到着前夜。
「ひ、姫様。リンドウ様がいらっしゃいません!!」
宮廷内使用人の声が響く。
深夜だということがわからないのか、二十歳直前の姫はそんな悪態をつぶやきながら、使用人たちが叫んでいたことを思い出す。
リンドウがいない。
リンドウがいない。
頭の中でその言葉を数度反復しているうちにまだ睡眠を欲している頭が覚醒の方向へ向かうと言葉の重要さに気づく。
「リンドウ様がいない!!それはどういうこと?」
肌を直接露出はしていないものの、あまりにも薄い生地で作られたネグリジェは男の兵士、もしくは使用人には見せられないと判断したメイドはすぐさま服を着るように進言した。
「それどころではないのです。彼は勇者ではないとはいえ、勇者様と同等かそれ以上のお力を持っているのです。それが私たちの管理を離れるということは……」
姫は何かを続けようとしてやめる。
おそらく姫殿下は管理を離れるのは危険だといいたいのだろう。だけどそれはおこがましいにもほどがある。とメイドは口に出すことはしない。
それを言ってしまえば事実であるが故に冗談では済まされなくなり、不敬罪で処罰されるのがオチだということを知っているからだ。
死ぬなら嫁入りしてから死にたいと思う目の前のメイドには姫に進言することはない。
とはいえ。
「姫様、伝説にもある勇者をまるで物や野獣であるかのようにいうのはやめていただきたい」
小心者のメイドと違い、その隣に立つ老メイドは小心者のメイドが思っていたことを躊躇うことなく告げる。
「私はそんなことを思ってはいない、メイド長」
「メルフィア様はとても素直な方です。これでも貴女様が生まれたときからお世話をしているのです。故に」
「故に考えがわかると。ふふふ、メイド長恐れ入った。けれど国や民を救うには勇者様に頼るしかもうあとがないのだ!」
「それはわかっております。そのこと自体を責めているのではありません。あと、口調を」
メイド長に言われ、普段の口調に戻っていることに気付き深呼吸をする。メルフィアは大臣や勇者、そして妹の前ではなるべくお淑やかに振る舞おうとするところがある。というよりも王妃からそう教育されている。
第一王女として姫らしさというのが何より大事らしい。
一応騎士としての修業をしていたせいか崩した口調のほうが話やすい。
「では、メイド長。あまり大事にはせずリンドウ様を見つけるよう尽力してください。力が必要であれば”影”を使っても構いません」
「かしこまりました。行きますよ」
メイド長の隣で完全に委縮してしまっているメイドを連れて部屋を出た。
「あの、リンドウ様が……」
完全に目が覚めてしまったメルフィアは窓辺に近寄り、そこから見える月を見た。
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