行商人と錬金術師。その一
着々と評価される喜びを感じる今日この頃の木偶です。
「あんちゃんら、王都まで何用で?」
気の良さそうな御者がそんなこと尋ねる。一つ前の村で王都に荷届けに行くという行商人に頼み込んで一緒に向かっているフードを被った男は風で羽織っている外套を靡かせながら、
「見物ですよ」
「なるほど、あんちゃんらは剣舞祭が目当てなのか」
シェルベア王国以外からも選りすぐりの強者たちがこの祭に集まることは行商人なら知っていて当然の情報だ。
「それに勇者が閲覧されると聞いたもので、実際のところ分かりませんがそれだけでも行く価値はありますよ」
「お兄ちゃん、勇者様来るの?」
「らしいね」
御者は二人の関係を知らないが、小柄な少女がフードを被った男を兄と呼んでいるのだからきっと兄妹だろうとそれ以上詮索することなく、視線を前に戻し馬の制御に戻る。
「それよりも王都までどれくらいで到着出来そうですか?」
「そうだね、あと半日も掛からずに到着できると思うな。あとは山賊が出ないことを祈るばかりだけど」
「山賊ですか」
「こういう式典があると人が王都に集まるから、やつらにしたら絶好の機会だろうよ」
二人が出発した辺境のガルムも山賊やら魔物やらよくないものはよく出るが、それはどこにいても同じらしいと二人は感じていた。
「それにしても行商人と名乗るだけのことはありますね」
青年と少女が乗っている荷台の他に何台かの荷台が連結されておりその荷台には大量の商品が山のようにある。
「うちはそれなりにでかい商会なんだよ。王都でマルリア商会と言ったら一番の商会だからよ。なんでも扱ってますぜ」
「今ここで、紙を購入したいんですが」
「紙?」
「ええ」
少女は黙って二人の会話を聞いている。
「どういう紙がご要望で?」
「材質にこだわりはありません。安い紙でそれなりに丈夫なのであれば」
「わかりやした。ただ、もう少しで一旦休憩にしますんでそんときに」
「それで結構です」
行商人兼御者は再び馬の操作へ戻る。
「ところで、ケルトお兄ちゃん。どうして紙なの?」
「俺があげた羽ペン持ってる?」
「うん。インクもちゃんとあるよ」
小柄な少女は背負った鞄からその二つを取り出す。
「王都に到着するまでにティアの装備の補給をしておきたいからね。ガルムを出てからだいぶ消費したでしょ」
「式札は半分ってところ」
鞄からインクで何やら複雑な模様を描いた紙の束を取り出す。
「何があるかわからないから速式の術札はあったに越したことはないからね。睡眠や食事でもそうだけでやれるときにやっておいたほうが最高の状態を維持出来るからね」
「わかった」
それからしばらくして馬車は見晴らしのいい丘で止まり、行商人はケルトと話していた紙を用意し始まる。
「そちらのお嬢さんが術者ということで」
用意されたのはふつうの紙とは違い、どれも魔力を通しやすい魔導紙と呼ばれる少し変わった紙だった
「また、珍しいものを持ってますね」
「それがうちらの仕事ですんで」
そのほかにも様々な種類の紙があるところを見るとどうやら顧客の要望にいかに応えるかを考えられた商会だということがよくわかる。
路銀と相談しつつ品定めするケルトだった。
いつも読んでくださってありがとうございます。




