竜胆という青年とじいさん。
竜胆視点でお送りします。
「……噂では聞いてたけど、ほんとにあるとは。能力者なんてもんがいるんだから異世界くらいでは驚かないつもりだったんだけどな」
小言で何やら呟いている無精髭の男の視線の先には毎日行われている訓練の様子がそこにあった。
統率が取れているのか、全員が同じ動きを反復して行っている。部隊ごとに分かれているのかは定かではないが、この男が見る限りでは大きく三つの部隊があるように見えた。
一つはひたすら剣や槍を型にそって流している、今は二人一組で試合形式をしているようだが、主に武術をメインとして使う部隊。
一つは本や杖を片手に何やら叫んでいる部隊。
一つはでかい羽の生えたトカゲに跨り空中を駆け回っている部隊。
「……あれ、ドラゴンってやつか。あーファンタジーしてるね、俺も人のこと言えないけど」
中でもこの男の目を引いたのはドラゴンではなく、本や杖を持って何かを叫んでいる部隊。
いわゆる、魔法部隊と呼ばれる部隊だ。
「つうか、あれは原理がよくわからん。エレメントを使ってんのか?にしてはエレメント反応が微妙なんだよなぁ……別の力が働いているようにしか見えん」
能力者はよほどの力でない限りはエレメントつまり自然の力に干渉し、強引にその力を使うことの出来る人たちの総称だ。
水系統の使い手であれば当然海や川など大量に水のあるところではかなりの力を発揮する。
一流の使い手になればそんなの空気中の水分だけで事足りるのだが、それは置いておくとして。
そんなことを考えていると不意に誰かに声を掛けられる。竜胆にとって最も驚く瞬間だった。
「おんし、魔法を見たことがないって顔しておるのぅ」
「っ!!じいさん、いつの間に」
気配を感じることもなく、竜胆の隣には不思議な気迫を纏った老人がいた。
「ほっほっほ、おんしもまだまだじゃな。あのひよっこに比べればまだマシかの」
「ひよっこ?」
「勇者じゃよ。あれではこの世界を救うなぞ、できん。鍛えれば魔王の一体くらいは倒せるじゃろうて、じゃがそれでは……」
竜胆にとって目の前の老人の発言を聞き逃すことは出来なかった。
「待て、じいさん。魔王の一体だと───だとすると魔王は何体もいるのか?」
「おんし、異界の人間じゃったな。そうじゃよ、魔王とは人間でいう貴族みたいなもんじゃ。魔国領に住んでおる自身の領土を持った、つまり力のある魔族を魔王と呼んでおるんじゃ。今の若いのはそれすら知らんがの」
「今何体の魔王がいるんだ?」
「細かい数までは知らん、わしは魔族ではないからの。ただ有力な魔王なら確か、七体だったはずじゃよ。じゃが、魔王序列一位の大罪の魔王は行方不明って話じゃ」
「そいつは強いのか?」
爺さんは何かを考え込むようしぐさのあとにこう続ける。
「そうじゃのぅ、例えるなら生まれたての赤子が世界相手に戦うくらいの戦力の違いかのぅ」
「それは……どうようもないな。そんなやつがどうして行方不明なんかに」
「流石に預かり知らんだ」
「ところで爺さん何者だ?」
「そういえば名乗っとらんの。わしはバルトル伯爵と呼ばれおるもんじゃよ」
伯爵と聞いて流石に頭を下げる竜胆。
「気にしとらんよ。伯爵なんて名ばかりじゃからの」
バルトルは豪快に笑いながら兵士たちの訓練の様子を眺めた。
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