける。
「たしかに、ダークエルフを治せる治癒師はいませんが俺の弟子は優秀ですから、今はだめでもいつか種族関係なしに治せる術者になると思います」
「きっとなって見せます、王女様。だから泣かないで」
ティアはその小さな体ではっきりと宣言した。
「王国一、いえ世界一の術者になってみせます」
「頑張って、ケルト様は命の恩人。失いたくない人……」
「王女様それって」
「なんでもないよ、ティアちゃん。ティアちゃんもケルト様のことが大好きなんだね」
そういって笑った顔は、どこかのお姫様のようでというより本物のお姫様なのだが、とても綺麗だった。
息が絶え絶えになっている勇者の元には巫女が駆け出し、治癒術を使っている光景が目に入る。
周囲にいた兵士たちは勇者に勝ったケルトを見て畏怖している様子が。
当の本人であるケルトは頭を掻きながら、これからどうしようかやや困惑していた。
「ケルト様?」
怪訝そうにケルトの顔を覗き込むグレイフィアに苦笑しながら、
「なんでもありませんよ。勇者にはこの世界のことどこまで話しているんですか?」
「どこまで?」
「メルフィア様が話しているから問題ないと思うっすよ」
それに反論するかのように老人が口を開く。
「そうかのう?竜胆という男は何も聞いていない様子じゃったよ。それゆえ竜胆というあの男はひとりで出て行ったのではないかの?丁寧に召喚の際に術式を自分で解除していたくらいだからの」
「随分と出来る人間なのですね、その竜胆という勇者の同類は」
「純粋な才能で言えば、勇者殿なぞ足元にも及ばんよ。それは勇者殿も分かっていることじゃろうし、何よりあのものを頼りにしておる様子じゃから」
「……俺の方でも探してみます」
「それには及ばんよ、錬金術師殿。もとはといえばわしらのせいじゃからな、おんしは気にせず王都を満喫するがよい」
それだけ伝えると老人は勇者のもとへと歩いていった。
「あの老人はただものではないですね」
「ケルケルの言う通り、只者じゃないっすよ。あのじじい……じゃなかったあの老人は。それよりもグレイフィア様の離宮に案内するっす」
グレイフィアはルルリアの言葉に頷くと、ケルトの腕をとる。
「行きましょう、ケルト様」
その様子を後ろで見ていたティアは可愛らしく頬を膨らませながら、後ろをついていった。
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