行商人と錬金術師。その二
「そちらさんはふつうの術者とは違うようだ」
紙を手に取り状態を確認しているケルトに対して行商人は告げる。
「ま、ふつうとは確かに違いますね。別に呪符系の術に優れているわけでもありませんので」
「その割には随分良質なもんを分かっていらっしゃる。よくうちの店を利用する顧客は魔導紙というだけでとくに選びもせず買うのに、それを買わずときた」
「確かに魔導紙は術式補助には便利ですね。よく儀式魔法なんかで使われてますし、何かと便利なのは確かなんですが、いささか調整が効かないんですよ」
「旦那は名の知れた魔導士と見た。どうだい、良ければ名前でも」
ケルトは苦笑しながら、
「別に名乗るほどのものではありませんよ、しがない田舎者です」
なるほどなるほどと楽しそうに次から次へと商品を並べる行商人。
「それにしても中々の博識ぶりですな、えー確かケルト殿で?」
「会話を聞いていたのであれば俺がそう呼ばれていることくらい把握していそうなものですが、わざわざ聞くあたり商人魂というわけですか」
「顧客のことをなるべく理解するのがうちの方針なもので。中にはお怒りになる方もいらっしゃいますが、悪いことだとは思ってませんので、はい」
おそらくこれは彼なりの商法なのだろう。顧客の本質を知るための。買い物をする際にはそれなりに情報を与えることがあると昔誰かが言っていたが、確かにそうなのかもしれない。
たとえケルトが無言で買い物をしていたとしてもおそらく妥協はしないし、自分の知識の中からよりいいものを選ぼうとする。
その行為一つにしてもケルトがそれだけの知識を有していることが分かるし、それから生じるであろう行動から妥協できないもしくはこだわりのある人間だということが分かれば、その道に通じた専門家だということわかる。
目の前も商人はきっとそういった観察眼を有しているのだろう。
ケルトは内心感心した。
「改めて名乗らせていただきますと、ハイド・マルリアと申します」
「商会の主人ですか?」
「近い親戚で」
「それにしても御者をやっていたときとは口調にわずかな違いあることにちょっと驚いてるんですけど、それも何かの商法で?」
「何分うちは敵が多いもので、探りを入れたりするのに口調や声質を変えることは意外にもよくあることなのです」
御者をしていたときのハイドは商人というよりも小間使いという印象がややあったが、今のハイドからは一流の商人という雰囲気が溢れ出ている。
商人がどうしてそこまで演技派なのかはさておき、王都にはいろいろな人がいるものだとケルトの後ろでひそかに好奇心をそそられるティアだった。
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