勇者VS錬金術師。その三
「魔法ってそんなこともできるんですね、僕らからしてみればうらやましい限りです、そんなに自在に使えて」
ケルトは耳を貸すことなく、自分の意識から不必要なものを全て排除する。
勇者の黄金の剣からは膨大な魔力が放たれており、剣の周囲だけ魔力濃度が異常なまでに高められ本来視認の難しい魔力が具現化するほどまで高められたそれは甲高い音とともに空気そのものを切り裂いている。
「勇者の使う剣というよりは、覇者が持つ剣ってイメージだ。だが、その剣から感じる性質は光か……聖剣の類だな」
完全に意識を戦闘状態に切り替えたケルトの口調はいつもより荒れているように感じられるが、様子見ていたティアはあれが本当のケルトなんだろうと感じていた。
いつもどこか申し訳なそうに他人を気遣うケルトの様子は傍から見ればいいやつとか優しいやつとか思いやりのあるやつだって思われがちだが、ケルトがやってきてずっと一緒にいるティアにはケルトの本質はむしろ戦うことにあると幼いながらに感じていた。
幼いとはいえ、女だ。
女の感ってやつは怖い。女の感ひとつで壊れてしまった計画なんてものは歴史を解けばかなりの数事例がある。
だからこそ計画的に何かをやるときは一切女性を近づけさせないなんてことをしている組織も未だあるという話だ。
そんなことはさておき、ケルト・シエルハイムという人間の本質は魔族に近い。魔族の血が半分流れているのだから当たり前といえばそうなのだが。
魔族は光を苦手とし、戦闘を何よりも好む。
光の性質を持つ聖剣を見れば肌を焼かれるような感覚が襲う。
今、ケルトが感じている苛立ちは聖剣を目の前にしているから、と同時に内心戦闘に飢えていたところもある。
だからこそ。
「いいぜ、見せてやるよ。勇者」
ボウガンを片手に、放つボトルに細工をする。
地面を蹴り、勇者との間合いを一気に詰める。
☆
「ケルケル、あれは意味わかんないっす」
ボウガンの優位性である遠距離からの攻撃を捨て間合いを詰める意味がルルリアには分からなかった。隣で様子を見ていたミヤビにもそれは分からなかったし、それは勇者たちの近くで見ている兵士たちも同じだろう。
「あのボウガンは近距離専用の術式が編んでいるみたい、お兄ちゃんは最初から近距離で戦うみたいだね」
「それだとボウガンにした意味ないね、君のお兄さんは何がしたいんだろうね」
☆
「どうして、間合いを」
勇者は疑問を感じながらも近づいてくる相手に剣を向ける。剣を構えればあとは剣が教えてくれる。どうすれば身体が動くのか、どうすれば相手の攻撃に対処できるのか。すべては剣が教えてくれる。
「剣に任せていては対処できることに限度があるぞ、勇者」
ケルトは走りながらボウガンに装填してある矢を連続で天井と地面に向かて放つ。ケルト自身はそのまま直進し、ボウガンに魔力を流す。
「さっき見た光が、ボウガンから……またあの形を変える魔法」
ケルトが持っていたボウガンはその形を変え、長剣に変化する。
「形を変える魔法じゃない。錬金術っていう分野だ、勇者」
ケルトはそう言ってにやりと笑った。
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